学習能力!
グリーンとヴァージニアが会話をしている間、とうめいはマシューの手元から離れ、牧場のスライム達に挨拶をしていた。
マシューがとうめい達を見守る中、とうめいは新入りなのにも関わらず、この中で一番大きいのでふんぞり返って偉そうにしてしまった。
「とうめい、ダメだよ。みんなとなかよくするんだよ、っていったでしょ。だれかをバカにしちゃダメなんだよ。でないと、ともだちいなくなっちゃうよ」
「……!」
とうめいはマシュー言葉にハッしたらしい。
すぐに他のスライム達に頭(?)を下げていた。
「んぐぅっ、なかよぐっ、うう~」
「マシュー偉いね。ちゃんと注意出来たんだね」
「うんっ……」
マシューはヴァージニアの鳩尾に顔を埋め、顔をぐりぐりと擦りつけている。
(これは!涙と鼻水を拭かれているっ?!)
ヴァージニアの服はマシューのようにお高い服ではないので汚れてもいいが、流石に鼻水は嫌だった。
いや、本当はどんな汚れも良くはないが、百歩譲ってマシューの服が汚れるよりかはよいのでヴァージニアはぐっと堪えた。
彼女は堪えながら笑顔を作り、とうめいに話しかけた。
「とうめい~、みんなと仲良く元気に暮らすんだよ~」
「!」
とうめいは手のような突起と作り、分かったと合図した。
「会話が成立してますねぇ。研究したいですねぇ。ミディアム種からこんなに多彩な動きをするなんて初めて見ましたよ」
グリーンはフフフと笑った。
とうめいを見つめながら笑った。
完全に獲物を見つけた目つきで笑った。
「!!」
とうめいは怯えているが、反応するとグリーンが喜ぶので我慢して静止しているようだ。
「どうめいはっ、がじごいがらっ!ううう~」
「そうだね~、賢いね~」
マシューの涙はヴァージニアの服にしっかりと染みこんで、ヴァージニアの皮膚にも到達していた。
(私って肌着を着てたよね?!)
「すみません、お邪魔ですよね。そろそろ帰りますね~」
ヴァージニアは着替えたかった。
「他の所も見て行ってください」
「みるっ!」
マシューは他の区画も見たいらしい。
「えっ、帰らないの?」
ヴァージニアが言うとマシューはヴァージニアの鳩尾から顔を離して涙を腕で拭った。
「とうめいといっしょにくらすスライムをみなきゃ」
ヴァージニアは目の前にいるだろうと言いたかった。
「スライム以外もいますよ」
ここは牧場と研究所が併設しているので、多種多様な魔物がいるのだろう。
「なにがいるの?」
「小型から中型の魔物や魔獣ですよ。色んなのがいて面白いですよ」
グリーンに案内され、別の区画に移動した。
ヴァージニアの鳩尾は湿っていたので、魔法で乾かした。
しかし、マシューの鼻水でカピカピしている。
(トイレで着替えようかな?あっ、さっきの受付所にあったよ。あああ……)
今いる場所からだと距離があるので、ヴァージニアは着替えるのを諦めた。
「いしがあるね」
「本当だねー」
確かに石ころがいくつか転がっている。
道ではなく、区切られた中にあった。
何がいるのか分からず、見るのに飽きてきたとき異変が起きた。
「わー!うごいたー!」
「この子達は石の下級の精霊だと言われていますが、はっきりとは分かっていません」
「へぇぇえ」
石をよく見ると針金で作ったような小さな足のような物が見えた。
「このまま成長するのか、それとも成れの果てなのか不明なんだそうです」
「ふぅうん」
「成れの果てって、ゴーレムとかもっと大きな岩っぽい魔物のですか?」
ヴァージニアは他に岩や土関係の魔物を知らない。
成れの果てと言うくらいなら、元々は大きな力を持っていたのだろう。
「らしいですよ」
「ゴーレムっておっきいやつだ!きみたちもおおきくなるの?」
石ころ達はマシューに近寄って来た。
「マシュー、ゴーレムは生まれた時からゴーレムらしいよ」
「ジニーはみたの?ゴーレムのこども」
マシューは少し目つきが悪くなり、唇を尖らせている。
「見てないけど……」
そもそも何から生まれるのかもヴァージニアは知らない。
「でしょう?……きっとみんなおおきくなるよ」
石ころ達はマシューを見ているようだ。
スライムと同じように目はないが、体の傾き加減からして見ているだろうと思われる。
(あれ?グリーンさんが何かを期待した眼差しをしている……。まさか!)
「よぉし!いまからきみたちはゴーとレーとムーと、ゴレとレムだ!」
マシューは石ころを順番に指さして命名していった。
(名付けが雑!……じゃなくて!)
