プロローグ
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藤原良晴は、屋敷の中で瞑想していた。俺の先祖は、陰陽師だったそうで、古くから妖怪が悪さをしたときに、懲らしめていたそうだ。
と、死んだ祖母が言っていた。だが、そんな子供だまし信じるわけがない。もう俺も高校を卒業して大学生になる。
きっと祖母は、幼い俺をからかっていただけだ。妖怪なんているはずがない。科学的にありえない。合理的でない。
俺は、化学の素晴らしさを間近で体感したのもそうだが、家に対して反発する気持ちもあった。昔から友達に、陰陽師だの、妖怪だの小言を言われ続けて、うんざりしていた。
俺は、信じていないのに、先祖が、陰陽師で妖怪を退治していた伝承があるというだけで。しかも、その伝承は、かの有名な安倍晴明ではない。そんなマイナーな陰陽師が先祖にいるせいで、揶揄われてきたのだ。
そんなイメージを払拭するべく、大学では化学を専攻することにした。化学の信奉者になり、歴史に名を残す。俺は、そのときが待ち遠しく、高校では、勉強をかなり頑張り、有名な大学に行けることになったのだ。
俺は、瞑想を終えると、居間に戻る。どうせ、戻っても、誰もいないはずだ。親は、遅くまで会社にいて、妹の千夏は、ともだちとどこかに遊びに行っているに決まっている。そう思っていた。
だが、予想に反して、両親も、千夏も、なんかの準備をしていた。
こちらに俺が近づいてきたことを察知した千夏が、俺を居間から遠ざけるように手を引っ張った。
なんのつもりかわからないが引っ張るのがとても強かった。
居間からだいぶ離れて、妹は、ただ、待っているようにと言った。
俺は、なにか悪いことをしたか不安だった。大人しく待っていると、妹が来た。
そして、居間に着くと、クラッカーを持った両親がいた。クラッカーが勢いよく鳴る。
「happy birth day to you」と言いながら手を叩いている。
勉強に根を詰めていて、忘れていたが、今日は、俺の誕生日だ。だから、家族全員が揃っていたのだ。
誕生日ケーキには、火が灯っている。十八本。俺は、早生まれで、3月24日、今日が俺の誕生日だ。
ろうそくに息を吹きかけ、勢いよく消す。顔を上げた瞬間、父と母の首が無くなっていた。
俺は、顔面についた赤い液体を手で拭う。それが、母と父の血液であることを理解するのに時間がだいぶかかった。
なにかが、転がってきた。それは、父と母の生首。
なにがなんだかわかなくなり、俺は後ろに尻もちをつく。
そうだ、千夏はどうなった? 千夏は?あたりをみると、黒い影が、千夏を連れ去るのが見えた。
千夏を、千夏を返せ! 無我夢中で突進しようとした。しかし、黒い影は、ニッと笑い、その瞬間、俺の首は、千切れかけていた。
気がつくと、あたりは、火に包まれ、俺の首からは絶えず血が流れ出ていた。
自然と涙が流れ出る。涙と血液が入り混じり、よりその液体がカサを増す。
俺は、なにもできなかった。妹を助けることをできなかった。父と母の首が無くなっていて動揺してしまった。あの黒い影に復讐できるなら、今すぐにでもしたい。あの影を殺してやりたい。憎い! 憎い!
千夏を、千夏を返せ!
俺は、這いつくばり、動こうとするが、多量出血のためか、そこで意識を失った。
目覚めたとき、最初に見たのは、白い、白い天井だった。あたりには、消毒液の匂いが充満している。とても鼻につく匂いだ。
首に手をやると、包帯が巻かれているのがわかった。やっぱりあの悪夢は現実で、あの黒い影も、あの千夏を連れ去ったなにかもまだ生きている。
千夏はまだ生きている。それが生きる原動力になった。
俺が起きたのが、わかった医者がなにか言っているが、聞く気にもなれない。
看護師が誰かを連れてきた。その人物が誰かわかった途端、俺は飛び起きた。
その人物は、長らく行方がわかっていなかった祖父だった。もうどこかで野垂れ死んでいるだろうと諦めていたのだ。
祖父が俺に近づく。医者たちに断りを入れて、医者たちは遠ざかっていった。
「良晴、久しぶりだな。なにがあったか、ゆっくりでいいから話してくれないか?」
久しぶりに祖父のしわがれた声を聞いた。
事の顛末を話すと、なるほどなと祖父は納得した。
「そいつは、妖怪じゃ、良晴。妖怪、お前の嫌っていた」
妖怪? ふざけるな、何が妖怪だ? よく見えなかったが、あれは多分人間なはずだ。そうじゃなかったら、そうじゃなかったら、俺の今までの人生観を否定しなければいけなくなる。
「信じられないのはわかる。ただ、そういう存在は、いるんだ。この世界に。最近、現世と黄泉との境界があやふやになっている。黄泉から悪い妖怪が抜け出したのかもしれん」
俺は、耳を塞ぐようにして、聞かないようにした。これは、老人の戯言だ。そんなものいるはずがない。
俺が、うじうじしているのを見て、祖父は、大声を出した。
「シャキッとせい。その話は、また今度しよう。まずは、体をさっさと治せ」
そう言って大股で去っていった。
俺は、様々な出来事が重なり、ようやく、家族のために、泣いた。生まれたての赤子のように。
一ヶ月後、ようやく、傷が完治した。あのときは、首が千切れかけていたと思ったが、そうでなかったようである。
退院したあと、祖父について行った。思い出のあの家は、もう焼け焦げてただの塵となっている。
祖父の住んでいる場所は、あちこちがひび割れていて、とても人間が住んでいるとは思えなかった。
祖父は、大切な話があると、引き出しから何かを取り出した。
それは刀だった。それを俺に向かって投げる。重厚感は、あったが、それよりも腕に馴染むような気がした。
「それは、妖刀村正と言って、一般人が使うと、ただの呪具にすぎないが、妖力を扱える我ら陰陽師の末裔は、妖怪、悪鬼を払う道具として使える」
妖刀村正は、さすがの俺でも知っていた。しかし、どこかに飾られているはずだ。
「お前はきっと疑問に思っているだろうが、世間的に有名な村正は、ただの贋物だ。多少妖力を持った呪物に過ぎない」
しかし、こんなものをもらって何をするのだろう。
祖父は、もう一つ大きな本のようなものを取り出した。
「これは、妖怪を封じ込めることができ、一度封じ込めた妖怪は、使役することができる」
本を開くが、中には、何も書いていない。
「まだ、ページになにも書いてなくて当たり前だ。これから集めるんだからな」
「へっ?」
「なにを呆けた顔をしておる? 家族の仇を取りたくないのか?」
それは当然取りたい。そして、千夏を連れ戻す。
「いい目になったな。よし、準備をするぞ。まずは力を蓄えなくては」
「じいちゃん、なんの準備をするんだい?」
「これから、日本各地を周り、妖怪を手に入れる。お前の話を聞く限り、相当な手練れだ。気を引き締めていくぞ」
そうして俺とじいちゃんの旅は始まった。




