誰?!
ヴァージニアは部屋から出てふぅと一息吐いた。
「お疲れ様です」
球体に声をかけられた。
「ありがとうございます」
「本日は当研究所内でのご用事はございませんか?」
「はい。ないです」
「では階段までご案内いたします。1階に着きましたらお帰りになる前に受付に行き、用事が済んだと伝えてください」
「分かりました」
球体に連れられ、階段に到着した。
「球体さんありがとうございます」
「どういたしまして。道中、お気を付けてお帰りください」
ヴァージニアは片足を階段に置くと、一瞬で一階に到着した。
(受付はあっちだったかな。一階にも球体があればいいのに)
一応球体を探してみるが、目に入らなかった。
ヴァージニアは受付に行き、球体に言われたように伝えた。
(帰ろ……)
ヴァージニアは建物から出て庭を歩きだした。
青々とした芝生が広がり、植木は不思議な形に切り整えられている。
噴水もとても立派だし、水の出方も何パターンもあるようで、見ていて飽きない。
(水か…)
ヴァージニアは水の精霊だが何だかに力を貸して貰っているらしい。
(なのに、転移魔法しか出来ない。水も少ししか出せないし、操れもしない……)
ヴァージニアが肩を落としてハァ、とため息をついた時だった。
――クスクス
誰かの笑い声が聞こえた。
若い女性というより子どもの声だった。
(ん?誰だろ?)
ヴァージニアは笑い声の主を探そうと庭全体を見渡した。
しかし、何処を見ても子どもはいないし、なんなら若い女性はヴァージニアだけだ。
――クスクス!ださっ!何処見てるのよ!これだから変なのに好かれた人間は!
ヴァージニアはださいと言われて腹が立った。
なので絶対に見つけ出して文句を言ってやると決意した。
(どこだ。多分だけど人間じゃない)
今度は全体ではなく自分の周囲をじっくりと見てみた。
――フンッ!どんなに頑張ったって私を探せるわけないじゃない!バーカッ!
文句だけではなく、とっちめてやろうと心に誓った。
ヴァージニアは声が何処から聞こえてくるのか集中した。
――ホント、バカよねぇ。そんな事したって見つけられるわけないっての!無駄よ無駄!
ヴァージニアはイライラしないように集中した。
耳元では聞こえているのではないので、少し離れた所にいるはずだ。
多分目の前にいるのだろう。
(ん?何だあれ?)
本当に小さな光の点が見えた、……気がした。
小さすぎてハッキリと分からないが、何かいるような気がする。
――あーあ、つまんない!こんな面白くな…ギャーッ!!!
ヴァージニアは小さな光の点を蚊を潰すように両手の平でバチンッと叩いた。
――な、何するのよぉ!
「散々人を馬鹿にしておいて何をするのかだとぅ?!」
ヴァージニアの手の中には妖精っぽいものがいる。
外見は絵本で見たように可愛らしい姿をしているが、口から出てくる言葉は汚い。
――だって本当のことじゃない!あんな変なのに好かれるなんて!
「だから変なのって何?!」
ヴァージニアは妖精を睨みつけた。
妖精はヴァージニアの手から抜け出そうと、必死にもがいている。
当然ヴァージニアは手に力を入れ、逃がさないようにしていた。
――っ引きこもりの変な奴よ!アンタに力を貸してる奴!
「引きこもり?水の生き物で引きこもり?……亀とか貝とか?」
ヴァージニアは引きこもりという言葉から身を隠せる生き物だろうと考えた。
――違うわよ!なんか背負ってる奴よ!
「背負ってる……?あ、ヤドカリ?」
ヤドカリも貝殻の中に入って身を隠せる。
――そうよ、そいつよ!ていうか、アンタの右手から変な匂いがするわね!くっさい!何なの?!
「変?…ああ、熊の魔獣を触ったからかな?」
だが、ブラッドは毎日手入れをされているだけあって臭くなかった。
――それよりももっと変な奴よ!紙とインク臭い奴!あーヤダヤダ!くっさい!くっさい!
「えー?右手?それじゃあ、図書館の書架の中にいた人かな?」
何者か分からないので人と言ってみたが、人ではないだろうなとヴァージニアは思った。
――そんな奴にも好かれているの?やっぱり変な人間ね!いいから早く離してよ!妖精虐待だわ!
「さっきから暴言を吐きかけている奴を逃がすと思う?何なら闇の市場に出してやろうか?」
どこにあるのか知らないが、世界のどこかにあるらしい。
何でも売っているとかなんとか。
――いやー助けて-!
「謝るのと、もうしないって誓ってくれたら逃がしてあげるよ」
――……悪かったわね。もうしないわ。ハイ!これでいいでしょ?早く離してよ!
やはり口だけの謝罪はより腹が立つだけだった。
あの時の校長先生の判断は正しかったのだ。
ヴァージニアの頭の中では校長先生が微笑んでいた。
――何?約束も守れないの?これだから変なのに好かれた人間は駄目なのよ!
「えー?そっちも守ってないんじゃ、同類だね。変なの好かれた人間に捕まった、ださい妖精さん」
――何ですってーっ!!無礼な人間ね!私が本気になればアンタなんか!
「そんな事言っていいの?私は転移魔法が得意だから変な所に吹っ飛ばしちゃうよ」
――やれるもんならやってみなさいよ!
