(15)少なくとも健全な関係
【前回】
手足を縛られ、理科室に監禁された晴太。犯人は天才発明家にして晴太の一学年下、廻川水だった。
「では、順を追って話しましょう」
そう言うと水は机の上に置いてあった二十センチくらいの棒を手に取った。
「これは『おやすみの杖』です。この先っちょから睡眠魔法と同じものを発することができ、それを食らった人は一定時間深い眠りに陥ります。あちきはここ数日間、先輩を拉致するためにこの棒を持って先輩の周辺をうろついていました。そしてついに!チャンスが廻ってきたのです!あちきはすぐに先輩を眠らせ、念のため手足を縛りここに運んできました。後は煮るも焼くもあちきの自由!さあ、どうしてやろうか!!!」
水は大きく両手を広げると晴太を見つめる。奇妙な間を開けた後、水は自らの話を締めくくった。
「と、いうのが現在の状況です」
「…………うん、状況は分かった。じゃあ早速本題に入らせてもらうんだけど、なんで僕を誘拐したの?」
晴太自身、誰かの恨みを買った覚えはない。もちろん、間接的に、というのはあるかも知れないが、それでも人との関わりを避けている晴太が誰かに恨まれたり、巻き込まれたりするだろうか。ましてや一学年下の、廻川水に。そんな晴太の様子を見て、水の目付きがフッと鋭くなった。
「本当に分からないのですか?」
「分からないです」
「殺していいですか?」
「ちょっちょっと待って!?ホントにわかんないから!僕、水に何かしたっけ!?」
思わぬ殺気に慌てる晴太。
「何かしたも何も、先輩こそ傘咲先輩に何をしたのですかっ!」
傘咲先輩。水の口から聞き覚えのある単語が飛び出してきた。いや、聞き覚えがあるなんてもんじゃない。ついさっきまで一緒にいた、傘咲雨音のことではないのか。
「もしかして雨音の知り合いか!?」
「あ、雨音……ですと!?そんなに二人の仲が親密になっていたなんて……!」
驚愕する水。心なしか膝も震えているようだ。
「いや、親密っていうか何ていうか……」
「誤魔化したって無駄です!二人が付き合ってるという事実はもう掴んでいるのですから!」
ビシッと向けられた人差し指に晴太は思わずより目になる。が、すぐに思い直した。より目になっている場合ではない。一応秘密ということにしてきた雨音との関係が水にバレていた。これは一大事である。水の口ぶりから察するに晴太と雨音の関係が原因で晴太は誘拐したことになる。慎重に行くべきか、あえて強めに出るべきか。晴太が悩んでいると水が先に口を開いた。
「どこまでいったのですか……」
「え?」
「どこまでいったのですか!エーですか!?ビーですか!?シー!ディー!イーエフジー!」
大声でまくし立て、拳を振り回す水を晴太は何とかなだめる。
「おっ落ち着いて!もっと健全な関係だから!」
晴太の言葉に少し落ち着きを取り戻したらしい。水は振り上げていた腕を下ろした。
「本当ですか?」
「本当だよ……さっきも自分で言ってたでしょ?こんなひ弱な男にって。実際僕、雨音にもチキンって言われてるし」
すると水は少し考えた後ぼそぼそと呟く。
「それなら……ひとまずは許してあげます」
晴太は取りあえずほっと胸をなで下ろした。しかしこれからどうすればいいのか。今までこれといって事件に巻き込まれたことのない晴太、当然誘拐されるのも初めてである。
「えーと……。申し訳ないんだけど、僕は水と雨音の関係も、なんで水がそんなに怒っているのかも分からないんだ。出来ればその……理由を教えてくれないかな?」
変に刺激しないように、出来るだけ慎重に晴太は尋ねた。水はしばらくの間、口をへの字に結んでうつむいていたが、やがて少しずつ話始めた。
ありがとうございます!
というわけで、
しばらくぶりの更新になりますかね-。前回新キャラが登場して、次回で雨音と彼女の関係が明らかになります。天才発明家ということなので、彼女の発明品についても紹介したいなぁと思ってます。魔法の杖に関しては近々説明するつもりなんですが、他にも色々と考えようと思ってます。
では。