act46 日常へのreturn
act46 日常へのreturn(帰還)
彼らが、戦場から帰還した。
何処に帰還したか、もちろん彼らの村にである。
本拠地なのだから当然だ。
カナメが連れ戻った彼女は・・・セーレン・シュヴァルツは村の住人として迎えられた。
彼女にとって顔見知りはカナメのみ。
なのに当のカナメは村での仕事の為、林業を担う山本組の面々に連れ去られた。
何でも彼が村を開けていた期間長かったため、仕事が溜まっていたのだという。
問答無用に捉えられ連行されていった。
なので彼女は、完全に放置され仕方なく新人育成カリキュラムにぶち込まれることとなる。
つまり、カルウが管理する赤坂村保育幼稚園と老人介護ホームの職員として行動することになった。
だが彼女は、カルウも彼女には顔見知りなのだが、覆面のままで顔を見ていないので知らない人間である。
さらに、会社の連中に顔見せもしていない。カナメが逮捕、連行されたためだ。
彼女は、カナメが拾ってきたことになっているので筋を通すためにカナメが紹介しないといけないことになっている。
突然、与えられた仕事に大慌て、説明もなし、大混乱である。
彼女は、状況が理解できていなし、自身の事も何も説明できていない。
その為、彼女の扱いは宙ぶらりん状態である。
結構、この状態が彼女には負担になっていた。
根がくそ真面目なのがさらにわざわいしていた。
必死になじもうと認められようと努力してしまうのだ。
それが、彼女をさらに追い詰めていく。
せめて顔見知りがいれば、少しは気が緩むのかもしれないのだが、それもいない状態である。
気持ちだけが焦り、追い付こうと思うことが、さらに彼女を追い詰めていく。
ただ、他の職員は丁寧に説明し、仕事しているのが救いなのかもしれない。
きちんと仕事を覚え、村の環境に右往左往していた時よりはなじんで来ていた。
それでも、心を許せる人がまだいない。
本来はカナメが彼女の気持ちを緩めないといけないのだが、カナメは絶賛缶詰中である。
カナメの仕事である木工加工業の依頼がてんこ盛り状態なのだ。
それが片付くまで缶詰状態が続くらしい。
納期がほぼ無い状態なため仕方がないのだが、そんな事に巻き込まれるセーレンがいい迷惑だ。
そうこうしているうちに1週間たってしまった。
カルウにはフォローをしてもらい、ペルボや時岡ナズナに愚痴を聞いてもらっていたのだ
この三人は彼女と行動を共にしていた人間なのだが、一向に気づく気配はない。
雰囲気は多少違うにしろ声は同じである。
さらにペルボに至っては何も変えていない。
気づいてもよさげなのだが、気づきもしない。
それどころじゃ無いカラかもしれない。
環境の変化に慣れる為に必死過ぎるからかもしれない。
安易に笑えないし、ツッコめない状態である。
無理をさせないようにしている様なのだが、彼女はいたたまれないのか。
勝手に仕事を見つけては動くようにしている。
結果、無理をすることになる。
必死なのだろう、周囲も理解できてはいた。
無理をしないことを頑張るのは結構難しい。
特に根が真面目な人は。
手を抜くことを気にする為、余計である。
現状彼女にそれができるのは、カナメだけなのだろう。
その当の本人が現在缶詰中なのでタチが悪い。
つまり、手詰まりなのだ。
彼女にとって話せる、うわべだけじゃなく苦労を共にした同志的な人間が言わないと聞かないのだろう。
いま彼女は、必死に結果を求めすぎているのだ。
そんな状況を見かねた早坂カヨコが、カルウに話しかける。
「カルウちゃん、カナメはまだ戻らないの?」
「そうですね、本来なら3週間前には帰ってきている予定だったんですよ。
それをあいつがヘマやらかしてあちこちで仕事の遅れが出ています。
最低でもそれを消化しないとこっちに来るメドも立ちません」
とカルウは書類片手にカヨコの質問に答える。
「あの子も何やってんだか、戻ったらお仕置きね」
と頬杖ついてため息交じりに言うと
「それをすると面倒事が増えるので止めてもらえませんか」
「そう?そんなこともないと思うけど?」
ととぼけたことを言う。
早坂カヨコは古流「楠木流」の当主でもある。
簡単に言えばカルウたちの武術の師匠でもある。
年齢も言っているのだが、今もって技の冴えは増すばかり。
そんな人が言うお仕置きがどれほど怖いものかは、カルウも理解できる。
なので止めに入るのは当然なのだ。
「とにかく、今日は道場を使用してもいいですか?」
「かまわないけど、どうするの?」
「これ以上彼女をほっておくと破裂してしまいそうなのでガス抜きとネタ晴らしをします。
椚さんとペルボ、ナズナにはすでに声を掛けました。
ホントはカナメがやらないといけない事なんですが、それまで待つと彼女が持ちません」
「そうね、そう思うわ。じゃあ、私は彼女の評価をまとめようかしらね」
「そうしていただけると助かります」
「あなたたちが道場に向かってから1時間後くらいに評価結果が届けばいいかしらね」
「そのくらいでいいと思いますよ、そのくらいあればガス抜きくらいは済んでいると思います。
はあ、なんでこんな手間ばかりあいつは持ち込んで来る」
カルウは表情を変えはしないが疲れ気味に言うと
「ホントそうよね、でもカルウちゃんは見た目と違ってホント周りの心の機微に敏感ね。感心しちゃうわ」
「そうでもありません、せっかくの人手です。使える状態になる前に破裂されても困りますからね」
「まあ、相変わらずひねくれた言い方ね。それはホンネの裏返しなのかしら?」
「そこまで考えてませんよ」
「ホント、良い子ね。キミは、カナメもあなたくらい気が使えればいいのに」
「とにかく、彼女連れていきますね。後お願いします」
「わかったわ、存分にガス抜いてやりなさいね」
「了解」
そういうとカルウは、彼女・・・セーレン・シュヴァルツを連れ出した。
その姿を見たユタカは、嫌な顔をする。
「気になる?ユタカちゃん」
早坂カヨコはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「え、そんなことありません」
プイっと顔を背ける。
「かわいい~」
その状況を楽しそうにしている早坂カヨコはほくそ笑んでいた。