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学園都市へ!


 マシューがじゃがいもを潰し終えたので、マヨネーズと具材を混ぜ合わせる。


「と、その前にフレンチドレッシングだ」

「ちょっと、すっぱいやつだね」

「そうそう」


 ヴァージニアがじゃがいもにフレンチドレッシングをかけると、周囲に食欲をくすぐる匂いが漂った。


「いいにおいだね」


 マシューはよだれを垂らしそうになっている。


「あ、冷まさないといけないんだったかな?」

「なまごろしだぁ……」

(また変な言葉を…)


 ヴァージニアはポテトサラダになる予定のじゃがいも放置し、昨晩のスープに具材を足すためにキャベツやウインナーを切った。


(まだ、見てる……)


 ヴァージニアはチラリとマシューを見てから、スープをどうするか考えた。

 どうせならホールトマトも入れて煮込んでみることにした。


「もっと何か入れた方がいいのかなぁ?あ、チーズを乗せてみようかな」


 ここで、ヴァージニアはあることに気付く。


「あっ、マシューの食べ物がじゃがいもまみれだ!」


 昼食にコロッケ、夕食にポテトサラダだ。


「おいもおいしいから、だいじょうぶ」

(じゃがいも少年……)

「栄養が偏っちゃうでしょう?うーん、もうちょっと何か足そうかなぁ?ピーマンは今から間に合うかな。あー、生でも食べられるからいいか」


 ヴァージニアは慌ててピーマンを切り始めた。


「やさいジュースをのめばへいきだよ」

「どこで貰ったの?ギルド?」


 ヴァージニアがマシューに野菜ジュースを与えた記憶はないので、ギルドで貰った以外考えられない。


「そだよ」

「野菜ジュースのお金払ってないや…。明日の朝払わないと」

「おばさんがくれたから、おかねはいいんじゃない?」


 おばさんとは看板娘のことだろう。


「おばさんって言うと怒るから、本人の前で言っちゃ駄目だよ」

「うけいれられないんだね」


 マシューは可愛くない表情で笑った。

 看板娘でなくても怒るだろう。

 ヴァージニアも言われたら怒る自信がある。


「……マシュー、絶対に言っちゃ駄目だからね。あの人、昔は王様に命じられて魔獣討伐に行っていたらしいからね?」

「…わかった。もういわない」


 マシューは真顔になった。

 ヴァージニアはジェイコブとマリリンから聞いたので被害に遭っていないが、前に看板娘に向かっておばさんと言った人は病院送りになったのを見た。


「じゃあ、混ぜるか。マヨネーズと具材を混ぜよう」

「ほしは?」

「これは最後に飾るから混ぜないよ」

「ぼくがやるから、ジニーはおなべみてて」


 ヴァージニアは何か違和感を覚えた。


「…食べちゃ駄目だよ」

「あじみだよ……」


 マシューは目を逸らした。


「図星か」

「なんでバレたんだろ……」

「よだれ垂らしそうだったからねぇ」


 ヴァージニアは鍋の火を止めて、スープを皿に盛り付けチーズを乗せた。

 マシューの様子を見てみると、真面目にサラダを混ぜていた。


「ぼく、これをパンにのせたいな~」


 マシューはチラチラとヴァージニアを見てきた。


「あ、はい…」

 

 マシューの分のポテトサラダは食パンに盛り付け、星型のハムを飾り付けた。

 準備が出来たので、二人は席に着いた。


「いただきます」

「いただきます!」


 二人は夕食を食べ始めた。

 マシューは口を大きく開けて、パンにかじりついた。

 顔に似合わず野性的に食べるなとヴァージニアは思った。


(食べ方を教えるべきかな?だけど、食器はちゃんと使えているんだよね)


 マシューは美味しそうに食べている。


(まぁ、いいか。子どもはみんな、こんなもんでしょう)




 翌朝、ヴァージニアは寝ているマシューを起こそうとベッドに近づいた。

 マシューは半袖にハーフパンツを着て寝ている。

 そして何故か、マシューの三つ編みは彼の目元を覆っている。


(天然のアイマスクかな?)


 三つ編みをどけると、マシューの長い睫毛が見えた。


(羨ましい!…ちょっと触ってみよう)


 ヴァージニアはマシューの長い睫毛をつついてみた。

 触ってみると睫毛には弾力があった。


(えいえい。つついてやる)


 ヴァージニアが睫毛をつついていると、マシューが顔をしかめた。


「んあー!めがー!めがムズムズしたよ!」


 マシューは瞼をパチパチとさせている。


「おはよう。顔を洗ったら治るかもよ」

「そっか!ジニーおはよう!」

(バレてない)


 ヴァージニアはニヤリと笑った。




 朝食をすませ、二人はギルドに向かった。


(マシューが大きくなるまで、こんな感じなのかな?)


