果たされた約束の魔法
※超SS、現代、女子高校生
「きっと、会いに行くから。約束だよ」
今となっては朧げな記憶、幼馴染の男の子がそう言ってくれた気がした。
「光ー! 置いてくよー!」
「……あ、ごめん。今行く」
桜が舞う。
淡い花弁が風に舞い、青く澄んだ空に映えた。
進級、進学の季節。街を歩けば、春特有の全てが動き出した空気感に包まれている。新たな生活、新たな場所。
そんな時に見上げる桜は、いつかの記憶を呼び覚ます。
住宅街の一角にある公園で、桜の木の下、交わした約束が今も魔法のように心を縛る。今日みたいに暖かな風が吹いて、桜が舞い散っていた日。
「どうしたのよ、光。ぼんやりして」
「え、そうかな。ほら、そんなことよりバス来てるじゃん」
駆け足で追いつけば、同級生の友人が心配そうに声をかけてきた。定刻通りに駅に着いたバスが、既に発車時刻を待っている。
学校の帰り道、いつもの曲がり角、見慣れた信号に覚えてしまったバスの時刻、顔を合わせる名前も知らぬ同乗者。普段の変わらぬ光景にほんの少し感じるのは、何かが欠けた空白感。
前日見たドラマや流行のファッション、メイクのこと。ふいに流れてくる曲はやはり流行のアーティストだ。誰と誰が付き合い始めたとか、両思いだとか。あの子がカッコイイとか。そんな話もよくする。よくある今時の女子高校生がする話。
「でさぁ、あいつ、本気にしちゃって」
「あはは、ありえない! ないない! 絶対ない!」
ずっと続いた日常、ずっと続く日常。そこにふと感じる物足りなさ。いつか、埋められるかもしれないと希望的観測を掲げる日々。
「…――なぁ、おまえ、もしかして都筑光?」
自分達の前に座っていた男の子が座席から顔を覗かせ、唐突に名前を言い当てた。
突然のことに黙り込む。友人は明らかに知らない顔のようで、男の子と光を交互に見やる。
誰だっけ、見覚えのあるような、どこかで昔会ったような。
「うわっ、ひっでー。 忘れたの? 会いに行くって約束」
それは希望的観測が叶った瞬間。空白感がなくなった瞬間。
果たされた約束の魔法が、恋を運んだ奇跡の瞬間。
了