第27話(累計 第73話) 師匠との再戦:ラウンド1 スナイピング。
「ふはは! 私の予想通りだったでしょう、デイアーナ殿。守る城に居なければ、攻められる心配もしないので良いのですよ。第一、わが軍は貴方と私以外は補給の必要も無いのですからねぇ」
まもなく夜が明ける砂の海。
獣の顔を複数持つ異形なギガスが大声で叫ぶ。
神話に語られる三つの頭部を持つ純白の象。
その名「アイラーヴァタ」のとおり、肩と胸部から象の牙を伸ばす純白の重量級機体。
中のコクピット奥に鎮座するパブロ・レリヤ。
彼は操縦桿なぞ持たずに、前に座って操縦をしている二人の量産型ノルニルの少女の薄い胸を背後から揉みしだいでいた。
「あまり大声で叫びますと、せっかく視界外から一気に奇襲する意味がなくなりますよ、パブロ殿」
黒地に金の縁取りな装甲の女性型ギガスから、妙齢女性の声が響く。
彼女が駆る機体は、肩に抱えた大砲を手に降ろす。
「デイアーナ殿。そこは気にせずともですぞ。ラウドは地平線の向こう。声が届く距離でも無いですぞ。では、初手をお願いできますかな。そろそろ、日も昇りますし」
「ああ、分かった。残念だが、しょうがないな。トシ坊、すまない」
薄明りを感じる明け方の空に、デイアーナは機体を浮かべる。
そして地平線の向こう。
弟子に不幸を与える事を悪く思いながら、かすかに見えるラウドの時計塔に大砲の照準を合わせた。
……トシ坊、まだアタシ達の接近に気が付いていないのね。残念だわ。
「アルちゃん。熱分解光線砲に魔力チャージ」
「はい、お姉さま。発射まで後十秒」
カウントダウンを開始した瞬間、デイアーナが駆る神話級ギガス「バイラヴィー」のコクピット内に警報が大きく鳴った。
「ロックオン!? 何処? アルちゃん、確認を」
「お姉さま、11時半の方向です。あ! 地上に何かがいます」
アルクメネの指示でデイアーナは視線を砂漠の中に向けた。
「トシ坊、やるわねぇ」
そこには砂の色のマントを被り、自分の方に大砲を向けたギガスが居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「おにーちゃん。本当に敵が来たんだねぇ。わたし、もうちょっとで寝てたもん」
「リリちゃん、よく辛抱したわ。ここからが本番よ。トシ、榴弾砲の準備良いわよ」
「二人とも、初手が勝負。確実に当てていくよ」
ラウドから一キロ程度離れた砂漠の中。
僕が狩るギガス「ヴィロー」は、砂の中に開けた塹壕の中で伏せている。
ステルス効果の高い灰色なマントを深く被り、目だけをマントの外に出している。
事前偵察で敵がラウドに向かって来ている事を確認。
明日には攻めてくるだろう事を確認して、僕は夜の間にヴィローを所定の位置に隠して待機。
敵集団の動向を確認していた。
……敵が動き出すまではヴィローに任せて機内で仮眠。偵察は、飛行型のステルスドローンが行動中。敵のデーターは後方の伯爵様が率いる部隊にも送っているんだ。
「おにーちゃん。リニア榴弾砲へのマナチャージ完了。三発まで連射可能だよ!」
「トシ、敵集団に動きあり。一機が空に上昇。師匠さんの機体ね」
「了解。ヴィロー、やるよ」
【御意。ここで決めます】
師匠の駆るであろう女性型機体が高度を上げ、巨大な熱分解光線砲を構える。
おそらく、このままラウド市街を砲撃。
混乱状態にさせて、ゾンビギガスによって蹂躙するつもりなのだろう。
「いくよ、ヴィロー!」
「ターゲットロックオン。おにーちゃん、魔力炉のコントロールはリリにお任せ。トリガータイミングをお願いね」
「機体姿勢制御と敵情報はわたしに任せてね、トシ。リリちゃん、絶対当てよう」
【慣性制御を最大に。皆様、勝ちますぞ!】
僕はマントを被ったままのヴィローを立ち上がらせ、構えた榴弾砲を、明け方の空に浮かぶ機体に向ける。
「敵、熱分解光線砲発射まで推定3秒。トシ!」
「おにーちゃん」
「いけぇぇ!」
僕は、ぎゅっとトリガーを引いた。
ドスンという激しい衝撃がコクピットを襲う。
稲妻を放って撃ちだされた榴弾は、敵機前百メートル程度で炸裂。
多数の散弾が回避行動をし始めた敵機を襲った。
【散弾の三割が敵機を直撃。次弾、近接信管型を装填。行けます!】
モニターには、バランスを崩してふらつく機体が見える。
このまま連打で勝つ。
「もう一発!」
再び放たれた巨大な榴弾が、黒い装甲の女性型ギガスを襲う。
空中で姿勢が崩れ、ふらついた敵機はなんとか直撃を回避するも、近接での爆炎に包まれた。
【更に次弾装填。最後は徹甲榴弾、行きます】
「ラストぉ!」
脳裏に師匠の顔が一瞬浮かぶ。
僕は笑顔の師匠に心を奪われ、トリガータイミングが少し遅れた。
放たれた最後の砲弾は、敵機をかすめたのちに爆裂。
「三発目、外れました。ですが、近接爆発でかなりダメージはあるはず……」
「おにーちゃん。敵からビームが来るの!」
エヴァさんが砲撃結果を報告してくれる途中、リリから警告が飛ぶ。
……感傷を覚える時間も与えてくれないのかよぉ、師匠!
「ヴィロー、大砲を放棄。次のポイントに逃げるぞ」
【御意!】
ヴィローは撃ち終えた榴弾砲を放り投げ、出力を一気にあげる。
被っていたステルスマントを放り出して、僕はジグザグにホバー移動を開始した。
「ビーム、来ます!」
「おにーちゃん!」
後方警戒用のモニターでは、明け方の空にに浮かび各部から火花を出している女性型ギガスが熱分解光線砲を今にも撃とうとしている。
砲口に閃光が集まった。
「うぉぉ! ヴィロー。一気にアフターバーナーでブースト! ジャンプだぁ」
【御意!!】
カンで発射タイミングを読んだ僕。
更に加速とダッシュジャンプを掛けて、ビームの閃光から逃げを図った。
「きゃぁぁ」
「リリちゃん。しっかり!」
【ビーム直撃から回避成功。しかし近接着弾の為の余剰輻射熱で機体温度が急上昇。急速冷却を掛けます】
ヴィローは機体各部から冷却と煙幕を兼ねた白煙を上げながら、疾走する。
背後を見れば、熱光線によって穿かれた大穴が砂山の中にぽっかりと空き、穴の中は緑色のガラス質で覆われていた。
……砂がビームで一旦溶けてから固まったんだ。輻射熱だけでもヴィローを焼くんだから、直撃なんて喰らったら、撃墜されてたよ。
なんとかビームを避け切った僕。
次の行動に移った。
「さあ、第二ラウンド。まだまだいくぞ!」
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