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食費が!


 ヴァージニアは牧場に戻り、すぐに手紙を中年男性に渡しに研究所に行った。

 牧場に併設されている研究所内にはあれこれ騒がしい球体はいないので、ヴァージニアはドキドキしないで済んだ。


「検査の報告書です」

「ああ、すまんな」


 中年男性との会話はこれだけで終わり、ヴァージニアはマシューを探しに行った。




 ヴァージニアが牛舎を覗くとマシューの姿は見当たらなかった。

 彼は小さいので何処かの陰にいるのかと思い、ヴァージニアは念入りにあちこち見てみたが見つからない。

 もうブラッシングの仕事は終わって別の場所に移動したようだ。


「マシュー君なら案内所にいますよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 牛舎の人にマシューの居場所を教えてもらい、ヴァージニアは案内所に向かった。

 おそらくと言うか絶対にマシューは貰ったお駄賃でソフトクリームを食べたことだろう。

 一応貯金はしているらしいが、芋料理も買っているのであまり貯まっていないようだ。


「マシューはいますか?」

「いますよ~」


 案内所の女性が示した先にはマシューがソファーで横になっていた。


「疲れて眠っちゃったみたいですね~」

「そうでしたか。迎えに来るのが遅くなってしまいすみません」

「マシュー君はお利口さんだから問題ないですよ~」


 案内所の女性は微笑んでいる。


「食べたソフトクリームは1つだけですか?」

「はい。2つめは阻止しましたよ~」


 マシューは自分で稼いだお金なのでいくつでも食べていいと思っている節がある。

 ヴァージニアは金銭の問題ではなく体調管理の問題なので口を酸っぱくして注意しているのだが、マシューはソフトクリームの誘惑に負けていつも購入してしまう。


「はぁ……やっぱり食べようとしたんですね」

「ジニーが来ないからもう1つ!って言ってましたよ~。可愛いですね~」


 案内所の女性はマシューの真似をしながら言った。


「どんな理由だよ……」

「お腹空いたんですかね~。バゲットサンドを食べたはずなんですけどね~。ふふふ~」


 ソフトクリーム代はマシューが払うが、お昼代はヴァージニアが彼に持たせたものだ。

 マシューが食べているのを思い浮かべたら、ヴァージニアはまだ昼食をとっていなかったのを思い出した。


(マシューを起こす前に何か食べようかな……)

「彼は食いしん坊なんですよ。……あの、まだ何か食べ物は売っていますかね?」

「ヴァージニアさんはお昼まだなんですね~。ランチは残っていないと思いますが、パンなら残っていると思いますよ~」


 ランチは牧場内のレストランで数量限定で販売されており、パンは案内所の隣で近所のパン屋が出張販売しているのだ。

 ヴァージニアは今までに何回かパンを買っているので、何が残っているのか想像した。


「教えてくださり、ありがとうございます」

「いえいえ~。マシュー君の様子は私が見ておくのでゆっくり食べてください~」

「ありがとうございます」




 ヴァージニアはパン売り場に移動すると、数は少ないがいくつかパンが残っているのが見えた。

 中には前に買ったことがあるのもあった。


「いらっしゃい」

「よかった。まだ残ってるんですね」

「おう、まだ何個かあるよ」


 今日の販売員は何度も会っているパン屋のおじさんだ。

 おじさんの前には食パンがあり、隣に瓶詰めされたバターが置いてある。


(野菜売り場にドレッシングが置いてあるやつみたいだね)


 ヴァージニアはチラリとバターを見た後、本来の目的のパン達を見た。


(ベーコンエピパンは美味しいけど歯茎を攻撃してくるからなぁ……)


 ベーコンエピパンは麦の穂形を模している先端部分がなかなかの凶器である。

 ヴァージニアは今まで何回か涙している。


(気を付けて食べればいいか。後は……ハチャプリって何だろ?卵が乗ってる……)


 ハチャプリなるパンはアーモンド型をしているが、卵の黄身が乗っているので目のようにも見える。


(気になるなら買えばいいのさ)

「ベーコンエピパンとハチャプリをください」

「はいよ~。今からお昼かい?マシュー君なら野菜食べなきゃって言ってバゲットサンドを買っていったよ」


 二人はすっかり顔と名前を覚えられている。


「3つも買ったからてっきりヴァージニアちゃんのも買ったんだと思ったんだがなぁ?」


 パン屋のおじさんはパンを袋に詰めながら首を傾げている。


「え、何もなかったですよ?」


 マシューのまわりにはそれらしき荷物はなかった。


「3つも食べたのか。すごいなぁ。まだ小さいのになぁ。うちのは少し大きめなんだけどなぁ」

「えー……」


 まさかバゲットサンドを3つも買っていたとはヴァージニアは考えもしなかった。

 残りの2つは自分の財布から出したのだろう。

 どうりでお金が貯まらないはずだ。


「そうだ。他にもアップルパイとデニッシュも買ってたよ。これも全部食べたんだね。いやぁ、すごいなぁ」


 これではお金が貯まるはずがない。

 貯まるわけがない。


「そうでしたか……。教えてくださりありがとうございます……」


 ヴァージニアはパンの代金を払い、パンを持って案内所に戻った。




「お帰りなさい~。レンジを使いますか~?」

「いいんですか?」

「温かい方が美味しいですからね~」


 案内所の女性の言葉に甘えてヴァージニアはレンジを借りた。

 これでベーコンエピパンも少し柔らかくなり、歯茎を傷付ける可能性が減るだろう。


(いい匂いがする)


