第29話(累計 第75話) 師匠との再戦:ラウンド3 デュエル!
「い、一体。今のは何なのだ。う、嘘だぁ。ゾンビ兵どもが、一瞬で壊滅だとぉ」
盾となってくれていたゾンビ・ギガスを押しのけ、残骸の山の中から顔を出す純白の重装甲ギガス。
「うぅ。パブロ殿、大丈夫ですか。こちらは、副腕を一本やられました」
女性型ギガスも失った副腕を抑えながら、フラフラと立ち上がる。
ヴィローからの砲撃。
いや、砲弾による「薙ぎ払い」。
それでパブロが率いる軍団主力のゾンビ・ギガスが一掃された。
更にゾンビ・ギガスを召喚する魔道具まで破壊される。
数の優位が、たった一撃で失われてしまった。
その上、パブロやデイアーナの機体も数発攻撃を喰らい、着弾部分から火花を上げている。
「なんとか動けるが……。護衛をもう呼べぬぞ! どうする? に、逃げるか?」
「これは、すっかりやられたわねぇ」
デイアーナは、カトレアにて熱分解光線砲で同じ様な事を行った。
しかし、砲弾の雨で同じ事をされるとは、彼女も完全に想定外だった。
「お姉さま! ヴィローがこっちに向かってきます。また、後方では多数のギガスが起動。砂漠の中でステルス待機していたようです」
「本当にやってくれるわ、トシ坊。こっちも本気で行かなきゃ。アルちゃん、光線砲は使えそう?」
「無理なようです。先程の砲撃も掠ったようで、完全に動きません。撤退を提案いたしますわ」
ここで集団戦に持ち込まれれば、確実に詰む。
アルクメネからの撤退提言を受け、パブロを放棄して逃げる考えた時。
デイアーナの耳に弟子の声が飛び込んだ。
「師匠! そこにいますよね。僕、トシミツ・クルスです。師匠、貴方に一対一での決闘を申し込みます!」
「あの子ったら。絡め手で一気に攻めるのかと思ったら、今度は正々堂々。まだまだ甘ちゃんだわ」
「お姉さま、ピンチなのに嬉しそうですわね。決闘をお受けするんでしょ? パブロなんか放置してトシ様と戦いましょう。わたしも、お手伝い致します」
つい笑みを浮かべてしまうデイアーナ。
スロットルをぎゅっと握り、声を上げた。
「トシ! よくアタシだと分かったわね」
◆ ◇ ◆ ◇
「トシ。12時の方角、女性型ギガスが居ますわ。2時の方にはもう一体、重装甲のギガスが健在。他は半壊状態のゾンビ・ギガスが少々。雑魚と重装甲は伯爵様たちに任せましょう。周囲警戒は、わたしがするわ」
「おにーちゃん、機体のパワーコントロールは任せてね!」
【マスター。どうぞ、ご存分に戦い下さいませ】
「皆、ありがと」
ヴィローを敵集団に向かって脚を進める。
そして、女性型ギガスの前でストップ。
僕は、声を上げた。
「師匠! そこにいますよね。僕、トシミツ・クルスです。師匠、貴方に一対一での決闘を申し込みます!」
「トシ! よくアタシだと分かったわね」
……やっぱり師匠。生きててくれたんだ。
僕は、ヘルメットの中で笑みを浮かべる。
ヴィローに持たせたカービンを一旦下に向けて、師匠に問いかけた。
「師匠。生きていてくれたのは嬉しかったです。でも! 僕は貴方とは戦いたくなかったです。師匠は僕の命の恩人であり、大好きな人です。どうして、こうなったのですか!?」
「アタシも可愛いトシ坊ともう一度会えたのは嬉しいよ。だけどね、アタシは傭兵。雇い主次第で、どんな相手とでも戦う。その上、雇い主は命の恩人。悲しいかな、たまたまトシ坊の敵になっただけさ。前も言ったよね、お互い敵として出会ったら、手抜きせずに戦うって。それが今回だよ」
決闘を受け入れてくれた師匠に、思いを語った僕。
それに対し、師匠は傭兵らしい言葉を返してきた。
……間違いなく師匠だ。戦闘狂なのは前から変わらないよ。プロトさんに助けてもらったからノルニル側についているのか。他にも事情はありそうだけどね。
僕は師匠の言葉の中に、嬉しさと悲しみ。
その両方を感じた。
「ディアーナ殿。は、早くこっちを助けろ! そんな奴にかまうなぁ!」
「パブロ殿。貴方は自分の実力で乗り気ってくださいな。こっちは愛弟子との楽しみにしていた対戦。邪魔はしないでください」
迫る伯爵様たちのギガスを前に白い重装甲機体から悲鳴が上がるが、師匠は一切相手にしていない。
【マスター。向こうの重装甲機体に乗ってますのはカレリア民主労働党、『元』人事委員長パブロ・レリヤ。ナオミ様の怨敵でございます】
「今、忙しいから伯爵様に任せます。リリ、情報を伯爵様に送ってあげて」
「うん、任せて」
「トシ、お師匠様が動きますわ!」
僕は割り切る。
相手は最強の敵、師匠であり僕の「初めて」愛し合った人。
だからこそ、一切手加減無く戦う。
その上で、出来れば殺さずに無力化を狙う。
……絶対に僕は負けられないんだ! リリや守りたい皆と幸せに暮らすために。守りたい人の中には師匠も居るんだ!
師匠の駆る黒地に金の縁取り装甲を持つ機体が、腰から剣を抜き、ヴィローの方へ切っ先を向けた。
「さあ、トシ。殺り合おうかしら。デイアーナ・パドレス、『バイラヴィー』参ります!」
「ええ、師匠。トシミツ・クルス、『マハ・ヴィローチャナ』起動!」
そして、二人の戦いが始まった。
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