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第55話(累計 第101話) 愛は世界を救う!! のか?

「まもなく目標の氷小惑星、対象名(コードネーム)『ラーフ』に最接近します。カウントと同時に単分子アンカーワイヤー射出。更に減速しつつ、ラーフと相対速度を一致させます」


 プロトさんのアナウンスで、作戦は進む。


 ラーフへ接近するために、姿勢を進行方向の逆方向にした長時間の逆噴射で減速。

 楕円軌道の遠地点をラーフとの最接近地点にしようと、最後の軌道調整が行われている。


「くぅぅ。逆(加速度)がぁ」

「おにーちゃん、頑張って」

「トシ、ここが踏ん張りどころよ」


 加速度変化に強いノルニルの姫達と違い、普通な人間の僕。

 ここが勝負所と辛抱する。


 ……ああ、気持ち悪ーい。


 水生成魔法によって生み出された水を、瞬熱魔法機構で一気に加熱。

 発生した大量の水蒸気を推進剤にして、メインスラスターから噴射。

 空気が無い世界で、宇宙を駆けるための機能。


 ……ノズルが熱で溶けない様に、一部は水のまま噴射しているらしいけど、難しい事は僕にはわからないや


「メインスラスター停止まで五、四、三、二、一。停止」


【御意、エヴァ姫。これより慣性飛行に移行します】


 エヴァさんのカウントに応じて、スラスターからの噴射が停止。

 これまで僕らを襲っていた逆Gが、ぴたりと止まった。


「後、二百五十秒で遠地点。『ラーフ』に最接近しますわ」


「慣性制御及び重力制御に問題無し。魔力炉も全開運転行けます」


「アンカーワイヤー、準備完了。タイミングは、おにーちゃんに任せます」


 プロトさん、エヴァさん、リリからの声で、僕は逆Gで半分飛びそうだった意識をしっかり保つ。


「さあ、皆。いくよ! ヴィロー、一緒に世界を救おう」

【御意。姫様方やマスターと共に戦えますのを光栄に思います】


 後部警戒モニターでは、どんどん光点が大きくなる。

 それは巨大で汚れた氷の固まり。

 太陽に近づくにつれ、それは表面から溶けだしてガスやチリの尾を吐き出していた。


「あれ? ラーフって『枯れた』、ガスを出さなくなった彗星じゃなかったんですか?」


「どうやら最近の軌道変更で、一部にひびが入ったみたいですわ、トシ様。それでガスが噴き出して、軌道要素が変更。落下予定が早まったみたいですの」


 僕の疑問に、プロトさんが答えてくれる。

 想定外の状況ではあるが、悪い事ばかりでもない。

 脆い氷小惑星であれば、破壊も容易ではないかと僕は思った。


「まもなく軌道交差します。アンカー射出用意、カウント。十、九、……」


 エヴァさんからカウントダウンが発せられる。

 ここが作戦一番の危険。

 もしアンカーが上手く刺さらず、相対速度が一致できなければ、最悪ヴァハーナは接触時に破壊される。

 また、追いつけずに接触時間が短く成れば、攻撃に使える時間も減り、破壊や加速が不十分になりかねない。


 ……でも、彗星から噴き出るガスを浴びながらの作戦は、かなり厳しいぞ。


 ガスを噴き出している巨大な氷の固まりが、ヴァハーナのすぐそばを通過する。

 ガスだけでなく、小さなチリも周囲にまき散らしており、それが重力場シールド越しにドスドスとヴァハーナに突き刺さる。


 ……くぅ。怖い! でも、負けてたまるかぁ。


 巨大な小惑星の重力干渉、そして周囲に舞うガスとチリの影響で、ヴァハーナは酷く揺れる。


「三、二、一、今!」

「射出!」


 僕の命令で、ヴァハーナから単分子で作られたアンカーワイヤーが何本も射出される。

 それの大半は、すれ違った氷の塊に突き刺さった。


「慣性制御、最大! みんな、頑張って!」


「ぐぅぅぅ」

「んん!」

「きゃぁぁ!」


 僕たちを激しい逆Gを襲う。

 それはスラスターによるモノの比ではなく、更に強大な物。

 慣性制御を最大級にしてすら、ヴァハーナの機体をひどく軋ませる。


「アンカーが!」


 深く刺さり切らなかったアンカーが荷重に耐えきれず、小惑星の表面から抜ける。

 一部は刺さっていた地面ごと砕けて、飛んでいく。


「スラスター全開運転! 重力制御もいっぱいにして、なんとか踏みとどまるぞ!」

【御意、マスター! うぉぉぉ!】


 残り三本になったワイヤーのうち、一本が抜けるのではなく、ブチンと千切れる。


 ……これは無理なのか!