 ヴァージニアは温まったパンを持ってテーブルのところに着席した。

 正面のソファーではマシューが寝息を立てて寝ている。

 よく見るととうめいがマシューの体を支えていた。


「……」


 ヴァージニアはとうめいをじっと見つめると、とうめいも彼女を見るかのように体を捻った。

 どこに目があるのか分からないが、今ヴァージニアに向いている方に目があるのだと思われる。


「……!」


 今のはおそらく任せろ!と言っているのだろう。

 とうめいは小さな突起を生やしてビシリとポーズを決めた。


「すーすー」


 マシューは寝相が悪いのでベッドより幅が狭いソファーだと確実に落ちる。

 ヴァージニアはお行儀良く寝ていると思っていたが、こんなからくりがあったとは気付かなかった。

 どうやら、とうめいはズレたタオルケットもかけ直してあげているようだ。

 任せろと言っているだけある。


「いただきます」


 ヴァージニアはマシューが起きないうちにさっさと食事を済ませようと思った。

 匂いで起きかねないので尚更急がねばならない。

 ヴァージニアはハチャプリから口にした。

 このパンはチーズがふんだんに使われているようだ。


(このチーズはここの乳牛の乳から作ったのかな?今度チーズを買ってみようかな?)


 ヴァージニアは次にベーコンエピパンを手に取り、麦の穂部分をちぎり先端部分に気を付けながらかじりついた。


(歯ごたえがすごい……)


 ヴァージニアは良く噛んで食べた。

 最近見かけるのは柔らかい食べ物ばかりなので、たまには固い食べ物もいいだろう。

 ヴァージニアが咀嚼に励んでいると、マシューがむにゃむにゃ言い出した。


「ん……もう食べられない……んふふ……」


 マシューはパンの匂いに気付いたようで、にやにやしながら寝言を言っている。


(相変わらずベタな寝言だなぁ……)


 マシューは起きていないようなので、ヴァージニアは食べ続けた。


(夕飯は野菜を多めに食べよう。マシューはちゃんと食べたみたいだから、私だけ多めにしよう)


 ヴァージニアは順調に食べ進み、最後の一口を入れた。

 彼女が何度ももぐもぐと口を動かしていたら、マシューが目を覚ました。


「んあっジニーだ!お帰りぃ!」


 マシューは半分目を閉じた状態、典型的な寝ぼけ眼で言った。

 そんな彼を見たヴァージニアはパンを飲み込んでから返事をした。


「ただいま」

「……んー、いい匂いがする」


 マシューはパンの残り香を嗅いだようだ。

 気になるのかまだクンクンとしている。


「僕のは?」

「ないよ。これは私のお昼ご飯だもの。マシューは沢山食べてんでしょう?」

「えー、成長期だからもっと食べたいよー」


 マシューは何かにつけて成長期をアピールする。


「食べ過ぎだよ。。甘いのも買ったんでしょう?」


 マシューの昼食の内容は聞いただけで胃もたれがしそうな内容だった。


「えー、だってアップルパイとデニッシュはおやつでしょう?お昼ごはんじゃないよ」


 マシューは甘い物は別腹のようだ。


「うちはお金ないんだよ。マシュー……」


 このままこの牧場で働き続けたらいつか赤字になるのではないだろうか。


「むむむ、ブラッシングの値上げをするしかないのか……」

「出費を減らせばいいんだよ」


 牧場は今でも十分な金額は払ってくれているのだ。


「えー、ヤダよ減らせないよ。だってお腹空くんだもん……」

「そっか……」


 ヴァージニアはどうしたものかと首を捻った。


「体を動かすからお腹が空いちゃうんですよね」

「アリッサさん……」


 アリッサはまだ帰っていなかったようだ。

 ブラッドはアリッサの影の中なのか建物の外にいるのか姿が見当たらない。


「だけど、体を動かさないとブラッシング出来ないよ」

「それなんだけどね、オーラでのコーティングをブラシに定着させればいいんじゃないかな?。それぞれの属性をやらないといけないから道具の数が増えちゃうけど、それなら他の人がやっても上手くいくと思うよ」


 それだと毛並みはよくなるが、牛達の健康は悪くならないが良くもならない。


(元気になれ、っておまじないもかけておけばいいのかな?)

「ここで使っているブラシと同じ物を買ってそれに定着させればいいんですかね」


 同じ物なのは牛達が嫌がるかもしれないからだ。

 ブラシを買うのはそれはそれで出費になるが、週3回のマシューの疲労は抑えられるだろう。

 そうすれば彼の食費も減らせるかもしれない。


「牧場側も週に何回もマシュー君に報酬を払うより属性のコーティングが定着されたブラシの購入の方が安く済むかもしれませんので、承諾してくれるかもしれませんよ」

「困るとしたらブラシ置き場ですかね?」


 全属性分あったらかなり嵩張るだろう。


「ふふっ、そうですね」

「ねぇねぇ、オーラの定着ってどうやるの?」


 ただオーラで包めば良いわけではなさそうだ。


「エミリーなら知っていると思うから帰ったら聞いてみるね」

「やったぁ!」


 マシューなら教えてもらえばすぐに出来るだろうし、彼ならすぐでなくても何回かやれば習得可能なはずだ。




 とうめいはマシューのよだれを拭いた!

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