お屋敷へ!
翌日、ヴァージニアとマシューは一応綺麗な格好をして一旦ギルドに向かった。
そしてそこでマシューはジェイコブから色々と教えてもらった。
ジェイコブはマシューに魔法の他に礼儀作法も教えてくれた。
「魔法は問題ないだろうが、言葉遣いには気を付けるんだぞ。相手の機嫌損ねたら何を言い出すか分からないからな」
報酬をなくされたり、この地に住めなくなったり、他にも色々考えられる。
お金持ちは権力も持っているので、これくらいは容易い。
「子どもの言葉遣いに何か言うかもしれないなんて頭カチカチなのかな?」
「そういうのも言ってはならない」
ジェイコブに叱られると、マシューはやる気のなさそうに返事した。
坊ちゃんの家族だからこの態度なのだろう。
「そろそろ時間だから、ジェイコブから送るよ」
「頼む」
ヴァージニア達は依頼主のいる町に行った。
屋敷は町の入り口からも見える位置にあるので迷わずに済んだ。
「おっきな家だね」
門の前でマシューは屋敷を見上げていた。
ヴァージニアも子どもだったら彼と同じようにしていただろう。
(学園都市の研究所ほどではないけど立派な建物だね)
そんな二人に構わず、ジェイコブは呼び鈴を鳴らした。
ベルの音も普段聞かないような綺麗な音がした。
「お待ちしておりました。そのまま真っ直ぐお進みください」
人の姿は見えないのに何処からか声がした。
マシューは最初は驚いていたが、門の柱に魔導具を見つけたようだ。
「あそこから声がするよ」
「声がするだけじゃなく、あそこから見られているんだ」
「へぇ~」
これだけ大きな屋敷ならこれくらいの防犯地策は行われているだろう。
三人は門が開いたので、そのまま屋敷に向かって歩きだした。
するとすぐに隅々まで手入れされた庭が現れた。
植木も動物の形にカットされている。
「馬に角が生えてるよ」
「ユニコーンだよ」
「あっちは羽が生えてるよ」
「ペガサスだね」
これらの植木は坊ちゃんのためにあるのだろう。
どちらもこの世にいるらしいが、ヴァージニアは実物を見たことがなかった。
他にも色々な生き物に切られている植木を見ながら、屋敷の正面玄関に向かった。
「あれ?」
その正面玄関から女性が歩いてくるのが見えた。
かなり派手な格好をしているので、どう見ても使用人ではないと思われる。
(うわぁ、絵に描いたような散財してそうな人だ……)
女性が身に付けているのは確実に高級品で、ブランド物にあまり興味を持っていないヴァージニアですら知っているマークがあった。
女性も彼女の視線に気付いたらしく、三人に近づいて来た。
(うっ、香水が……)
嫌な匂いではないが、相当つけているらしく離れていても鼻を攻撃してくる。
女性はそんなのお構いなしにヴァージニア達の目の前に来た。
「ねぇあなた達、あの子を治しに来てくれた人でしょう?」
「ええ、そうです」
「よろしくね~」
女性はこれだけ言って門へ歩いて行った。
彼女は坊ちゃんがどのように治療されるのか見届けずに、これから外出するのだろう。
(今のは母親とされている人……?実の子じゃなかったらこんなものなの?)
ヴァージニアが疑問に思っていたら、今度は屋敷の陰から男性の声がした。
「おーい!待ってくれー!」
男性は女性に向かって手を振っている。
彼は女性と違って派手ではないが、身に付けているものはかなり品質が良さそうだ。
「早くしないと置いていくよー!」
「待ってくれよー」
男性は女性に急かされ、彼女の所まで駆けていった。
彼は綺麗に整えられた芝生を容赦なく踏んづけている。
「はぁ、追いついた。……ん?誰だ、あの人達」
男性もヴァージニア達に気付いたようだ。
まさかこの人は坊ちゃんの父親だろうか。
「あの子を治しに来てくれた人なんだって」
「へぇ、そうなんだ。ま、よろしく頼むよ-!」
ヴァージニアはあまりにも淡泊な言葉に驚くしかなかった。
彼女は彼らの背中を見送りながら、モヤモヤとした感情になっていた。
(心配しているふりも出来ないのか……)
「二人ともあっさりしてるね」
ヴァージニアは思わず不満を口にしてした。
「んー今の人達は親じゃないんじゃない?オーラ、似てなかったしさ」
「え?女の人はともかく、男の人も?」
坊ちゃんと赤の他人があんな高級品に身を包んで屋敷の敷地内にいるだろうか。
「……ちょっと待ってくれ。二人とも何を言っているんだ?」
ヴァージニアはジェイコブに坊ちゃんの本当の母親は使用人の女性だと伝えた。
「俺は少年を見ていないから分からないが、さっきの男女は二人とも少年のオーラに似ていなかったんだな?」
先ほどの二人は何者なのだろうか。
「うん。全然違ったよ。伯父さんや伯母さんでもないと思うよ」
どちらかが伯父や伯母だったら坊ちゃんと血が繋がっているのでオーラが似ているはずだ。
なので似ていないとなると血縁関係がないという事になる。
「……。まぁ今のは忘れて仕事に集中しよう」