「おにーちゃん、ここで踏ん張るの!」

「おお。うぉぉぉ!」


 僕は、なけなしで少ししかない魔力を振り絞り、構造強化魔法を使う。

 少しでも機体やワイヤーの物理強度を上げるために。


「相対速度、一致まで1、0.5、0.3、0.1。ナウ!」


 僕らを襲っていた逆Gが完全に落ち着く。

 そして、いつのまにかスラスターも噴射が止まっていた。


「はぁはぁはぁ」


 気密型ヘルメットの中で、僕は大きく息を吐く。

 生ぬるい空気と拭えない汗が、少し気持ち悪い


「お疲れ様、おにーちゃん」

「トシ、よくやったわ」

「お見事ですわ、トシ様」

【これで、作戦成功の確率が大きく上がりました】


「上手くいったの?」


「うん。後は何処に攻撃をするかの観測。そして攻撃をするの」


 ヘルメットを脱ぎ、後ろの顔を向ける。

 すると、同じくヘルメットを脱ぎ、身体のラインがはっきり見える宇宙用服を着たリリが満面の笑顔で待っていた。


「しばらく時間あるから、後ろの部屋でリリちゃんと一緒に休んできなさい、トシ。でもね、エッチは禁止。一緒にシャワーを浴びるくらいまでならOKかな?」


「そうね。トシ様には少しくらいは女性に対する免疫を付けてほしいものですし」


「うん。わたし、おにーちゃんと一緒にお風呂入る!」


「ちょ、ま。まだ作戦中なのに、こんなに悠長にしてて良いの? 僕、心の準備がぁ」


 この間のリリへのプロポーズ以降、妙に僕をエッチな事に誘うエヴァさん。

 そして、リリとのそれを認めるプロトさんに、元より僕にくっつこうとするリリ。


「おにーちゃんとお風呂、お風呂。さー、一緒にいくの」

「ちょっと待ってぇ!」


 僕はニコニコ顔のリリの手を振り洗うことは出来ず、そのまま休憩室へと引きずられていった、まる。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ユウベは、オタノシミでしたね?」


「うん。気持ちよかったよ」

「リリ。意味深な事を言わないでくれよ。エヴァさん、プロトさん。僕は誓ってリリの肌には一切触れていません。一緒にシャワーを浴びただけですからね」


 エッチな顔で、どっかの宿屋の下品な主人みたいな事をいうエヴァさん。

 それに対して、「気持ちよかった」と、これまた分かっているのか、分かっていないのか危険球な発言をするリリ。


 ……そりゃ、お互いに汗を一杯かいていたから、シャワーを浴びるのは気持ちよかったけど。


「でも、お互いの裸はちゃんと見たんでしょ?」

「うん。リリ、おにーちゃんの可愛い象さんみたいなオ……」


「ストーっプ! その話はここまで! プロトさん。『ラーフ』の現状を教えてください」


 僕はリリの危険球、デットボール級な発言を寸前で止めた。

 アレに関しては、実にデリケートな問題なのだから。


「あら、リリちゃんの口から直接トシ様の秘密を知りたかったのに。まあ、いいですわ。エヴァちゃんと一緒に隠しカメラと視覚共有で楽しませてもらいましたから。可愛いウイ……」


「うぁぁぁ! もー、プロトさんまで一緒に僕を揶揄わないでくださいませ。エヴァさんもです。僕にはプライバシーってものは無いんですか?」


「ノルニルの姫達を娶るんですから、このくらいは当たり前ですわよ、トシ」


【マスター。貴方には女難があるようですね】


 僕はヴィローにまで慰められてしまった。

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