天国と地獄!
マシュー、コロッケにソースをかける!
「どう?おいしい?」
返事を聞くまでもない。
マシューの虹色の目は眩く光り輝き、頬も赤くなっている。
「ん~!!」
「飲み込んでから喋ろうね」
マシューはヴァージニアに言われた通り、コロッケを飲み込んだ。
「なにもかけないコロッケもおいしいけど、ソースをかけたコロッケはもっとおいしいね!」
「よかったねぇ」
ヴァージニアは自分が頼んだサンドイッチを食べた。
マシューは一心不乱にコロッケを食べていた。
(桃の食べ方と同じだ。顔中で食べてる…)
マシューはコロッケを食べ終わり、付け合わせを食べ始めた。
「ぜんぶコロッケならいいのにねぇ……」
(聞いただけで、胃もたれしそう…)
午後はギルド内や周辺を鑑定魔導具で調べていく。
「これは机で、……こっちは椅子」
「…ジニーこれは?」
「それはペンだね」
「これは?」
「それは鉛筆だね」
「ジニー、たのしいね……」
「そのわりには全然楽しくなさそうな顔してるね」
マシューは無表情だった。
「たのしいっていったら、たのしくなるかとおもったんだ」
「そういう時は笑顔を作ると脳が勘違いして楽しくなるらしいよ」
「のうを…だますんだね」
(そんな深刻そうな顔をしなくてもいいでしょうに……)
マシューは頑張って笑顔を作り始めた。
しかし、彼の笑顔は不自然以外の何者でもなかった。
「マシュー、コロッケや桃を思い出したら?」
「そうか!!」
マシューはヴァージニアの助言に従い好物を思い浮かべたようで、とても嬉しそうな笑顔になった。
「んふふふっ」
(笑い声まで上げてるよ……)
笑顔のマシューはそのままにし、ヴァージニアは壁や床、天井も調べてみた。
「どれも木目って…。雑だなぁ」
「ざつってかかなきゃね」
「そうだね。重いと雑と他はなんだろ?」
「う○このしゅるいがほうふ!」
「確かに。植物は草や花としか出なかったのに、フンについては詳しかったね」
もしかしたら、完成とはほど遠いのに開発資金の援助者に急かされたとかだろうか。
だとしてもフンが詳しく表示されたのは何故だろうか。
「う○こから、なにがわかるの?」
「フンの主とか、その主が何を食べているかとか?…近くにいる生き物が分かるのは悪い話じゃないね。もしかしたら、足跡も詳しく表示されるんじゃ……」
確かめようにも人間以外の生き物がいないので調べられない。
野良猫の足跡ならすぐに見つかるかもしれないが、探す気力が残っていなかった。
「おー、いみがあったんだね」
初心者など経験が少ない人には有り難いだろう。
「そうみたいだね。だけど草と花だけじゃ、間違えて毒物を採集しちゃうかもしれないよね」
「いみないねぇ……」
だが、森や山地など人里離れた場所での採集の際に使えなければあまり意味がない。
「そう書いておくよ。データは結構集まったから、もうこれでいいかな?」
「いいんじゃない?」
二人とも飽きているので、もう終わりにしたい。
「じゃあ受付に戻ろう」
「いくらもらえるかなっ?」
「そう言えば、何も言われなかったね…」
二人で受付に戻ると、ちょうど他のギルド員が何人か帰って来たところだった。
「依頼された毒きのこ採ってきたぞ」
剣士と思われる若い男性が言った。
その彼の手には一目で怪しいと判断出来る物体が握られている。
「ジニー、どくだって」
「そうだね。毒って言ったね」
ヴァージニアとマシューはヒソヒソと喋った。
「今は封印してあるから大丈夫だが、解除したら周辺でぶっ倒れる人が続出するぞ」
