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(17)初体験

【前回】

水は雨音の後輩であり、水にとって雨音は特別な存在であることを知った晴太。その後なんとか誤解は解けたが、「なんかむかつくから」という理由で晴太は引き続き拘束されることになる。

手足を縛られて身動きのとれない晴太は首だけを動かし時計を確認する。午後八時ちょうど。外はもう真っ暗だ、おそらく電気の付いている教室はこの理科室ぐらいだろう。


「あのさ、水」

「何でしょう?」


水は旅行鞄に埋めていた顔を上げ、晴太の方を見る。


「明日の朝までずっとここにいるつもりみたいだけどさ、大丈夫なの?その……普通は先生が戸締まりに来たりするけど」


この学校の完全下校時刻は七時、その時間になると各教室が施錠される。例外的に七時を過ぎても使える教室はあるが、その場合も八時までには全ての教室が施錠されるはずだ。現在時刻は八時、誰かが見回りに来てもおかしくない時間である。しかし水は特に気にしていない様子だった。


「ああ、そのことに関してはご心配なく。この理科室だけはあちきが使うのでスルーしてもらえるんですよ」


水が使うにしてもスルーして良いのかとも思ったが、水は業績だけで見ると大学教授や企業の研究者と同じ、この学校にいること自体が不思議なくらいの存在なので、その待遇にも頷けるものがあった。


「信頼されてるんだなぁ」

「えへへ、それほどでもありませんよ~。しかしまあ、おっしゃるとおり理科室の電気が付きっぱなしというのは少々不審に思われるかも知れませんね」


水は鞄をごそごそとやると、先程の『おやすみの杖』と同じサイズの棒を取り出した。


「それは?」

「これは色違いの杖といいまして、光の反射をいじることでものの色を変えることが出来るのですが……これをこうして」


水は棒の先に何かを込めるようにクルクルと杖を回す。


「えいっ!」


かけ声と共に、窓に向かって杖を振る。が、何も起きない。ぽかんとする晴太に水は元気よく声を掛ける。


「外が暗いので何も起きていないように見えるかも知れませんが、実は今、この部屋のガラスは全て真っ黒になっているのです!」


言われてみれば、さっきまで見えていたはずの街灯の明かりが今は見えなくなっている。まさに真っ黒、中から見れば多少の違和感があるが、外から見たら単に理科室の明かりが付いていないだけのように見えるだろう。感心するを見て水は満足そうに胸を張る。


「これがあちきの開発した新製品、魔法の杖シリーズなのですよ!これを使えば、魔法の能力に関わらず一

定の魔法を使うことが出来る、というわけです!」

「本当に魔法みたいだ……」

「魔法みたい、ではなく、魔法そのものなのですよ?」


水は人差し指を立てる。

「どういうこと?」

「試してみます?」

「え、いいの?」

「もちろん」


水は晴太の手足を縛っていたロープをほどくと色違いの杖を握らせた。


「まずは目を閉じてイメージして下さい。対象物のどこを何色にしたいのか」

「えっと、これは回した方がいいのかな」


晴太は水がそうしていたように杖の先をクルクルと回した。


「あ、いえ、別に回さなくてもいいのです。それはあちきの癖というか……。とにかく、魔法を使っている自分をイメージできればそれでいいのですよ」


魔法を使っている自分、皮肉にも、魔法が使えない者にとってそれは誰よりもたくさん妄想することである。晴太は言いようのない虚しさを深呼吸で沈めた。それから水に言われたとおり目を閉じて棚のガラス戸をイメージする。


「そうすると、体の中にある何かが杖の先に集まってきます」

「あ……あ……」


主に頭から、一部は体の全身から、何かが導かれるように杖の先へと集中するのが分かった。まるで杖と体が同化してしまったかのような、そんな感覚にも襲われた。


「そしてそれを対象物へと投げ飛ばす!」


何かが流れているような、溜まっているようなモヤモヤした脳内に水の鋭い声が響く。晴太はカッと目を見開いて杖をガラス戸に向けて振った。


「えいっ!」


フワッ


と、その瞬間全身に鳥肌が立つ。やがて落ち着くと、晴太は自分の脳が空っぽであることに気付いた。人は絶えず思考する生き物であるため、何も考えていないように見えるときでも脳内では絶えず何かしらを考えている。しかしこの時、確かに晴太の脳内は真の空っぽであった。いや、脳だけではない。体の中の隅々にまで涼しい風が吹いているような、そんな今まで味わったことのない感覚を晴太は体感していた。


「これが…………魔法?」

晴太が水の顔を見ると、水は満足げに頷いた。


「よく、ミントフレーバーなんて言われたりしますね」

「ミントフレーバー……確かに」


清涼感、と言うのだろうか。確かに似ているかも知れない。


「僕は今、魔法を使ったのか……」


口にして改めて自分が魔法を使ったという実感がむくむくと湧き上がってきた。晴太は手にした杖を眺める。黒く、すべすべとした手触り。先端に向かうほど細くなっている。木材よりも少し重いくらいだろうか。見たことのない材質だった。


「気になりますか?」


興味津々といった感じで杖を眺める晴太を見て、水がにやにやと笑う。


「え、まあ……」


よく考えたら今目の前で笑っているこのあどけない少女がこの魔法の杖を作ったのだ。そう思うと晴太は何か不思議な気分になった。


「教えてあげましょうか、その杖のこと」

「え?いいの!?」

「ええ、仕組みに関しては企業秘密とかありませんから」


これはもしかするとものすごく貴重な話が聞けるのではないか。晴太はわくわくとした。


「じゃあ、縛りましょうか」


おもむろに水はさっきほどいたロープを手に持った。


「え?また縛るの?」

「縛りますよ?」


ゴゴゴゴッと音が聞こえてきそうな程の殺気が漂い、晴太は思わず後ずさりした。


「逃がしませんよ」


そう言う水の手にはいつの間に取りだしたのか別の杖が握られていた。


「クルクルクル…………えいっ!」


かけ声と共に杖を振ると突然晴太の体が硬直する。


「え?ちょっ、何これ!?」

「これはカチコチの杖と言いまして、ものの動きを止めるのに使うのですよ」


水はいかにも楽しそうにそう言うと手際よく晴太の手足をロープで縛った。


「一体いくつ杖があるんだ……」

「まあその辺のことも含めて教えてあげますよ。夜は長いですから!」


これは長い夜になりそうだ、晴太はそう思った。


ありがとうございます。


サブタイトルで釣ってみたんですが、どうですか?

初・体・験/// みたいな。


まあそれはともかく、

魔法を使う感覚ってどんな感じなのかなぁ~と想像しながら書きました。筆者的にはなんかこう、頭の中がモンゴルの大草原になったような感じなんじゃないかと思います。


水「まさに大草原不可避!」


晴太「それはちょっと……いやだいぶ違うかも」


なんか、水ちゃんと晴太くんって相性いいですね。今後はこの二人の絡みも書いていこうかな。





雨音「今回はこの辺で。次回を楽しみにしておくといいわ」


晴太「……!?」


筆者「……!?」

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