第39話 魔王デイブレイク
季節はめぐり、冬。朝晩は吐く息が白く染まり、上着無しでは外を出歩くのもおっくうになる頃……。
「!!」
ソルは目を覚ました。時刻はぜんまい仕掛けの壁掛け時計が言うには深夜5時……深夜と言うよりはそろそろ夜明けで「早朝」といった方が正しい頃だ。
たまたま目が覚めるのが早かったわけではない。侵入者をダンジョンが探知し、ソルに伝えたのだ。
「誰だ? !!」
ダンジョンから送られてくる情報で、ソルは悟る。
顔や見た目は10代後半の若い青年、それでいながらどことなく老人が好むような旧式の古臭いデザインの服を着て、何よりソルになんとなくだが似ている姿。
コイツとはいつか必ずぶつかる時が来る。その日が来るのを待ち続け、ついにこの日それが現実のものとなった。
「召喚獣は全員俺の部屋へ来い!」
ソルは指示を出した。数分後、1体ずつの人虎とミノタウロス、3体の人狼、そして2匹のドラゴンが彼の部屋へと集合する。
その直後、侵入者が現れた。
「随分と数だけは多いお出迎えだな」
人知れない妖しい何かを放ちながら、男は……ソルになんとなく似ている男は、魔王独特の白色の目をダンジョンマスター側に向ける。
「じいちゃん……いや、魔王デイブレイクだな? 15年ぶりだな」
「ソルか……生きてたか。とりあえずこのダンジョンをもらいに来た。構わんな?」
「誰がタダでダンジョンをやると言ったんだ? かかれ!」
ソルの合図で召喚獣たちが一斉に魔王デイブレイクに襲いかかる! だが……。
◇◇◇
午前6時。太陽がすっかりと顔を出し、また1日が始まろうとしていた。
「「ごちそうさま」」
レナとディラスが朝食を食べ終えて後片付けをしていた、その時だった。
コンコン
誰かが家のドアノッカーを叩いた。
「はーい」
ディラスが玄関のドアのカギを開けて出てみると……兵士が立っていた。
「ディラス様ですね? アルフレッド様がお呼びです。娘のレナさんと一緒に至急病院まで来てくれとの事です」
「病院だと? まぁいい分かった、行くと伝えてくれ。ところで何で病院なんかに?」
「それが、私はアルフレッド様から至急ディラス様に伝えて呼んで来てくれと言われただけで、詳しい話は聞いてないのですが……」
「そうか、分かった」
アルフレッドが病院に……? 確か彼は何か特別な持病があったわけではない。何があったのだろうか?
「レナ、アルフレッド様が呼んでいるから一緒に病院に行かないか?」
「え!? アルフレッド様が!? 何かあったの?」
「詳しい話は父さんも分からないんだが、とにかく来てくれとの事だ」
「分かった、支度してから行くね」
2人は身支度をして病院を目指した。
「ディラスとレナです。アルフレッド様から来てくれと言われたのでやって来たのですが、居場所は分かりますか?」
「ディラス様とレナ様ですね? お話は伺っております。案内いたします」
病院に着くと受付には既に話が行ってるらしく、名前を言うとすぐに案内してくれた。
2人はとある病室へとたどり着くと、その中にアルフレッドがいた。
彼は普段着でベッドのそばにあるイスに腰かけていた。どうやら彼が入院した、というわけではないらしい。
「アルフレッド様。ディラス、ただいま参りました。どのようなご用件でしょうか?」
ディラスに言われるとアルフレッドは立ち上がり、ベッドに横たわっているソルを見せた。
彼は上半身裸で、その身体には包帯が巻かれていて明らかに大きなけがを負っているように見えた。
「!! ソル!?」
「!! せ、先生!?」
その姿に、思わず2人は声を上げる。
ベッドのそばには普段彼が着ている服が捨てられるように置かれていた。
