外国語の勉強を始める
僕は、英語の勉強を始めた。
遠くに行くならば、外国だろうと思ったからだ。どこに行くかはまだ決めてはいなかったが、とにかく英語は必要だろうと思った。だから、まずは英語の勉強から始めた。
それ以外にも、イタリア語やフランス語やドイツ語、それに中国語も。どれも少しずつではあったけれども、基本だけはかじってみることにした。
「このベーシックインカム大実験が終了したら、僕は外国へ行くんだ…」
その思いは、日に日に強くなっていく。
もしかしたら、それは単なる夢物語にすぎないのかもしれない。それでも、その希望にすがるしかない。今の僕の人生には、そのくらいしか生きていく希望がなくなっていた。
それに、ちょっとばかりの貯金はある。このくらいでも、3ヶ月やそこら海外を旅するくらいのことはできるだろう。残りの時間はもう3年ある。その間にもっとお金を貯めれば、半年か1年か。わからないけれども、とにかくかなりの期間、旅をするくらいの金額は貯められるだろう。
その思いから、冬の間はひたすら語学の学習に時間をさいた。
インターネットの通販サイトでテキストやCDを購入し、耳で聞きながら覚えていく。自分でも発音してみる。暇さえあれば、テレビの語学番組を見て、頭を外国語に慣らす。
NHKでやっている語学番組は、4月始まりだったので、もうすでにかなり高度なコトを放送していた。完全に初心者向けではなくなっており、中級者向けだった。それでも構いはしない。今の内にこの環境に頭を慣らしておいて、また4月になったら最初から学び直せばいい。
そのくらいのつもりでやっていた。
おかげで、意味や文法は全然理解できなくても、外国語に対する“恐怖感”のようなものだけはなくなった。なんとなく、「これはドイツ語だな」とか「あ~、フランス語だ」「これは聞いたことのない言語」などという聞き分けくらいはできるようにもなった。
なにしろ、冬の間中ずっとそんな風に生活していたのだ。
近所の食堂にご飯を食べに行ったり、ヒツジマーケットで買い物する以外は、ずっと家の中にいてそんな暮らしを続けた。
アレだけ好きだったアニメもあまり見なくなり、ゲーム機にはほとんど触れることすらなくなってしまった。
唯一、映画だけは見続けた。それも、外国の映画を中心に。字幕は出るとはいえ、音声は英語やイタリア語などだ。なるべく吹き替えの映画は見ないようにし、できる限り字幕に頼らず見るようにした。
そのおかげで、アクション映画などは、字幕なしでもなんとなく内容が理解できてしまうようになった。もっとも、元々がたいした内容ではなかったともいえるのだけど…
それに加えて、簡単なフレーズは頭に刻み込まれ、自分でもついつい口をついて出るようになった。ただし、それは「ファック!」とか「シット!」とか「オーマイゴッドネス」「ホーリーシット!」「マザーファック!」など、およそ日常生活では役立たないフレーズばかりだったのだが…




