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開発者!


 ヴァージニアが退室すると、球体が外で待っていた。


「次の部屋までご案内します」

「お願いします」


 ヴァージニアは球体について歩きだした。

 階段の方に向かったので、この階ではないようだ。


「一つ上の階に行きます」


 ヴァージニアは先ほどと同じように階段に足を置くと、一階分上に着いていた。


「こちらです」


 ここにも球体がいた。

 それとも、この球体はさっきと同じ球体なのだろうか。

 全く同じに見えるので多分同じだろう。


(だけど、量産品だったら同じに見えるよねぇ?)


 ヴァージニアには見分けがつかなかった。

 そのまま球体の後について行くと、廊下の端まで歩かされた。


(廊下にも魔法をかけておいて欲しい)


 元は城なのでかなり長い廊下なのだ。


「こちらの部屋です」

「ありがとうございました」

「礼には及びませんよ」

(よ?さっきは言わなかったような?別の球体なのかな?)


 後で受付の人に聞いてみようかとヴァージニアは思った。


(いや、今聞けばいいか)

「あなたは3階にいたのと同じ球体さんですか?」


 球体は微動だにせず浮いている。


「いいえ違います。私達は各階に配備されている案内魔導具です」

「そうでしたか」

「はい。この研究所内は広いのでお客様だけでなく、施設内のスタッフも迷ってしまうのです。なので私達が開発されました」


 外から見ても広そうだと思ったが、中に入ってみると余計にそう感じる。

 広いし通路があちこちに伸びている。

 しかもどこも似たような装飾がされているので質が悪い。


「へぇ、そうだったんですか。確かに迷子になりそうですね」

「はい。戻らなかった人もいるそうです」

「ええっ?!」

「冗談ですよ」


 球体には冗談を言う機能もついているらしい。


「私の部屋の前で話をしているのは誰です?」


 勢いよくドアが開いた。

 中から出て来たのは眼鏡をかけた男性だった。


「お客様をお連れしました」

「なんだ。そうだったのか。で、あなたは?」

「鑑定魔導具を届けに来ました」

「おお、なんだ。んじゃあ、データを確認するから中に入って」


 ヴァージニアがお邪魔しますと言いながら中に入ると、先ほどの部屋と違って整頓された部屋だった。

 部屋はこちらの方が広そうだ。


「はぁ、こっちもボロクソに書かれていますよ」


 一人の女性が紙を見ながらため息をついた。


「ああっ、すみません。お客様でしたか」


 女性はヴァージニアに気付いて姿勢を正した。


「はい。鑑定魔導具を返しに来ました。それとこちらを…」

「はい……」


 眼鏡の男性はため息と一緒に返事をし、感想が書かれた紙を受け取った。


「代わりに読んでくれ」

「えー…」


 女性は暗い顔をしながら紙を受け取り読み出した。

 眼鏡の男性は鑑定魔導具のデータを見始めた。


「ははっ!この人、生き物のフンを沢山調べてるな!」

「すみません……」

「え?あなたが、使ったのか?」


 ヴァージニアが言うと、二人とも驚いて顔を上げた。


「小さい男の子と一緒にやったので…」

「ほう…」


 眼鏡の男性は再びデータを見だし、女性も覗き込んだ。


「この蛙はジェムストーンリザードが姿を変えていたようです」

「んんー、やはり見破れないかぁ」

「だけど、変身していたのによく分かりましたね」

「ええ、偶然姿を変える瞬間を見たんです」


 ヴァージニアは嘘をついてしまった。

 研究所というと、どうしても王都にいた局長を思い出してしまうからだ。


「お!珍しい毒きのこだ。背景からして依頼されたものだな」

「うわぁ…。こんなの依頼する人いるんですね」


 眼鏡の男性はニヤニヤし、女性はどん引きしている。


「下の階の方のご依頼です。納品の時にちょうど居合わせたんです」

「ああ、なるほど。あいつか」

「ああ…」


 二人の表情が何とも言えないものになった。


「有名人なんですか?」

「んまぁ…、有名と言えば有名だな」

「この鑑定魔導具にも研究資料を提供してくださったんですよ」

「そうそう!僕達の製品開発のために手を貸してくださった方ですよ!」

「!!」


 ヴァージニアの背後から声がしたので、彼女は驚いて振り向くと青年が立っていた。


「なんだ、遅かったな」

「失礼な!僕の時計では時間通りです!」


 すかさず女性が青年の左手首を掴んで時計の文字盤を見た。


「ずれてるし!」

「わざとずらしてるんじゃないかぁ?」

「僕がそんな人間に見えるんですかっ?ひどいっ!」


 青年が女性の腕を振り解こうとしたが、女性の力が強いのか出来なかった。


「昨日、腕時計の時間を調節したのにずれてたらねぇ?」

「あれ~?」

(賑やかだなぁ)


 女性が手を離すと、青年はヴァージニアが書いた感想を手にとって読み始めた。


「お!この感想は罵られてない!」

「彼女が書いてくれたんだ」

「この魔導具の本来の使いどころを分かってくださったんですねぇ」


 青年は笑顔でうんうんと頷いた。


「経験が浅くても安心して討伐や採集に行けるようにですか?」

「はぁ、やっと分かってくれる人がいた…。どうやら小遣い稼ぎにやった人が多かったみたいでな、真面目にやってくれた人が少なかったんだ」


 眼鏡の男性に真面目と言われ、ヴァージニアはドキリとした。

 ヴァージニアとマシューは真面目にやっていただろうか。


(だけど、開発者の意図に気付いたからいいのかな?)

