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牧場!


 ヴァージニア達は建物の出入り口前に到着した。

 ここは見学者の受付をしているようで、案内が出ている。


(社会科見学とかで来るのかな?それとも観光?)


 ヴァージニアは自身が子どもの頃に何処かの施設を見に行ったのを思い出した。


(あそこは薬草類を栽培してたね)


 マシューは建物の中を覗いているが、誰もいないようだ。


「むじんだ!ぶようじんだ!」

「そうだね。危ないね」


 ヴァージニアは何故マシューが興奮気味に言っているのか気になった。


「こ、こんなところにとうめいをあずけていいの?」

(ああ、なるほど……)


 マシューは顔を青くしている。

 どうやら、彼はとうめいを心配しているらしい。


「防犯用の魔法はかかってるんじゃない?」

「ためしてみよう……」


 マシューは訝しげな目つきでキョロキョロと室内を伺っている。


「ちょ、やめてよ」


 ヴァージニアはマシューを止めたが、彼は真剣な顔をして何かを試そうとしている。

 一体、何をするつもりなのだろうか。


「よし、どろぼうだぞー。ぬすみにきたぞー」

「えっ」


 泥棒は自分で泥棒とは言わないだろうし、盗みに来たとも言わないだろう。


「どろぼうだぞー。ぬすんじゃうぞー」

「マシュー、やめてってば」


 ヴァージニアが壁掛け時計を見てみると、8時まで数分ある。

 それなら担当者が不在なのも頷ける。


「なんのはんのうもない。ダメじゃないか」


 マシューは不満なのかムスッとしている。


「不審者に思われてないのかも」

「ふしんしゃだぞー。ふしんしゃがきたぞー」


 美少年の不審者が誕生してしまった。

 ヴァージニアはこんなの見たくなかった。


「マシュー、それじゃあ本当に不審者だよ……。やめてよ……」


 ヴァージニアがため息をついた時だった。


「おはようございます」


 後ろから男性の声がした。


「ひゃあっ!」


 マシューは驚いて飛び上がった。

 コメディのお手本かのように綺麗に飛び上がった。

 マシューの手元にいるとうめいも驚いているようだ。


「おはようございます」

「ティモシーさんのお知り合いの方ですね。ヴァージニアさんとマシュー君ですよね」


 ティモシーと言うのは、牧場を教えてくれた若い男性の名前のようだ。


「そうです」

「そうだよ……」


 男性はマシューが持っているとうめいに気付くと、じっと見つめた。


「おおっ、グリーンスライムですね。よく見つけましたねぇ」


 男性は興味深げにとうめいを観察している。


「……どこにいたかはおしえないよ」

「ははは、保護されているのを知っているんだね。偉いね。申し遅れました。私はグリーンと言います」


 グリーンは二人にお辞儀をした。


(覚えやすい名前だ)