「マシュー!勝手に名前つけちゃダメだって!」
ヴァージニアはグリーンにも注意してもらおうと彼を見た。
(あ……)
グリーンは嬉しそうに手帳に文字を書き連ねていた。
恐らく石ころ達の特徴と名前を書いているものと思われる。
マシューに期待の眼差し向けていただけはある。
「あ!まだいた!」
騒ぎを聞きつけたのか、草や丸太の後ろから別の石ころ達が出て来た。
「よし、きみたちはゴゴとレレとムムね!」
(ええー、ゴーとレーとムーとごっちゃになるよー。雑だよー)
マシューは合計8匹の下級の精霊に名前をつけてしまった。
「ふふふ、いいですねぇ。全部に名付けてしまったので名無しとの比較が出来ませんが、この子達が何になるのか楽しみですよ。担当の者に伝えたらさぞかし驚くでしょうね。ふふふふふ……」
グリーンはそれはとても幸せそうに笑いながら言った。
この後も色々な魔物や魔獣を見てまわり、マシューはずっと感心していた。
牧場内を大体見て回れたので案内所に戻ってきたら、来たときには気付かなかった物が見えた。
見えてしまった。
「ジニー!ソフトクリームってなに?」
「マシュー、見つけちゃったか……」
牧場には絶対にある魅惑の食べ物をマシューは発見してしまった。
ヴァージニアはスライムなどの小型の魔物しかいないと思っていたので油断していた。
まさか牛の魔獣がいるとは思わなかったのだ。
「なに?おいしいの?」
こういう所のソフトクリームはいい値段するのだ。
マシューは虹色の目を輝かせて、頬を赤くさせている。
「お金ないから買わないよ」
「えー」
ヴァージニアだって食べたいが、食費や家賃や光熱費を考えると買えない。
彼女が何とか説得しようと悩んでいたら、有り難い言葉が聞こえてきた。
「よろしければ、私に奢らせてください」
グリーンはニッコリと笑いながら言った。
「ありがとうございます。助かります」
もしマシューに食べさせなかったら、家に帰っても文句を言っていただろう。
「やったー!ねぇねぇ、ミックスってなに?」
「2種類の味を楽しめるんだよ」
1つ分の値段で2つの味が楽しめるお得なやつだ。
「じゃあ、ぼくミックスソフトクリーム!」
マシューはバニラとチョコを選んだ。
「すぐに溶けちゃうから気を付けるんだよ」
「わかった!」
マシューはグリーンに料金は払ってもらい、魅惑の食べ物を手に入れた。
ヴァージニアがマシューが食べるのを見守ろうとしていた時だった。
「ヴァージニアさんも食べますか?」
グリーンは太っ腹なようで、子どもという年齢ではないヴァージニアにも奢ってくれるらしい。
「いいんですか?ありがとうございます」
ヴァージニアは大人なのでバニラを頼んだ。
久々のソフトクリームにヴァージニアは頬が緩んだ。
「いただきます」
ヴァージニアはペロリとソフトクリームを一舐めした。
(んーーーっ!)
甘くて冷たい物がヴァージニアの口の中に広がっていった。
バニラの香りもたまらない。
(チョコもちょっと気になる……。けど我慢だ。マシューの分を貰うわけにはいかないからね。そういえば、マシューは食べ方を知っているのかな?)
マシューは初めてソフトクリームを見たはずだ。
ヴァージニアが気になって彼を見てみると、思った通り四苦八苦していた。
「あわわ。あむっ」
マシューは口を大きく開けてソフトクリームに齧りついた。
「んももも」
マシューから変な声がした。
「え、大丈夫?」
「んぐっ」
マシューがソフトクリームから口を離すと、彼の口の周りは白と茶色まみれになっていた。
「……おいしい」
マシューはパァっと恍惚とした表情になった。
ただし、口の周りはベトベトで汚いのでギャップが凄い。
「よかったね」
「こんなに、おいしいものがあるなんて……」
マシューは黙々とソフトクリームを食べ進めた。
彼は舐めるより囓る派のようだ。
「ねぇねぇ、これはたべるの?」
マシューはとても気に入ったようで、あっという間に渦巻き部分を食べてしまった。
「コーンのこと?そうだよ」
食べずに捨てる人もいるらしいが、ヴァージニアは食べる派だ。
「わかった。たべるね」
マシューはフレアートップコーンを囓りだした。
バリバリといい音がしている。
(……カスが洋服についてる)
「マシュー、洋服にコーンのカスがついちゃってるよ。……あ」
コーンの底からソフトクリームだった液体が零れた。
そしてそのままマシューの洋服に垂れた。
「もったいない……」
マシューは液体も堪能したかったようだが、ヴァージニアはそれどころではない。
「あああ、染みになっちゃう」
すでに茶色と白が服の上で広がっている。
「えー?まほうでとればいいんだよ。ホラ……」
マシューは何の苦労もせずに魔法で服の染みを綺麗にしてみせた。
「ジニーのもきれいにしてあげるね」
「ありがとう……」
マシューは自分の鼻水の汚れを綺麗にした。
「ふふっ、ジニーったらいつのまによごしたの?」
「なっ!マシューが顔面を拭いたんでしょう!」
顔から出るもの全てを拭いていたと思われる。
「ぼく、みにおぼえがないよ」
マシューはしらを切るつもりのようだ。
とぼけた顔をしている。
「はぁ、もういいよ。マシュー、グリーンさんにソフトクリームのお礼言って」
「ごちになります」
(どこで覚えた!……ああ、……ギルドか)
マシューの学習能力の高さに驚かされるヴァージニアであった。
とうめいに友達が出来た!