「はい」
ヴァージニアの手から妖精が消えた。
――ぎゃー!!ごぼごぼ
妖精をすぐ側の噴水に転移魔法させた。
近くなので失敗せず、ちゃんと水の中に落ちた。
――プハァ!ちょっとアンタ!何すんのよ!
「やってみろって言うからやったんだけど?」
――虐待よ!妖精虐待!アンタなんか刑務所に入れられちゃえばいいのよ!
「そこまでです」
――はっ!その声は!!
人の声がしたが姿が見えない。
ヴァージニアが集中して目の前を見てみると、ださい妖精より立派な服を着た綺麗な妖精がいた。
醸し出す雰囲気もどこか品がある気がする。
「人間さん、ご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません」
――先輩、そんな奴に謝らなくていいですよ!
「貴女のせいで謝っているんですよ?」
――……
「この子は今までも何回も人間にちょっかいを出している常習犯なんです。それも自分が見えないであろう魔力が高くない人間を選んでです」
「悪質ですね」
ださい妖精はやっと噴水から抜け出せたようだ。
「たまに読み違えて、とっちめられるんですけど全然懲りないんですよね。どうしたものでしょう?」
――読み違えてなんかいません!
(え?反論するのそこ?)
――だって、最初は見えなかったみたいだもの!
「集中して見れば見える人もいるんです」
――ええー!ち、ちなみにそういう人間はどうやったら分かるんですか?
「ちょっかいを出さなければいいんですよ?何故、ちょっかいを出す前提なんですかね?」
綺麗な妖精はフフフと笑顔だった。
局長と校長先生と同じ部類の笑顔だった。
敵にしちゃいけない人だ。
「妖精王、あるいは妖精女王はどのようなお考えなんですか?」
妖精にも国があり、人間の国と同じように王様か女王様が治めているらしい。
「妖精族の名に傷がつくとお嘆きになられております。これ以上続くのなら、元に戻すかもしれません」
――えっ
ださい妖精が固まったので、かなり厳しい罰なのだろう。
「元に戻すとはなんですか?」
「そうですねぇ。人間で言うと受精卵でしょうか?」
赤ちゃんぐらいになるのかと思ったが、もっと前の段階に戻されるようだ。
「ああ……、死も同然ですね」
「本来なら寿命を迎えた妖精にするのですが、問題行動が多い妖精にも強制的にするんですよ。魔力の集合体にするんです」
「魔力の集合体…」
「妖精は自然発生した物ですけど、人間も自分の魔力、オーラを集めて生き物を作りますよね」
魔導生物のスージーがそうだ。
元に戻すのは魔力を再利用するためだろうか。
「へぇ、色々教えてくださってありがとうございます」
「ご迷惑をかけてしまったお詫びですよ」
「生活態度が改善されるといいですね」
――フンッ!アンタが私に気付くのがいけないんでしょ!そのせいでこんな目にあってるんですもの!
「どうぞ」
「え?ああ、はい」
綺麗な妖精から許可を得たので遠慮なく転移魔法を使用した。
もちろん、ださい妖精にだ。
――ぎゃー!!何すんのよー!!がぼがぼ
噴水の出方が変わったので、ださい妖精は水に持ち上げられてかなり上の方に行った。
「私はあの子を連れて帰ります。調子に乗っていると人に捕まるかもしれませんし」
「……闇の市場で妖精が売られしまうかもしれませんしね」
「まぁ、こちらでも人間を売っているのでお互い様ですよ」
「え」
確かに行方不明になって見つからない人も少なくない。
まさか妖精の手によって行方不明になった例もあるとは驚くしかない。
「弱いのは妖精だけだとでもお思いで?」
ヴァージニアは綺麗な妖精の黒い笑顔を見てしまい固まった。
――はぁはぁ…やっと抜け出せた……
「そのようですね。では帰って懲罰房に入りましょうか」
――えっ!
綺麗な妖精の口から物騒な言葉が聞こえてきた。
――ま、待ってください!私そんなに悪い事しましたか?人間をからかっただけじゃないですか!
「反省しないからですよ。本当に学ばない人ですねぇ。貴女は私に時間を使わせているのですよ?それだけで大罪なんですよ」
「今度は地中に埋めますか?」
「いえいえ、これ以上人間さんの手を煩わせるわけにはいけないので、ここで失礼いたします」
綺麗な妖精はださい妖精の頭を押さえつけてお辞儀をさせて、二人は消えていった。
(マシューに会ってから色んな体験をするなぁ……)
ヴァージニアは門に向かって歩いた。
絵を描いている人が増えている気がする。
確かにこれだけ立派な建物と庭があったら描きたくなるだろう。
(ヤドカリかぁ……ヤドカリ……?)
ヴァージニアはどこでヤドカリと関わったか考えてみた。
(海だよね。小さい頃に行ったからその時だ。んー……)
「あ!」
そういえば、ヤドカリを助けた記憶がある。
ヴァージニアは貝を奪われてしまったヤドカリを不憫に思い、お気に入りのガラスの小瓶をあげたのだ。
綺麗な飾りがついていたと記憶している。
(あの時のヤドカリかヤドカリに関係する大きな力を持った者が力を貸してくれているのか……)
ヤドカリの精霊でもいるのだろうか。
少し見てみたいような、そうでないような気がした。
(ださい妖精のおかげで誰が力を貸してくれているか知られた。ありがとう、ださい妖精。ありがとうヤドカリさん)
ヴァージニアは門を出て、学園都市の出口に向かった。
もちろん看板を見ながらだ。
次回はマシューが登場します。