 マシューには水筒とコロッケ定食代を持たせている。


「おひるにはかえれる?」

「相手の都合もあるから分からないよ」

「ちかくなのに?」

「そう、近くなのにね」

「はこぶだけなのに?」

「品物の確認もあるからね」

「ふーん。こっそり、おいしいものをたべているのかとおもったよ」


 先日お土産を持って帰ったのに、何故こんな思考になるのだろうか。


「なんでそうなるのかなぁ?マシューも美味しいコロッケ定食を食べてるでしょう?」

「おたがいさまかー」

「そうだよー」


 ギルドに入ると昨日会った剣士達がいた。

 入り口に魔獣使いのアリッサと熊のブラッドがいなかったので、いるとは思わなかった。


「おはようございます」

「おはよう!ブラッドは?」


 マシューはアリッサに駆け寄った。

 マシューはどうやらブラッドを気に入ったようだ。


「おはようございます。ブラッドなら裏庭にいるよ」

「なでてもいい?」

「いいんじゃないかな?」


 マシューはやったーと言いながら裏庭に走って行った。

 アリッサは歩きながらマシューについて行った。


「ジェイコブと合流するまで俺たちが見てるよ」

「助かります。マシューをお願いします」


 ヴァージニアはケヴィン達に礼を言い、受付に向かった。


「おはよう!これを運んでね。後これもね」


 看板娘から紐で縛られ1つにまとめられた2つの箱と、昨日の鑑定魔導具と紙を渡された。


「これも一緒にですか?」

「ええ、同じ研究所だからいいでしょう。部署は違うみたいだけどね」

「分かりました」

「ここら辺の地区で鑑定魔導具のモニター依頼はうちだけだったみたい。他の地区はいくつかあったみたいなのにね」

「まぁ、のどかな所ですから……」


 ヴァージニアが所属しているギルドがある地区はそんなに危険な魔獣は出ない。

 ちなみに、剣士達はフリーランスなのでギルド員ではない。

 売れっ子になるとギルドに所属していなくても依頼が来るのだ。

 依頼者の最寄りのギルドに行って依頼を受けるらしい。


(私には関係ない話だね)


 国に登録すればギルドに所属していなくてもフリーランスでも活動出来、さらに名が売れると国際的に活躍出来るとかなんとか。

 ジェイコブもかなり優秀だが、各ギルドには緊急時に対処出来る人がいないといけないのでギルドに所属している。


「他に荷物はないですよね」

「ええ、ないわよ」

「では、いってきます」

「いってらっしゃい」


 ヴァージニアがギルドから出ようとしたら、足音が聞こえた。


「わー!ジニーまってー!」


 マシューが三つ編みをなびかせてやって来た。


(凄い速さだ)

「どうしたの?」

「ハグしないと!」

「ハグ?ああ、こうね」


 ヴァージニアは少し身を屈めてマシューに抱きついた。


「はい、ぎゅーっとね。どう?これで満足かい?」

「ふふっ!ジニーったら、そんなにぼくと、はなれるのがさみしいの?」


 マシューは目尻が下がっている。


「…マシューから言ったんだよねぇ?」

「ジニーてれてるの?」

「照れてるのはマシューだよね。じゃあ行ってきます」

「はやくかえってきてねー」


 ヴァージニアはギルドを出てすぐに、学園都市に転移魔法(テレポート)した。




 学園都市は海の近く、と言っても崖の上なのでビーチはない。


(岩石海岸ならあるけど、波が激しいから立ち入り禁止だろうね)


 王都と同じく入るために検査があるようだが、王都ほど厳しくないようだ。

 ヴァージニアは短い列に並び、中には入れるのを待った。


「はい、次の方~」


 兵士は何か器具を持ってヴァージニアを調べている。

 もしかしたら、骨まで見えてしまうのだろうか。


「本日いらした目的はなんですか?」

「王立魔導研究所に荷物を届けに来ました」

「荷物の中身はなんですか?」

「毒きのこと鑑定魔導具です」

「えーっと…ああ、ありました。通っていいですよ~」


 王都よりかなり軽い感じだった。

 ヴァージニアは看板を見て、王立魔導研究所に向かった。

 学園都市と言うだけあって、賢そうな人が大勢歩いている。


「看板によると、ここら辺のはず…?」


 開けた場所に出ると、少し遠くにお城のような建物が見えた。


「え?」


 門まで近寄ってみると、お城のような建物ではなく、お城そのものだった。


(お城を研究所にしたのかな?誰かの居城だったけど使わなくなったから…とか?)


