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3年目の春が訪れて

 ベーシックインカム大実験が始まって3年目。

 4月になり、今年もまた、逃げ出した人や亡くなった人たちの代わりに100人の追加メンバーが発表された。それに加えて、住むことのできる範囲が隣街となりまちまで広がった。

 それによって、かなりの人たちが隣街へと引っ越していった。わずか自動車で15分程度の距離ではあったが、それでも人口の多い地域まで働きに出ている人たちにとっては、かなりの違いがあるのだった。

 僕の実家の辺りまで、ここから車で45分くらいかかる。それが、15分縮まって30分で通えるようになれば、かなり楽になるだろう。たまに行き来するだけならば、たいした差ではないだろうが、それが毎日のコトとなれば話は変わってくる。

 それに、隣街は、この辺りに比べれば営業しているお店も多い。大きなスーパーはもちろんのこと、本屋やおもちゃ屋や、僕がよく行くホームセンターもある。食事ができるようなお店だって何軒も並んでいる。小学校も中学校も歩いて通える距離にあるし、図書館だってある。

 そりゃあ、便利な地域に住みたいというのが、人の心情というものだろう。


 それから、僕の方にも大きな変化があった。

 恋人ができたのだ。お相手は、あの保育園の女性保育士さんだ。頻繁ひんぱんに保育園に給食を食べに行ったり、遊びに行ったりしている間に、自然とそういう関係になってしまったのだった。

 これにより、退屈だった田舎いなかでの生活にも張りができ、人生が楽しくなってきた。

 彼女は、僕よりも2つほど年上だったが、そんなコトは関係ない。

 僕ら2人の関係は、非常に落ち着いていて、ホンワリとやわらく暖かかった。まるで、この春の日々のように。


         *


 この街には特に何もなかったので、僕らはよく車に乗って出かけた。

 西の方に車を走らせれば大きなダムがあったし、南に向って実家の方へ行けば、にぎやかな街に出た。そこまでいけば、なんでもあった。

 実家の辺りは海も近く、僕らはよく海風に吹かれてたたずんだ。会話などなくても、それだけでも楽しかった。“心がつながっているな”と感じた。


 さらに、そこから海岸線に沿って西に向うと、“クラゲじま”という観光地まで行ける。こちら側からフェリーが出ていて、その船に乗って15分ほど揺られていれば、もう島だ。

 クラゲ島は、全国でも有名な観光地となっており、世界中から人々が訪れる。外国人のお客さんも多く、お店の人も慣れたものだった。


「ボンジュール!」

「ニーハオ!」

「エクスキューズモア」

「ダンケシュ」

 などと、英語だけでなく各国の言葉が飛びかっている。

 もっとも、みやげ物屋や食べ物屋の屋台の人が話せるのは、ほんとうに簡単な会話だけだったが。それでもその一言が、日本という遠い異国の地を訪れた海外の人たちの心をなごませるのだった。


 クラゲ島には、大きな神社があり、水族館があり、ロープウェイもあった。

 自動車は本土に駐車しておくこともできたし、車ごとフェリーに乗って島に渡ることもできた。そうして、車で島の中を観光して回れるようになっているのだった。


 そんな感じで、僕の人生はうるおいに満ちていた。

「このまま、この辺境の地で暮らしていくのも悪くないかもしれないな」

 そんな風に思うようにもなってきた。

 こうしてこの何もない田舎の街で暮らし続け、やがては結婚し、子供が生まれ、年を取っていく。仕事は近所の畑でも耕せばいい。そんなに大きな収入にはならないかもしれないが、どうにか生きていくことくらいはできるだろう。

 …と、この時は考えていたが、その考えはそう長くは続かなかい。

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