出血してから時間が経ったのか血がべっとりとこびりついており、そこからもかなり大きなけがをしたのがうかがえる。
「ソル!? 何があったんだ!?」
「先生!! どうしたんですか!?」
「ああ、レナにディラスか。魔王デイブレイクにやられたんだ。ダンジョンを奪われて召喚獣もこいつら以外は全滅。何とか脱出するので精いっぱいだった。
応急手当てはしたから本格的な治療が出来る医師が来るまでは安静にしてくれとの事さ」
手当てはしてもらったというが、ソルの身体にはまだ痛みは残るのかその表情からは身体にジンジンとした苦痛が走っているのが読み取れる。
レナは彼に言われて同室内の別のベッドに目を向ける。
彼女が召喚したドラゴンのドラとゴン、そしてソルが子供の頃から仕えてる人狼のウルフェンが同じように傷の手当てをされた上で倒れるようにベッドに横になっていた。
「ドラちゃん! ゴンちゃん! それにウルフェンさんまで!」
レナは心配なのか召喚獣の方へと駆け寄る。幸い命取りになるケガはしていないようだ。
「アルフレッド様、これは一体?」
状況を何とか飲み込んだディラスは傍にいたアルフレッドに声をかけた。
「城壁を守る衛兵たちから傷だらけのソル達がいると聞いてやってきたらこの有様でさぁ。ボクの命令で即座に病院に運ばせたんだ。ソルがここまで酷くやられるなんて滅多な事じゃないぞ」
「ですね」
ディラスは改めてソルの方を見る。彼のダンジョンで剣を交えたり、ラズー子爵の件でソルと行動を共にしていた時に彼の強さは把握しているつもりだった。
その彼がここまでやられるとはただ事ではなさそうだ。
「お前が負けるなんて余程の事だな」
「ああ。正直俺も相手を見くびってた。相手も15年経てば強くなるもんだなって」
「魔王デイブレイクと言ったな? 倒せるのか?」
「もちろん。当てはある」
ソルはディラスと話しながらベッドの下に置かれていた大型のリュックサックを持ち出した。中には当面の生活資金と大金貨7枚、ソル用の武器と防具が一式詰められていた。
「備えにしてはかなりの額だな」
「こいつは傭兵の雇用代さ。冒険者ギルド行けば20名は固いな」
「なるほど。ソル、魔王退治ならアニキに言って出来るだけ国の支援を受けさせるぞ」
「そうしてくれると助かるぜアルフレッド。魔王が住み着いたら倒さない限りこの国は死の大地になるから出来るだけ戦力が欲しい。国からも戦力を引っ張れるだけ引っ張ってくれ」
こういう時、アルフレッドは役に立つ。4男坊と言えど王族には庶民からすればケタ違いの権力やコネがある。魔王討伐には大きな助力となるだろう。
「先生、大丈夫でしょうか?」
ケガをしているソルが心配で今にも泣きだしそうな表情をしているレナが不安げにそんなセリフを漏らす。
「ダンジョンマスターやってりゃこの程度のケガは良くある話さ。大丈夫。すぐに退院するから今日は家で大人しくしてるんだな」
ソルは傷の痛みはあるものの、出来るだけ不安がらせないように優しい表情と口調でレナに語りかけた。
彼女がダンジョンに来るようになってからはここまで大きなケガをしたことは無いから、レナからしたら余程不安なのは良く分かる。
「レナちゃん、大丈夫だよ。この国最高の医者を用意したからすぐに退院できるって」
「そうですか。ありがとうございますアルフレッド様」
それにアルフレッドからも励ましてもらえたから、彼女の不安はだいぶ打ち消された。
「じゃあボクは仕事だからまた来るね」
「俺も仕事があるから離れるぞ。レナ、お前は家の中にいなさい」
「レナ、俺の事は大丈夫だから安心して待ってろ」
「わ、分かりました先生……お大事にしてくださいね」
ソルの関係者3人は病室を出て行った。