「よろしくお願いします」


 ヴァージニア達はお辞儀をした。


「ではご案内しますね」


 ヴァージニア達はグリーンについて行き建物の前から離れた。

 少し歩くと、目的の場所が見えてきた。


「スライムの区画はここですね」

「わっ!いっぱいいる!」


 丸い透明の魔物が沢山いた。


「ここはグリーンスライムとブルースライムがいます」

「2種類一緒なんですか?」

「この種類は喧嘩しませんので一緒にしているんです」


 青色と緑色の魔物はのんびりくつろいでいるように見える。

 朝だから寝ぼけているのかもしれない。


「みんな、とうめいよりちいさいね」

「いやーだから、とうめいが大きくなったんだって」


 ヴァージニアは確信している。

 一晩でとうめいが急成長したと。


「……!!」


 とうめいは自分以外のスライムを見たからか、興奮しているらしい。

 嬉しいのか驚いているのかは不明だ。


「そうですよね。大きいですよね。スモールサイズだと聞いていたので変だと思ったんです」

「スモールサイズ?」

「ええ、ティモシーさんからはスモールグリーンスライムだと言われたんですよ。今私達の目の前に来ているのがスモールサイズですよ」


 小さいスライム達は新入りを見に来たらしい。


「とうめいはなにサイズ?」

「この大きさだとミディアムです」


 とうめいはミディアムグリーンスライムのようだ。


「ってことはラージもいるんですか?」

「いますよ。その上がグレート、さらに上がマウンテンです」


 ミディアムと言いつつ、真ん中の大きさではないらしい。

 上の二つは後から足されたとかだろうか。


「マウンテン……」

「本当に山ぐらいあるとか。ですが、一つの個体ではない可能性があるという説があります」

「沢山くっついて大きくなったんですか?」

「くっつくの?」


 ヴァージニアはいくつかくっついたら消えそうだと思った。

 何故そう思ったかは不明である。


「くっつきますね。見知らぬスライムがいると思ったら2匹がくっついていた事があります」

「なんでくっつくの?なかよしなの?」

「どうでしょうね。仲は悪くないと思いますね」


 スライムでも嫌いな相手とは一緒にいたくないだろう。


「くっついた後ってどうなるんですか?元に戻るのですか?」

「ええ、元通りになりますよ」


 マウンテンスライムが複数の集合体なら、離れるときは周囲はスライムまみれになりそうだ。


「じゃあ、とうめいがだれかとくっついても、はなれるんだね!」

「……!」


 とうめいはうんうんと頷いている。

 ただ丸いのではなく、少しくびれが出来て頭と胴体のようになっていた。


「ん?待って、とうめいってこんな事出来たっけ?」


 震えはしていたと思うが、明確に頷いたと分かるような動きはしていなかった。


「この子は随分と自己主張がしっかりしてますよね」


 グリーンは興味津々なようで目が輝いている。


「……!」


 とうめいは小さな突起を生やし、手のような物を作った。

 すごいだろ、と言っているように見える。


「とうめいはあたまがいいから、なんでもできるんだよ」

「それは素晴らしい!……ところで、マシュー君がとうめいと名付けたのかな?」

「そうだよ」


 マシューはふふふと笑顔だ。


「名付けちゃったかぁ……」


 グリーンはマシューとは対照的に困り笑顔になっていた。

 何やら問題が発生しているようだ。


「もしかして駄目でしたか?」

「マシュー君ほどの高い魔力を持った人が魔物を名付けると、その魔物は他の同種類の魔物より力を持つんです。これは魔獣も同じですね。そうですか。名前をつけちゃいましたか……」

「まずいですか?」

「うーん、とうめい君は攻撃的ではなく穏やかな性格のようなので問題ないでしょう。たまに強いからと他の個体をいじめるのがいるんです」


 何処にでも嫌な奴はいるものだなとヴァージニアは顔を歪ませた。


「とうめい、みんなとなかよくするんだよ」

「……!!」


 どうやら、とうめいは大丈夫と言っているようだ。


「うっ……みんなど、ながよぐ……うぐぅ」


 マシューは堰を切ったように泣き出し、彼の涙はとうめいの上に落ちた。


「マシュー……」

「げんぎでねぇっ」

「……!」


 とうめいはマシューの涙を拭いている。

 というより吸収している。


「うーん、もしかして昨日もとうめい君はマシュー君の涙を摂取しました?」

「しましたね……」


 多分だが、顔から出る物は全て摂取したのではないかと考えられる。


「スライムからしたら魔力が高いマシュー君の涙は栄養豊富な食料でしょうねぇ。なので一晩で大きくなったのでしょう」


 ヴァージニアはそんな気がしていたので、やはりと思った。


「もしこれから毎日摂取していたら、あっという間にグレート種になっていたかもしれませんね。あくまで想像なんですけど」

「ちなみにグレートってどのくらいになるんですか?」

「そうですね、馬ぐらいなら簡単に飲み込めるでしょうかね?いやもっとかな……?」


 グリーンは唸りながら首を捻った。


「……うわぁ」

「とうめい君はグリーンスライムなので食べても巨木でしょうね」


 とうめいは食欲旺盛のようなので何本もの木を食べそうだ。

 そうしたら林や森がいくつもなくなりそうだ。


「あの、食害が起きて森や田畑がなくなったりは……」

「実はあるんですよ。今は数が少なくなって保護されていますが、昔はグリーンスライムによる食害が酷かったそうです。なので数も減らせて、健康や美容にも使えて一石二鳥だということで乱獲が起きてしまったんです」


 乱獲については昨日ティモシーにも教えてもらったが、食害については聞いていなかったのでヴァージニアはゾッとした。


「怪我の治療で使われていたなら、一人一匹でなくても一家に一匹とかしそうですよね。なのに困るほどの被害が起きてしまったんですか?」


 ヴァージニアはグリーンスライムのような便利な魔物なら人間の手で管理されていたのでないかと考えた。

 それにスモールサイズなら大きな被害は出なさそうだとも思った。


「はい、各地で起きていたそうですよ。便利なので繁殖させたんですが、一部が逃げだしてしまったんです。今ほど結界の魔導具が発達していなかったせいですね。それで逃げたスライムが倍々に増えていって……」


 野生に戻ったグリーンスライム達は食べ物を求めて色んな植物を食べ尽くしたのだろう。

 人に育てられて良い物を食べて育った為、偏食家になったものもいるかもしれない。


「うわぁ……」


 ヴァージニアはそこかしこにスライムが大量にいる光景を想像して小さく悲鳴を上げた。




 ヴァージニアはスライムまみれの世界を想像した!

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