「フンから何が分かるのか考えたんです。もしかして足跡も詳しく表示されますか?」

「されます!」


 女性は机に両手をつき、前のめりになっている。


「毒を持つ動植物もちゃんと名前が出るようにしたんですよ」

「それなら誤って接触してしまうのを避けられそうですね。と言いたいところですが、名前を見ても毒かどうか分かりませんよね?」


 名前だけ出てもどんな物なのか表示されなければ意味がない。


「あれ?表示された文字をタッチすれば出てきますよ?」


 女性が例の毒きのこでやって見せてくれた。

 説明文はかなりおどろおどろしい内容だった。


「え?本当だ」

「ちゃんと説明されなかったんですね……」

「そのようです……」


 看板娘は起動させるのすら分かっていなかったから仕方ないだろう。


「ちなみに毒のない草とか花は……」

「フンや足跡や毒物を優先させたので、まだ入れていません……」


 女性はフフフ声を出して笑顔を作ったが、なんだか少し不気味な笑顔だった。


「開発資金を出してくれる所から、せっつかれてな……」


 眼鏡の男性は腕組みをしてため息をついた。

 一気に疲れた表情になってしまった。


「あの人達、生まれて間もないの赤ん坊がいきなり喋り出すと思ってるんですかね?」


 青年は眉間に皺を寄せて、とても嫌そうな、馬鹿にしたような顔をした。


「だけど、お金を出してくれる人達の顔を立てないといけなくて……。こんな中途半端にも程がある状態で商品モニターをお願いするしかなかったんです……」


 女性が肩を落としながら言うと、他の二人も同様にした。


「未完成なんですよね、コレ。それが分かっているのに出さないといけない僕達の気持ち分かります?!」


 青年はをカッと開いて、ヴァージニアを見てきた。

 ヴァージニアは一歩下がりたかったが、なんとか堪えた。


(うわぁ…話が長くなってきたよ!)

「ええ、心中お察し致します」

「こっちは出したくないのに、出せ出せ言うから仕方なく出したら、思った通りボロックソに言われて……。そんなの分かってるから!」

「資金提供してくれるんだったら、もう少し話を聞いてくれてもいいだろう!何故、我らを信じないんだ!」


 開発者達はヒートアップしている。

 オーラが見える人だったら、彼らの燃え上がる物が見えたのではないだろうか。


(早くこの部屋から出たい……)

「だけど、分かってくれる人がいてよかったです」


 女性の目は潤み、眼鏡の男性は頷いている。

 青年はにっこりと笑顔だ。


「お役に立ててよかったです。……ではこちらの書類にサインをお願いします」

「ああ、そうだったな」


 眼鏡の男性がサラサラとサインをした。

 彼の字は汚くも綺麗でもない普通の字だった。


「ありがとうございます」

(これで帰れる)

「感想文に書かなかった、使用感とかがあったら聞かせて欲しいんだが、いいか?」

(いや、帰れない)


 ヴァージニアは帰れなくてがっかりしたが、彼らも困っているようなので力になりたい。


「そうですね。紙にも書いたのですけど、画面の中央の物しか表示されないのは不便ですね。一つ一つ調べないといけないのは面倒ですね」

「他には?」

(え?)


 これだけじゃいけないらしい。


「そうですね。変身を見破れたらいいなと思います」


 ヴァージニアはそうですねと言っている間に話をまとめる作戦にでた。


「ふむ。幻覚ならば見破れるんだがなぁ」

「魔導具は機械ですものね。幻覚で姿を変えて見せている人がいたら分かるんですね」

「もしそんな人がいたらビックリですよね。人の脳に作用させないといけないので、四六時中広範囲で幻覚魔法をかけ続けているってことですから、かなりの使い手ですよ」


 魔力が高い人であれば出来るだろうが、効率的とは言えないだろう。


「だったら自分の姿形を変える方が省エネですね~」


 そう、変身だったら自分に魔法をかけるだけなので大がかりではないのだ。


「そう言えば人間に向かって使わなかったです…。ギルドにいる人から聞いた話によると、耳が隠れているとエルフや獣人も人間と表示されると聞きました」


 名前を知らない誰かの話が役に立ったとヴァージニアは喜んだ。


「獣人だったら歯が映っていたらちゃんと出るんだがなぁ」


 牙や前歯が見えれば判別出来るのだろう。

 後は尻尾とかだろうか。


「現段階はあくまで見た目だけなんですよ」

「現段階?もしかしてオーラも使って判別出来るようにするとかですか?」


 種族によって違うらしいので、少なくとも人間とエルフ、獣人の判別は出来るようになるのだろう。

 変身した生き物の正体も分かるようになるなら便利そうだ。


「いずれはそうしたいと思っている」

「今も研究はしているんですよ。感知は出来るんですけど、それをどうやって判別するかはまだなんですよ~」


 ふと、誰でも簡単にオーラを調べられるようになったら、血縁関係が分かっていざこざが起こりそうだとヴァージニアは思った。

 そう、お坊ちゃんと使用人のように。


(まぁいっか!)


 もう会うことはないだろう。


「おっと!つい話しすぎてしまいまったな。長い間付き合わせてしまって、すまなかった」

「いえいえ、興味深いお話を聞けて楽しかったです」

(よし、帰れる!!)


 ヴァージニアは心の中で両手を強く握った。


「こちらも落ち込んでいたときに話を聞いてくださって助かりました」

「これで開発を頑張れます!」

「君はまず、遅刻をしないでくれ」

「わ、かりました」


 ヴァージニアは3人にお辞儀をしてから部屋を出た。




 年齢は眼鏡男性>女性>青年です。

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