表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/60

心の中の部屋に光が差し込む

 僕は畑作業を減らし、ゆとりの時間を増やした。

「去年は、ちょっと働きすぎた。おかげで、いくらかお金はまったけれども、あまり人間らしい心が保てなかった」

 そう思ったからだ。


 このまま毎日、単純作業を繰り返し、2年も3年も過ぎていくのは我慢できなかった。

 その先に何があるのか全く見えてこない。草を刈ったり、水をやったり、土を耕したり。それは、昨日もやった。明日もやるのだろうか?そこで何が得られる?

 何もだ。何も得られはしない。ただ淡々と同じ日々が過ぎていくばかり。同じ時間の繰り返し。そんなもの、100年あっても1000年あっても違いはない。違いなどありはしない!


 そうではなく、人には“成長”が必要なのだ。

 僕は、そんな風に考えるようになってきた。そうでなかったとしても、楽しく生きていきたい。

 成長もない。楽しさもない。ただつらいばかりの時間を送り続けるだけの人生。それだけは、我慢がならなかった。どうにかして、その時の輪から抜け出したかった。


 だから、僕は自分の畑を耕すのをやめた。

 畑仕事は近所の人に頼まれた時だけ。それも、お金になるか野菜でももらえる時に限った。

 自分の畑は果樹園にしてしまったし、最低限の水やりと、雑草が伸びた時に草を刈りに行くだけ。あとは放ったらかし。その草刈りだって、近所の人に電動草刈り機を借りて、サッと終わらせてしまう。

 その代わりに、近所の人の草刈りを買って出る。他の人の草を刈る代わりに電動草刈り機を借りて、自分の畑の雑草もついでに刈ってしまう。世の中、ギブアンドテイクなのだ。


         *


 ほとんどまともな収入にならない自分の畑作業をやめたことで、随分と時間にゆとりができるようになった。

 相変わらず外国語の勉強も続けてはいたが、再び映画やアニメも見るようになった。ゲームもするようになった。彼女とデートに出かけることもある。

 おかげで人生は充実するようになった。もう去年みたいに心を閉塞感へいそくかんに支配されることもない。心の中の部屋には光が差していて、ホコリは掃除機できれいに吸い取られた。部屋の中に置いてある物も、キチッと整理整頓されて並んでいる。

 もう大丈夫だ。


 それから、僕は絵を描き始めた。

 坂道さんや油山さんなど近所のシェアハウスの人たちも、絵を描いたり、彫刻を始めたりしていた。その影響を受けたのだ。


 中には、隣街となりまちの市民会館を借りて、自分の作った作品を発表している人もいた。あるいは、演劇の上演をやっている人たちも。

 僕も1度見に行ったことがある。お話の方はどうにしろ、演技の方は素人とは思えない抜群の演技力で、とても驚かされた。

「なんで、こんな田舎に、これほどの実力者たちが集まっているのだろうか?」と不思議に思ったくらいだった。


 こういうコトに時間をかけることができるのは、ベーシックインカムのいいところだ。

 もしも、これが都会で暮らしていたとしたら、働きながら創作活動もやらなければならない。会社に通ったり、アルバイトに出かけたりする合間あいまに、どうにか時間を作って活動するのだ。

 それでは、精神も疲弊ひへいしてしまう。心のゆとりがなくなれば、いいモノも生み出せなくなるだろう。演技の稽古けいこにだって身が入らないに決まっている。


 それがベーシックインカムならば、全く働かずに絵や演劇に専念できる。

 最低限の生活が保障され、あとは好きに過ごしていい。それは、ある意味で理想的な生き方であり、素晴らしい社会システムでもあった。

 そこには成長があり、楽しさも、充実感もある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