そんな毒きのこを依頼した人の顔を見てみたい。
「ええっ!ジニーどうしよう」
「…あの毒きのこ調べてみよう」
「ジニーってば、ねっしんだね」
ヴァージニアは剣士の手元をアップして鑑定魔導具で調べてみた。
「なんてでた?きのこ?」
「……あ、地獄への案内人だって」
不吉すぎる名前である。
「とてもわかりやすい、なまえだね…」
「毒物は表示されるんだ」
「そうみたいだね」
二人が喋っているうちに看板娘が箱を持って来た。
魔力を封印する箱によく似ているが、同じように毒を封印出来る箱があるのだろうか。
「はい、これに入れてちょうだい。入れて蓋を閉める瞬間に封印魔法を解除してね」
「分かった」
剣士は箱の中に毒きのこ、地獄への案内人を入れた。
「いい?せーの、のの時に閉めるからその時に解除してね」
看板娘は必死そうだ。
やや鼻息が荒くなっているようだ。
「のだな。分かった」
「あの…少し漏れたぐらいなら、私が解毒魔法をかけますので大丈夫ですよ?」
剣士の仲間らしい魔導師の若い女性が言った。
「念のため、もうちょっと離れておこうね」
「そだね」
二人は受付が見えなくなる場所まで移動した。
「だいじょうぶかな?」
「平気でしょう。かなり有能な人達みたいだし」
「ジニーもゆうのうだよ!」
何故かマシューから励まされた。
「う、うん。ありがとう」
ヴァージニアがマシューにお礼を言うと、看板娘のかけ声が聞こえてきた。
「悲鳴が聞こえないから成功したのかな?」
「いってみよう!」
二人はまた受付に行った。
しかし、剣士の手にはまた別の物体がある。
形状からして、これも毒きのこだろう。
「なにあれ?」
マシューは眉間に皺を寄せ、口をへの字にしている。
美少年がそんな顔をしてはいけないとヴァージニアは思ったが、そうなるのも仕方ないとも思った。
それほど怪しげなのだ。
「え?えーっとねぇ……天国へようこそ、だって」
ヴァージニアは鑑定魔導具を使い、剣士の手元を映した。
名前からも読み取れるように、これも毒きのこなのだろう。
「てんごくとじごく…」
「あれも毒きのこだろうから離れていよう」
「きけんだものね」
看板娘のかけ声が聞こえなくなったので、二人は受付に行った。
「鑑定魔導具の商品モニター終わりました」
「はい。お疲れ様!ちょっと待ってねぇ。はい、これが報酬よ!」
「ありがとうございます」
受け取ったお金は多くなかった。
「すくない……」
ヴァージニアの代わりにマシューが言った。
彼の顔はとても険しかった。
「でも!仕事が入ったから大丈夫よ!」
看板娘のは少し焦ったようだが、いつものように明るい表情で言った。
「何を運ぶんですか?」
「あらやだ。さっき見ていたでしょう?」
「まさか…」
マシューはハッとした表情になった。
「毒きのこを運ぶんですか?」
「あらー、分かっているじゃない!これを王立魔導研究所に持って行って欲しいの」
看板娘はニコニコ笑顔でとんでもない事を言った。
「げ」
また局長に会ってしまうのだろうかと思うと、げと言いたくなる。
というか、もう言ってしまった。
「げ?」
「どうしたの?」
マシューと看板娘は首を傾げた。
「いえ、何でもないです。王都に行けばいいんですか?」
ヴァージニアは顔が引きつりそうになるのをなんとか堪えた。
「王都じゃなくて学園都市の方ね。毒物は王様達がいる所じゃ研究出来ないでしょう?危ないもの」
(学生や研究者はいいのか?)
