魔獣討伐!
誰が討伐するのでしょうか?
「よし、転移魔法!」
ドスンと足音がしたので、ヴァージニアはお婆さんを脱出させた。
ヴァージニアはお婆さんを兵士に託した。
「次で最後です」
そう言ってすぐに教会内に転移魔法で戻った。
「戻りました。大丈夫ですか?」
「はい。なんとか…。ですが、私が結界を張らないとこの教会は壊れてしまいます。千年以上もこの地にあるのです。壊すわけにはいきません」
「分かりました。ギリギリまで待ちます」
ヴァージニアは古そうな教会としか思っていなかったが、千年もの歴史があるようだ。
「我が儘を聞いてくださって、ありがとうございます」
「魔力回復薬がまだ1本残っていますので飲んでください。私はまだ何回か転移魔法出来るから大丈夫です」
流石にマシューと転移魔法した時ほどの長距離なら1回だけだろうが、近くの町に行くぐらいなら平気だ。
もちろん教会から出るのも十分出来る。
「足音がした時に飲んでください」
ヴァージニアは魔力回復薬の蓋を開けて、すぐに渡せるようにした。
「すみません。ありがとうございます」
その後ヴァージニア達は足音がするのを待ったが、なかなか聞きたい音が聞こえてこなかった。
心なしか、扉を叩く音が激しくなってきた気がする。
看板娘と厨房のおじさんはどうなったのだろうか。
(もうそんなに結界は持たないんじゃないかな……)
責任者は奥歯を噛みしめて脂汗をかいている。
呼吸も荒くなっているようだ。
結界を張るために伸ばした両腕も震えている。
教会を諦めて脱出するしかないかもしれない。
どうやって責任者を説得しようかと悩んでいたら、扉を攻撃する音が聞こえなくなった。
(あれ?音がしなくなった。だけど足音がしていない……休憩?)
「何が…あったのでしょう?」
「倒れたら音がすると思うので討伐されたのではないと思います」
「では結界はそのままで……」
ヴァージニアが一人ずつではなく、一気に運べたら責任者の疲労は軽減されたはずだ。
結界を張るのと解くのを繰り返したら消耗するに決まっている。
(ヤドカリさん、もう少し力を貸してくれてもいいじゃないか!)
ヴァージニアは心の中でヤドカリにお願いしたが、何の変化もなかった。
(……ん?)
ヴァージニアはふと何か違和感を覚え、扉を凝視した。
ただの気のせいかと思ったが、そうではなく違和感は正しかったようだ。
「!!」
魔獣の物と思われる魔力が集中しているようだ。
ヴァージニアは慌てて、結界を張っている最中の責任者の口元に小瓶を持って行った。
「大きな攻撃が来ます!私が口に注ぎますので、結界を張りながら飲んでください!」
「はい!」
ヴァージニアはそっと責任者の口に薬を注ぎ込んだ。
「扉の方に結界を集中させてください!」
「はい!」
そのコンマ数秒後に大きな衝撃波がきた。
(なっ!耳がっ!)
あまりに大きな音がした。
爆発かと思ったが違うようだ。
急いで耳を塞いだが、遅かった。
何が何だか分からない。
(ダメだ。立っていられない…)
ヴァージニアは堪らず膝をついた。
責任者も耳をやられたようだが、なんとか結界を張り続けているようだ。
(音は止んだのかな?耳がやられてよく分からない……)
耳はキーンと耳鳴りがしている。
ヴァージニアが状況を把握しようと視線を床から扉に向けた時だった。
「こんちくしょーがぁあああ!!!」
(!!)
間違いなく看板娘の声だ。
だが、上と言うより、上空であろう高さから聞こえた。
ヴァージニアはやはり耳がおかしくなったのだと思ったが、次の衝撃音と足の裏から伝わった振動で、そこまで変になっていないと確信した。
(これは、上から攻撃してそのまま地面に?)
