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遠くに行きたい…

「遠くに行きたい…もっと遠くに行きたい…」

 そんな風な思いが心を支配していく。

 この小さな田舎街いなかまちから飛び出して、広い広い世界へと出ていきたい。日に日に、その思いは増していく。


「みんな、よくこんな人生に耐えられるな。この生活は、あまりにも退屈すぎる」

 僕は、ついついそんな言葉をつぶやいてしまう。

 そうして、やがて、それは口癖くちぐせになっていく。


 それは、この街のせまさばかりが原因ではなかった。根本的な性格に問題があるのだ。

 毎日毎日、同じ行動の繰り返し。僕は、そういうのにすぐに飽きてしまうのだ。たとえ、それがどんなに安定し、時間やお金にゆとりがある人生だったとしても、それでも嫌になってしまう。

 世の中には、自分から望んでそういう人生に身を投じる人もいると聞く。でも、僕にはとても信じられなかった。

 毎月決まった収入が得られるこのベーシックインカムというシステム下においてさえ、こんな感じだ。仮に、これが都会で暮らす公務員だとか大企業の社員だったとしても、変わりはしないだろう。最初は目新しく新鮮に思えた環境も、やがてドス黒くにごっていってしまう。

 まるで、水の入れ替えの行われない沼のように、いろいろな負の感情が心の底に沈殿ちんでんしていってしまうのだ。


 畑を耕していても、部屋で映画やアニメを見ていても、シェアハウスの集まりに参加してみんなとお酒を飲んだりご飯を食べたりしながら話をしている時でさえ、そういうもいわれぬ感情が心の世界を浸食しんしょくしていくのだった。


 最初、心の中の世界は、真っ白な部屋だった。

 そこに様々な物がかざられていく。経験を積めば積むほど、部屋の中は物であふれ返っていく。

 それが、ある時から停滞を始める。部屋に物は増えなくなり、ホコリが降り積もり始める。やがて、ホコリの量は増加していき、部屋の空気をよごし出す。空気中はホコリでいっぱいになり、息苦しくなる。もう呼吸をするのも大変なくらい。

 さらには、部屋のすみから“にじみ”が生まれ始める。最初は、小さなインクみ程度だったのが、段々と広がっていき、徐々に徐々にその面積を広げていく。床いっぱい、壁いっぱいに黒いにじみがおおい尽くし、やがては天井まで到達する。

 そうして、漆黒の闇が完全に僕の心の部屋を埋め尽くすのだった。


 こうなると、もう駄目。

 何をやってもうまくはいかない。何もやる気がわいてこなくなる。誰といても何をしていてもむなしいばかり。


「ああ…遠くへ行きたい。誰も知らない遠い世界へと向いたい」

 僕は、またそんな風につぶやいてしまう。


 さいわい、季節はもう冬だった。そろそろ、外に出る必要がなくなる。食料を買いに行く以外は、外に出かけなくて済む。誰とも会わなくていい。

 しばらくの間、また部屋の中で引きこもって暮らそう…

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