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とうめいの願い!


 翌朝、ヴァージニアとマシューはとうめいに会いに牧場に行った。

 とうめいはマシューの姿を見るなり柵を跳び越えて彼に抱きついた。

 いつもならマシューが柵内に手を入れるまで待っているので、もしかしたらとうめいはマシューが倒れたのを察知していたのかもしれない。


「とうめーい!ふふふっ!」


 現在、とうめいはマシューの力によって変形している。

 元の丸い姿が想像出来ないほどだ。


「……!」


 それでもとうめいはとても楽しそうである。

 自分の形が変形しすぎていても気にしないくらい嬉しそうだ。

 二人の間に割って入るわけにはいかないので、ヴァージニアは他のスライム達を見た。


「皆、おはよう」


 ヴァージニアはマシューととうめいの様子を見に来た他のスライム達に挨拶しておいた。

 すると皆はとうめいが普段やるように手のような突起を作りヴァージニアに向かって合図していた。

 といっても少し膨れたぐらいだが、ヴァージニアと意思疎通が出来た。


「皆上手だね」


 スライム達はぽよんとだけ震えた。

 ありがとうとでも言ったのだろうか。


「……!……!」

「わわっ!ジニー!とうめいが何か言ってるよ!」

「えー?」


 ヴァージニアがマシュー達を見てみると、マシューの両腕に乗っているとうめいが必死にアピールしていた。

 自分の方がもっと上手く出来ると言っているようだ。


「とうめいも上手に出来るのは知ってるよ」

「……!!」


 まだとうめいは必死に何かをアピールしている。

 どうやら誉めて欲しいようだ。


「良い先生がいるから皆上手なんだね」

「!!!」


 とうめいは誉められたので威張り始めた。

 ふんぞり返っている。


「んー、凄いねー。皆と仲良くして偉いねー」


 ヴァージニアは威張るなと遠回しに言ってみた。


「……!!」

「とうめいは友達と仲良くしてる?」


 マシューの言葉にスライム達は先ほどと同じくぽよんと震えた。

 肯定しているようだ。


「そっか、仲良くしてるんだね。よかった」


 マシューはとうめいを柵の中に戻した。

 とうめいはまだマシューと遊びたかったようで、少々残念そうだ。


「僕は石さん達と牛さん達に会いに行くから、とうめいはここで待っててね」


 こう言ってマシューは走り去っていった。

 身体強化されているので速い。

 あっという間に彼の姿が見えなくなった。


「そのうち戻って来るよ」

「……!」


 ヴァージニアはすることがないので、とうめい達を見ていることにした。

 とうめいもヴァージニアは残るのだと分かり、何をするのか様子を窺っている。


「……とうめいはマシューに何かあったって分かったの?」

「!!」


 とうめいはマシューに何があったのか知りたがっているようだ。

 ヴァージニアはマシューが魔法を使いすぎて倒れてしまったと伝えた。

 するととうめいとスライム達は安心した様子を見せた。


「そうだったのですか……」

「ええ、そうなんですよ……。……え?」


 とうめいが喋るはずない。

 ヴァージニアが驚いて声がした方を見ると、キラキラと輝く物が見えた。


「お久しぶりですね、人間さん」


 空中に綺麗な妖精がいた。

 今日はださい妖精はいないようだ。

 ちゃんと牢屋の中にいるのだろう。


「また会えるとは思っていませんでした」

「二度あることは三度ある、ですよ。……丸い魔物さん達おはようございます」

「……!」


 とうめい達は初めて妖精を見たようでとても驚いている。

 そんなのはお構いなしに綺麗な妖精はとうめい達に近づいた。


「皆さんすべすべしてそうですね。それともツルツルなんでしょうか?」

「なかなか良い弾力ですよ」


 何度でもいくらでも突きたくなる感触だ。


「そうなんですか?どなたか触らせていただけますか?」


 綺麗な妖精の問いかけに、とうめいがビシッと手を挙げて名乗り出た。

 他のスライム達は初めて見る妖精に興味はあるものの近づけずにいるらしく、少し離れた場所に移動した。


「では、失礼しますね。……お、柔らかくもなく硬くもなく、ちょうどいいですね。寝心地が良さそうですね」


 綺麗な妖精は触るだけではなく、とうめいの上に横になった。

 妖精の背丈だとミディアムサイズのスライムは大きめのベッドぐらいの大きさになる。


「おおっ、素晴らしい寝心地です。妖精の国に丸い魔物さんがいたら争奪戦になりそうですね」

(いいなぁ……)


 ヴァージニアは綺麗な妖精があまりにも気持ちよさそうに寝るので羨ましかった。

 実はヴァージニアはスライムがクッションに良さそうだと思っていたからだ。


「……ああ、本当に寝てしまいそうですので、これくらいにしましょう」


 綺麗な妖精はとうめいの上から退いたが、名残惜しそうな顔をしている。

 なんなら丸い魔物ことスライムを連れて帰りたそうだ。


「はぁ、残念ですがここまでにしましょう。それでは人間さん、丸い魔物さんごきげんよう」


 綺麗な妖精は本当に残念そうだったが、笑顔で何処かへ飛び去っていった。


(あ、何しに来たのか聞きそびれた……)