ヴァージニアは、以前看板娘がおばさん呼ばわりされた時にした技を思い出した。
上に飛び上がり、そのまま降下して踵落としをするのだ。
当然身体強化されているので、かなり上まで飛べる。
後は重力にお任せだ。
「ヴァージニア!大丈夫?!!無事?!」
看板娘が扉を壊しそうな勢いで教会に入って来た。
ずんずんとヴァージニア達の近くに来た。
「あ、はい。生きているから多分平気です」
ヴァージニアはまだ耳鳴りがしていたが、なんとか聞き取ることが出来た。
「そう、よかった。…貴方は耳をやられたのね?」
看板娘は責任者の容態を確かめている。
(耳から血が…!)
「ええ。耳が聞こえなくなっていますが、なんとか生きております……」
責任者は言い終わると同時に、意識を失い倒れ込んだ。
看板娘はしっかりと責任者を受け止めた。
「すぐに救護班を!いえ、私が運ぶわ!」
看板娘は軽々と責任者を持ち上げて駆けていった。
「おお、無事だったか。耳は大丈夫か?」
看板娘と入れ違いで、厨房のおじさんと怪我をしている人が教会に入ってきた。
「うーん。目眩はしたけど大丈夫ですかねぇ?」
「そうか。それにしても教会は結界を張っていたからガラスは割れなかったんだな」
おじさんは見上げて教会内の窓やステンドグラスを見ている。
「と言いますと?」
「魔獣が咆哮したんだよ。魔力を乗せていたから、より威力がすさまじくなったんだな」
「パッと見た限り、教会以外の建物のガラスは割れていたな。ほかの割れ物も割れているかもな」
「近隣の集落でも被害が出ているかもしれませんね」
「ああ、後から来た奴等が確認中だ」
「もっと早く来てくれれば…」
つい先ほどヴァージニアは自分のせいで責任者を疲労させてしまったと思ったが、かなり疲れているので、こう言いたくもなる。
「わざわざ王都から来てくれたらしいから、そんな言い方しないでやれ」
「え?」
王都と言われると、どうしても体が強ばってしまう。
「なんだその反応は?なんか嫌な思い出でもあるのか?」
「あるような、ないような?」
軽く尋問されたり、尾行されたりしたなとヴァージニアは思った。
「それはあるでいいんじゃないか?」
「ではあるで。それにしても、魔獣は何故この教会を襲ったのでしょうか?」
「それは俺も思った。攻撃していた俺らを狙ってもいいのにな。近寄りはするが教会から離れずにすぐに戻っていくんだ。それで少し長引いてしまったな」
広場に誘導する作戦は彼らも考えていたようだ。
「ジェーン姐さんが殴りつけに行きそうになるのを止めるの大変だったんだぞ」
ジェーンとは看板娘の名前だ。
誰が呼んだかカラミティ・ジェーンの異名がある。
「建物が壊れたら大変ですもんね」
「真上から攻撃するとは流石だな」
「怒らないとやらないらしい」
ヴァージニアは最初からそうすればいいのにと思っていたら、怪我をしている人の言葉で納得した。
確かにおばさんと言われた時、彼女は激昂していた。
「それで何故、この教会を襲ったかだよな。調べてみるか」
三人で教会内を調べ始めた。
何かあるなら床だろうと思い、ヴァージニアは明かりの魔法を使って床を軽く調べた。
(変わった所はなさそうだ。あの書架みたいになっているのかと思ったけど何もないね)
ならば椅子だろうかと思い、こちらも一つ一つ調べてみた。
しかし、ここにも何もない。
(流石にずっと下を向いていると腰が痛い……。次は天井とか?)
ヴァージニアはチラリと天井を見上げるついでに腰を伸ばした。
視線を教会の奥に向けると他の二人はステンドグラスを調べたり、オルガンを調べたりしている。
ステンドグラスもオルガンもかなり古いものだが、手入れがされているのかピカピカだった。
「何かありましたか-?」
「ないな。見落としているのかもしれないから、明るくなってから調べ直した方がいいだろう」
「そうだな」
三人はため息をついて、ステンドグラスの前にある女性の像を見上げた。
ドレスを着ていて、髪の毛は肩の高さで結ばれている。
台座にあるプレートを見ると、この女性はこの教会を建てるためにお金を寄付してくれた人だそうだ。
(女神像じゃないんだ。てっきりここの神様かと思った。じゃあ神様は何処に?)
