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練習用  作者: 水薙かのん
9/14

果たされた約束の魔法

※超SS、現代、女子高校生



「きっと、会いに行くから。約束だよ」

 今となっては朧げな記憶、幼馴染の男の子がそう言ってくれた気がした。


「光ー! 置いてくよー!」

「……あ、ごめん。今行く」


 桜が舞う。

 淡い花弁が風に舞い、青く澄んだ空に映えた。

 進級、進学の季節。街を歩けば、春特有の全てが動き出した空気感に包まれている。新たな生活、新たな場所。

 そんな時に見上げる桜は、いつかの記憶を呼び覚ます。

 住宅街の一角にある公園で、桜の木の下、交わした約束が今も魔法のように心を縛る。今日みたいに暖かな風が吹いて、桜が舞い散っていた日。


「どうしたのよ、光。ぼんやりして」

「え、そうかな。ほら、そんなことよりバス来てるじゃん」


 駆け足で追いつけば、同級生の友人が心配そうに声をかけてきた。定刻通りに駅に着いたバスが、既に発車時刻を待っている。

 学校の帰り道、いつもの曲がり角、見慣れた信号に覚えてしまったバスの時刻、顔を合わせる名前も知らぬ同乗者。普段の変わらぬ光景にほんの少し感じるのは、何かが欠けた空白感。

 前日見たドラマや流行のファッション、メイクのこと。ふいに流れてくる曲はやはり流行のアーティストだ。誰と誰が付き合い始めたとか、両思いだとか。あの子がカッコイイとか。そんな話もよくする。よくある今時の女子高校生がする話。


「でさぁ、あいつ、本気にしちゃって」

「あはは、ありえない! ないない! 絶対ない!」


 ずっと続いた日常、ずっと続く日常。そこにふと感じる物足りなさ。いつか、埋められるかもしれないと希望的観測を掲げる日々。


「…――なぁ、おまえ、もしかして都筑光?」


 自分達の前に座っていた男の子が座席から顔を覗かせ、唐突に名前を言い当てた。

 突然のことに黙り込む。友人は明らかに知らない顔のようで、男の子と光を交互に見やる。

 誰だっけ、見覚えのあるような、どこかで昔会ったような。


「うわっ、ひっでー。 忘れたの? 会いに行くって約束」


 それは希望的観測が叶った瞬間。空白感がなくなった瞬間。

 果たされた約束の魔法が、恋を運んだ奇跡の瞬間。



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