 何の用事もなく人間の居場所に来るとは思えない。

 ただの散歩な訳はない。


(マシューの様子を……?いや、そんなまさか……)


 ヴァージニアが腕を組んで考えていると、とうめいが飛び跳ねているのが視界に入った。

 こっちを見ろと言っているようだ。


「どうしたの?……んん?」


 とうめいの体には輪っか状の模様が浮かび上がっている。


「えっ……なんだろう?」


 ヴァージニアはよく分からなかったので、その輪っかの中を突いてみた。

 何度か突いていたら、とうめいから違うと意思表示された。

 一歩下がってブルブル震えられたのだ。


「違うのかぁ。……ん?」


 次に、とうめいがしたのは輪っかを一生懸命に動かすことだ。

 輪っかを閉じたり広げたりしている。


「えー、なんだぁ?……あ!」


 ヴァージニアには魚が水面に撒かれた餌を食べているように見えた。

 なので彼女は良さげな草を毟って、とうめいに近づけた。


「これでいい?」

「……」


 とうめいは草をもぐもぐと食べ始めた。

 お腹が減っていたのか、草はすぐに消えていった。


「これも食べる?」

「……!」


 ヴァージニアが他の草もとうめいにあげると、これもすぐになくなった。

 やはりお腹が空いていたようだ。

 しかし、柵の中にも草は生えている。

 柵外の草が食べたかっただけだろうか。


「……!!」


 ヴァージニアがさらに野草を引き抜こうとしたら、とうめいが大きく跳ねた。


「え?」


 草を散々食べたくせに違ったようだ。

 とうめいは草を催促したのではなかったらしく、体を震わせて怒っている。


(ノリツッコミ……?)

「違うんだ。えー……じゃあなんだろう?」


 とうめいは輪っかを何度も動かしている。

 慣れてきたのか輪っかを色んな形に変えている。


「んー、それは……口で合ってる?」

「!」


 どうやら合っているらしい。


「口で食べる以外にするのは、喋る……」

「!」


 これが正解のようだ。

 とうめいは何度も飛び跳ねた。


「喋る……。とうめいは喋りたいの?」

「!」

「そっか。それで輪を作ってたのか」


 輪っかは口のつもりだったのだ。

 ヴァージニアは最初ピンポイントで突けと言っているかと思った。


「……!……!」

「どうやって喋っているのか教えてって言ってるのかな?」


 ヴァージニアはとうめいに人間がどうやって喋っているのかを教えた。

 唇だけ動かしても声は出せないのを伝えると、とうめいはショックを受けたようで、綺麗な丸から潰れた丸になってしまった。


「舌とか、後は喉の奥に声帯っていうのがあるんだよ」

「……?」


 ヴァージニアはとうめいに舌を見せ、声帯は喉の奥にあるので見せられないと言った。

 とうめいはがっかりしすぎているのか、あまり反応はなかった。


「テレパシーで私達と話すとかはどう?」

「?」


 ヴァージニアはとうめいにテレパシーについて教えたが、いまいち理解していないようだ。


「今、とうめいは喋れなくて残念だなって思っているでしょう?それが身振り手振りしなくても伝わるんだよ」

「……!」


 とうめいはテレパシーを教えて欲しいようだ。

 いつもの丸い形に戻り、生やした突起でペシペシと空中を叩いている。


「あの、ごめん。知らないんだ……」

「!!」


 とうめいは再び潰れた。

 他のスライム達はとうめいを慰めようと周囲に集まっている。

 皆はとうめいが喋りたいのを知っていたのだろう。


「文字を覚えるとかは?これなら体に文字を浮かべれば会話出来るんじゃないかな?」

「……」


 現実的ではなかったようで、とうめいは興味を示さない。

 体に円を描くのも大変そうだったので無理もない。

 それに出来たとしても体に浮かべられる文字数は少なそうだ。


「記号とか、はいといいえだけでも覚えるとかはどう?」


 ヴァージニアは地面に疑問符や感嘆符を書いて、とうめいにどういった場面で使うか教えた。


「…………」


 とうめいは疑問符を作るのに苦戦している。

 他のスライム達も真似しだした。


「感嘆符の方が楽じゃないかな……」

「!」


 とうめいは見事に棒と点を作り出した。

 他のスライムも成功している個体がいる。


「その調子だよ。後ね、言いにくいんだけど、疑問符は反転しちゃってるよ」


 ハンコのようになってしまっているので、ヴァージニアはこれもとうめい達に説明した。


「逆に書けばいいのかな?」


 ヴァージニアが疑問符を反転して書いてあげると、とうめい達は納得したようだ。



 とうめい達は疑問符と感嘆符を覚えた!

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