「……誰かこの像調べたか?」
おじさんが言うと、二人は首を振った。
「えー、この像を動かしたら地下室が出てくるとかですか?」
つい最近ヴァージニアは地下室に行ったのを思い出しながら言った。
出来れば、あんな体験はもうしたくない。
「まあ、調べてみようじゃないか」
そう言って凝視したり触ったりして調べてみたものの、何も分からなかった。
台座ごと動かそうとしてみたが、重すぎて動かない。
看板娘がいたら動かせたかもしれないが、破壊する可能性もあるので頼めない。
「何もないんですかね…」
「魔獣は他の建物より目立つこの教会を壊したかったんじゃないか?」
教会は千年以上もこの地に建っているので、周りの建物とは雰囲気が違う。
「そんな好みで襲われたんじゃ、たまったもんじゃないな」
ハハハと三人は笑った。
ヴァージニアは笑いながら女性の像の顔を見ていたら、その視線の先が気になった。
「この女の人は何処見てるんですかね?」
「えー?それこそ作ったときの加減じゃないか?」
「うーん…。確かに何でこんな斜め上を見てるんだろうな」
女性の像は不自然に高い位置を見ている。
三人で女性の像の視線の先、像から見て左斜め上を見た。
しかし、小さい窓があるだけで特別な何かがあるようには思えなかった。
豪華な物ではないし、かといって粗末でもない普通の窓だった。
「…反対側も同じですね」
ヴァージニアは視線の反対の窓も見たが、どう見ても同じに見える。
「像と同じ高さで見ないと分からないとかか?」
「よし、持ち上げるからヴァージニアが見てくれ」
「ええっ?!」
ヴァージニアは驚く暇もなく厨房のおじさんに持ち上げられた。
おじさんは腕を伸ばし、ヴァージニアは手の平の上に立っている。
流石、毎日大鍋を振るっているだけあって力持ちのようだ。
(チアリーディングのやつだぁあ。わわわ)
「何か見えたかー?」
「ええっと……」
ヴァージニアはバランスを取りながら左右の窓を見比べてみた。
(んーないよなぁ?分かりやすかったらとっくに見つけられているだろうし。……あれ?左側の方が少し窓の前のスペースが広い…かな?)
「降ろしてくださーい」
ヴァージニアは降ろしてもらい、二人に説明した。
「窓の前が?」
「下からじゃ何にも分からないな。ヴァージニアはあの窓の前に行けるか?」
「行けると思います」
ヴァージニアは小窓の前に転移魔法した。
「おっと…」
思ったより幅がなかったので、ヴァージニアは驚いた。
高さもそんなにないので、少し屈んでいないといけない。
小窓の前のスペースにはほこりが溜まっているので綺麗ではない。
多分だが、掃除は年に一回する程度なのだろう。
「何かあったかー?」
「何も見当たらないでーす!」
「んー、外れか」
窓自体にも足元にも何もなかった。
いや、足元はほこりまみれなので、詳しくは見えない。
ヴァージニアは足でほこりを払ってみた。
「うぉう!ほこりを落とすなら先に言ってくれよ」
下の二人にほこりがかかってしまったらしい。
二人は頭や服についたほこりを手で払っている。
「すみません……」
「んで、何かあったかー?」
「ちょっと待ってください。今見てみます」
ヴァージニアはゆっくりとしゃがみ込んで、足元をよく見てみた。
そこには僅かながら窪みがあるように見えた。
(何だろう?文字かな?)
文字らしき窪みを読もうと必死で見てみたが、掃除の時の摩擦で文字が削れていったらしく、上手く読めない。
ヴァージニアは読めそうな文字だけ見て、何かヒントになる文字がないか懸命に探した。
(うーん…。これはもしかして虹って書いてあるのかな?虹が……かかる場所?)
それだけではさっぱり分からないので、もっと読める文字がないか注視してみたが解読出来なかった。
看板娘がやっつけました。
ヤドカリを何故かザリガニって書いていたので、慌てて直しました。なんでこんな間違いを……。




