プロローグ
物語は気が付いたとき既に始まっていて、既に終わっている。それはいつだって唐突。
年齢も性別も季節も時間も場所も世界も。始まる条件はそこかしこにあって、当てはまらない条件なんてどこにもない。
それは、生きていても死んでいても。切っ掛けがあれば。
昼間。
太陽が煌々と熱線を放ち、コンクリートで固められた地面を照り付ける。
本日は見事なまでの晴れ。雲一つない。
もし太陽光に質量があったならば、人間が、建物が、おそらくは大地のあるありとあらゆるものがペシャンコにつぶれ、平らな世界が出来上がるのでは。そう思うくらいに照りつける日差しが強かった。
最高気温36℃。
視界に入る人たちは、皆総じて顔を歪めながら歩を進めている。日傘を差す人、飲み物を煽る人、汗をぬぐう人。誰もが口裏を合わせずともそうなってしまうのだ。
―――そんな日だからだろうか。
今朝のニュースでは、気温の急激な上昇による熱中症を呼びかけるアナウンスが何度もされていた。その忠告を何度も耳にすると嫌でも飲み物を多めにカバンに詰めなければならない気がした。
―――そういう日だからだろうか。
僕が信号待ちをし、この暑さの原因の太陽を睨みつけているその隣で、誰かが前へと進んだ。視界に、微かに人影が写り込んだ。まだ、信号は赤のままだったはずだけど。
―――そんな日だったから。
反射的に視界の隅で動いた人影に視線を送った。だがその時、身体が突然左に傾く。左肩に掛けていたカバンが引っ張られたのだ。体勢を持ちなおそうとするが、それは叶わない。カバンに入った荷物が、今日はいつもより重かった。飲み物を3本も入れなければよかった。不覚にも、地面に向かって体躯を折りながらそんなことを思う。上手く地面に手を着くことも出来ず、太陽の光をよく浴びたコンクリートに体を打ちつける。
―――そういう日だからなのか。
この日の暑さに加えて、地面に体を打ちつけた痛みに顔を歪めながら、上体を起こす。引っぱられたカバンの方を見やると、女性が僕のカバンを握りしめたまま倒れていた。肩まで伸びる黒髪から覗く顔は、頬を紅潮させ、桜色の口元からは短く荒い吐息が絶えず続いていた。彼女が倒れてきて、巻き添えを喰らったのだと理解する。またしても不覚にも、かわいい人だな、と苦しんで倒れている彼女を見ながらそんなことを思ってしまっていた。
―――そんな日だから。
彼女をそのままにするわけにもいかず、助け起こそうとしたその時。自分が初めて歩道を外れ、車道に身を置いていることに気が付く。彼女と僕の間にある、歩道と車道のわずか2センチにも満たない段差が、生と死の境界を作っていることに僕は気付くのが遅すぎた。そして。
―――その日、僕は死んだ。
2016年8月。
創作用のフォルダーに眠っていたワードの文章を投稿させていただきました。
連載小説を投稿する練習として。そして、私が書こうとしている『生きる』ことをテーマにした作品に、書きたいことが少し似ていた為、投稿いたしました。
この物語では、優斗は死に、そして幽霊として彼女に憑りつき、彼女の言葉を・真意を。そして、彼女を通して善意と言うどうしようもない心を学び、彼女を支えていくストーリーです。
気分転換にこの作品も書けていけたらと思っております。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
と言うか、誤字脱字が多くて申し訳ございません。
エルトナより