「学園都市って海の近くでしたっけ?行ったことあったかなぁ?」
「ここから遠くないから平気よ」
「ちかかったら、すぐにかえってこられるね!」
「近いのに私が運ぶのは…何故でしょう?」
遠くないのはいいが、近いのならば依頼された人達が届けた方が余分に時間もお金もかからずにすむ。
「それはだな、俺たちはここに待機してジェイコブと合流しないといけないからだ」
そう言ったのは毒きのこを採ってきた剣士だった。
少し離れた所にいたと思ったが、いつの間にか隣に来ていた。
「ジェイコブとですか?」
「そうなの。逃げ足の速い禁術使いが近くにいるらしい情報が入ったの。私達はその人を捕まえに行くんだけど、ジェイコブは別の仕事をしているから戻るのを待っているの」
さっきの魔導師が言った。
「禁術って、もしかして生き物を合成するやつですか?」
「そう、その人!知ってるの?」
魔導師達が少し驚いていた。
確かにそんな危険な生き物と遭遇するのは、もっと腕のいい人達だろう。
「この子達も合成生物に遭遇しているのよ」
「はい。ケリー兄弟に助けていただきました」
「ああ、奴等がヘマして逃がしちまったやつか」
筋骨隆々の武闘家らしき男性が腕組みをしながら言った。
「あの時は魔力の流れが乱れていたから仕方ないですよ」
「普段から気の流れの感知を鍛錬していれば失敗などしない」
武闘家は表情を変えずに言った。
「コイツ、ケリー兄弟となるといつもこんな感じなんだ」
「あはは……」
武闘家はケリー兄妹をライバル視しているのだろうか。
「けんかはよくないよ」
「違う違う。コイツが目の敵にしているだけだって!」
「そうなの?」
「そうそう!」
剣士が言うと武闘家は気まずそうにそっぽを向いた。
「ねぇねぇあなた!さっきから思っていたんだけど、綺麗な目をしているのね。こんなに綺麗な虹色は久しぶりよ」
魔導師がマシューの顔を覗き込んだ。
「いいでしょ!」
マシューはドヤ顔をしている。
ドヤ顔をしててもイラッとしないのは、マシューの顔立ちがいいからだろうとヴァージニアは思った。
「虹色かぁ。しかもどの色も同じように出ているってことは全属性を均等に使えるのか。羨ましいな」
「均等にですか?」
「そう。目が虹色をしていても、得意な属性の色が濃く出たりするの」
「その逆もある」
「へぇぇえ」
得意だと濃く、不得意だと薄くなるようだ。
だが、全属性使えるのには変わりはないのだろう。
「鍛錬しても虹色になるかは分からないのよね。魔力が強ければ可能性はあるけど、今言ったように得手不得手があるからね」
局長が言っていたのはこの事だったようだ。
ならば、きちんと説明してくれればいいのにとヴァージニアは思った。
「それに加えて、巨大な力を持つものに気に入られるとその属性の色が強くなるんだ」
「魔力は強くないけど、転移魔法出来るってことは、目の色からして貴女は水属性の何かに気に入られているんでしょうね」
「水属性の……」
「水辺にいる生き物を助けたんじゃないのか?」
武闘家に言われヴァージニアは記憶を掘り起こして見たが、特に印象的な出来事は思い出せなかった。
「うーん、記憶にないですね。そもそも助けただけで力を貸してくれるものなんですか?それに力を貸してくれるほど大きな力を持った生き物を私が助けられるんですかねぇ…?」
「眷属を助けたとかじゃないか?」
「そうそう。彼もトカゲを助けたら、それ以来地属性の力を貸して貰ってるんだって」
魔術師が武闘家の方を向いて言った。
「トカゲじゃなくてドラゴンの子どもだったんだろ?」
「随分デカいトカゲがいるなとは思ったんだ」
「はっ!ジニー!さっきのトカゲはなにかあるかな?」
マシューはトカゲと聞いて目が輝いている。
「あのトカゲは頭に宝石がついているだけじゃないの?」
「ジェムストーンリザードね。そうなの、あのトカゲは成長しても大きな魔力は持たないんだよね」
「繁殖場があるぐらいだしな」
「なぁんだ。ぼくもなにかと、なかよくなりたかったなぁ」
これは午前中に喧嘩した子の言ったセリフである。
「どんなのがいいんだ?それなりに魔力があるんだから、使役するのも簡単だろう」
「後は自分で作るとかね」
剣士と魔導師は何やらすごい話をしている。
使役は難しいし、作るなんて意味が分からない。
「そうだなぁ、かっこいいのがいいなぁ」
「え~、可愛いのじゃ駄目?」
魔導師が言うと彼女が被っていた帽子が動いて、その中から何かが出てきた。
天国と地獄は毒きのこの名前でした。