 ヴァージニアは取りあえず、門をくぐり敷地内に入った。

 手入れが行き届いた庭を通り抜け、漸く建物の中には入れた。


(噴水まであった)


 途中で絵を描いている人が何人かいたのを見かけた。


「えっと、受付はどこだろ?」


 建物内もお城のままで、案内表示もお城の雰囲気に合わせてお洒落だった。

 おかげで読みにくかった。


「あっちか…」


 ヴァージニアはやっと行き先を見つけられたので、受付に行った。


「すみません。荷物を届けに来ました」

「はい。ヴァージニアさんですね。3階にお進みください」

(確認が早いな)

「はい」


 3階に行った後はどうするのだろうと、考えながら階段に足をかけた。


「あれ?」


 気付くと3階にいた。


「ええっ?」


 ヴァージニアは思わず下を見た。

 階段に魔法がかけられていたらしく、1歩で3階まで来られたようだ。


「便利だけど、どの部屋に行けばいいんだろう?」

「こちらです」


 後ろから声がしたので、ヴァージニアは振り返った。

 しかし声の主は人間ではなかった。

 喋っていたのは、宙に浮いた球体だった。


(丸い……)

「ご案内いたします」


 球体に部屋まで案内された。

 プカプカとしていたら可愛かったかもしれないが、少しもブレずに真っ直ぐ移動していた。


「お客様をお連れしました」

「どうぞー」


 部屋の中から男性の声がした。


「球体さん、ありがとうございます」

「礼には及びません」

(可愛げがないなぁ)

「失礼します」


 ヴァージニアがドアをノックしてから入室すると、室内は期待を裏切らず怪しげだった。

 片付いてはいないし、毒きのこと思われる物体が沢山展示されていた。


「ご依頼の毒きのこです」

「おお!待っていましたよ!早速中身を確認させてください!」


 男性の目は光り輝いている。


「え、危なくないですか?」

「大丈夫です、ケース内で箱を開けますのでね」

「そうでしたか。こちらが地獄でこちらが天国だそうです」


 看板娘の字で箱に書いてあった。


「分かりやすくしてくれて、ありがとうございます」


 男性は不思議な形のケースに毒きのこ入りの箱を入れて蓋を閉めた。

 ケースの正面にケース内に向かって手袋がついているのが見える。


「グローブボックスと言うんですよ」

「これなら密閉されていて、毒が漏れ出す心配はなさそうですね」


 男性がケース内で箱を開けると、一気に毒らしきものが溢れ出てきた。

 どんどんと湧き出てくるのが分かる。


「ええ、地獄への案内人で間違いないですね。では次はこちらを……」


 男性は別のグローブボックスにもう一つの毒きのこが入った箱を入れた。

 蓋を閉めた後、手袋に手を入れてケース内の箱を開けた。


「よいしょっと……。天国へようこそで間違いないです」


 こちらの毒きのこも毒がらしきものが溢れてきている。


(毒きのこって食べたり触ったりしたらヤバイんだと思ってたんだけど、この毒きのこ達はどう見ても、毒をまき散らしているよね)


「いやぁー、こんな素晴らしい物をありがとうございます!研究が捗りますよ~」


 男性は目をキラキラ…いや、ギラギラ輝かせている。

 鼻息も少々荒くなっているようだ。


「毒の研究ですか?」

「ええもちろん!ですけどね、毒の研究だって、怪我や病気の治療に繋がるんですよ」

「薬も使い方次第で毒にもなりますものね」

「そうですそうです!」


 なんだが話が長くなりそうだなとヴァージニアは思った。


「あ、あの……」

「何故、今回この二つを選んだかというとですね、真逆の効果があるからなんですよ~」

「天国と地獄ですものね。すみません。まだ届けないといけない荷物があるのですが、話が長くなりますか?」

「おおっ!失礼いたしました」


 話が分かる人のようで助かった。


「こちらにサインをしてください」


 必要書類にサインをしてもらう。

 これがないとお金が貰えないのだ。


「はいはーい」


 男性は辛うじて読める字でサインした。

 ヴァージニアが退室しようとした時、男性はご機嫌そうに鼻歌を歌っていた。




 マシューは照れていないふりをした!

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