二人はジェイコブの指示に従い、一旦忘れることにした。
屋敷内に入ると使用人達に大変歓迎され、すぐに坊ちゃんがいる部屋に案内された。
部屋に行くまでの廊下もお金がかかっているような装飾が随所に見られた。
ここまでお金持ちだとは思っていなかったので、ヴァージニアはただただ驚いている。
「旦那様お連れいたしました」
こう言ったのはギルドに依頼に来た代理の男性だ。
玄関からずっと案内してくれたのだ。
ドアが開くと白髪交じりで髭を蓄えている男性が椅子から立ち上がった。
「ああっ!よく来て下さいました!」
この人は坊ちゃんの祖父で依頼主だろう。
近くには以前ヴァージニア達が小学校で出会った使用人がいた。
彼女は今にも倒れそうなほど憔悴していた。
彼女が産みの親なのだから無理もないだろう。
ヴァージニアが使用人の心中を考えていたら、マシューがじっと依頼主を見ているのが視界に入った。
「貴方がお父さんですか?」
そしてマシューは挨拶もまだなのにとんでもない事を言ったのだ。
依頼主の頭髪は白髪の方が多いし、顔には深い皺もある。
どう見ても坊ちゃんの祖父だろう。
「ちょ、マシュー!」
ヴァージニアがマシューに何を言っているのだと言おうとした。
しかし、依頼主はぎょっとした顔になっていたので、ヴァージニアは自分に聞き取れるだけの小さな声で驚愕の声を上げた。
「……」
室内の全員が沈黙した。
もし、突拍子もない発言だったらこうはならない。
「マシュー、何を言っているの?すみません。ははは……」
ヴァージニアの笑い声は虚しく消えていった。
ジェイコブに助けを求め視線を向けたが、ヴァージニアは無視された。
「……マシュー君と言ったかな?どうしてそんな風に思ったのかな?」
「僕はオーラが見えるんです。ジェイコブだって見えてるんでしょう?」
巻き込まれたジェイコブは顔をしかめた。
「オーガスト君のオーラは今見えにくくなっているので判断つかないな」
「嘘はよくないよ。弱いけど、ちゃんと見えているよ」
「はぁ……」
ジェイコブは大きなため息をつき、状況を整理した。
坊ちゃんの戸籍上の祖父が本当の父親で、母親は目の前にいる使用人の女性なのだ。
だが、戸籍上の父と母は別の人になっているのだそうだ。
おそらく先ほど出会った二人だろう。
「オーラが見えるとなると、倅についても知ってしまいましたか」
やはり先ほど見かけた男性は依頼主の息子で合っていたらしい。
しかし依頼主の息子ならば、坊ちゃんとは兄弟なのでオーラが似ていないとおかしい。
(奥さんの連れ子なら、こんなに重い空気にはならないはずだよね……)
ヴァージニアは変な汗をかいた。
お坊ちゃんの魔力欠乏症を治しに来ただけなのに、話はおかしな方に進んでいる。
「あの男の人はおじさんと他人ですよね。けど、そこのお姉さんとはオーラが似ています」
マシューはベッドの脇に立っている女性を見た。
服装からして使用人ではないようだ。
「あの、さっきから全然状況が飲み込めなくて……。兄は父とは血が繋がっていない?けど私とは血が繋がっている?」
「お姉さんはおじさんとオーラが似ているよ」
ということは、この女性は先ほどの男性と異父兄妹なのだろう。
「それとオーガストは甥っ子だと思っていたけど、本当は年の離れた弟なのね?どっちも初耳なのだけど……」
「すまない。いずれ話そうとは思っていたんだ……」
彼女はお坊ちゃんの戸籍上の叔母さんだそうだが、実は姉のようだ。
(ややこしい!)
「あのっ!依頼内容の確認をしましょうか。魔力欠乏症の治療でしたよね?」
ヴァージニアは無理矢理笑顔を作ったが、変な汗をかいている。
「ええ、そうでございます!どうぞどうぞこちらに!」
代理の男性も重たい空気を払うために必死だ。
男性に促されるままに、ヴァージニア達はお坊ちゃんのベッドの横に移動した。
(わぁ……これはかなり悪いね……)
ベッドに寝かされている坊ちゃんは以前の面影はなく、すっかり痩せてしまっている。
パジャマを着せられているが、痩せてしまったのでサイズが合っていないし、当然ながら顔色もよろしくないし、呼吸も荒く苦しそうだった。
「魔力を注げばいいんだよね」
マシューは気にもせず淡々としている。
「ああ、さっき言った通りにな」
「うん」
マシューはお坊ちゃんの胸の上30cmに手を置いた。
その後はヴァージニアにはよく分からなかったが、ジェイコブの合図でマシューが魔力の操作をしているのが感じ取れた。
一同が固唾を呑んで見守っていると、何分か何十分か経過した時にジェイコブから一際大きい声が聞こえた。
「よし!もういい!」
魔力を入れる容器の穴が塞がったようだ。
「そのままゆっくりと魔力を注げ。半分くらいまで入れるんだ」
「半分でいいの?」
「ああ。その後は自力で回復出来るだろう。もう大丈夫だ」
皆から歓声が聞こえてきた。
依頼主と使用人の女性は涙を流していた。
ジェイコブはとんでもない事に巻き込まれた!




