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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.05 異国の戦場
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act44 悲劇のdemise弐

act44 悲劇のdemise(終焉)弐



「じゃあ、後は頼む。」

というシグナル。


「ああ、まかしとき。これからこのドアホどもがこさえた実験結果を根こそぎ消してくるわ。」

と言うとウィルスはゆっくりと歩き始めた。


残ったのはシグナルとリセト、セーレン。


ちなみにリセトは茫然として部屋にある試験管を見ていた。

セーレンは床にひれ伏し絶叫していた。


シグナルはと言うと試験管の中の少女に語り掛けていた。

「今、お前たちを弄んだ結果を削除するために仲間が動いている。

オマエさんを辱めた情報はすべてなくなる。それを聞いてから君の悪夢を終わらせる。

そうすれば、安心して父親の所に行けるだろう。本当はこういうことは不本意なのだが、状況が状況だ。

割り切るさ。だからしばらく待ってくれ、お嬢さん。」

と優しい口調だった。


「これがシグナルさんが非情に徹してきた理由ですか。」

声を絞り出すようにリセトは話し出す。


「そうだ、このことはあまりにもひどい内容だったからな。隊長と相談してお前には伝えないことにした。

現実を見せることで覚悟を持たせることにしたんだ。」


「そうですか、私は考えが甘いんですか。」


「そうだな、甘いな。だからこそ体験し知っておく必要があった。理解はできるな。」


「はい、こんなことが実際に起きるなんて思いもしませんでした。」


「オレたちはこの悲劇を起こさない為、戦っているわけだ。お前にもいずれ突き付けられる作戦かもしれないことを

覚悟しておけ」


「わかりました。」

重く静かな返事が返ってきた。


もう一人から質問が来た。

「この依頼はシュトーレン隊長からですか?」

セーレンは声を振り絞って話始めた。


「そうだ、彼は、娘の病気を何とかしてやると言われてその話に乗ったのだ。

その結果がこれだ。彼は娘の命を握られ言う通りにするしかなかった。

本当は、カナメに依頼するつもりだったようだ。あいつの事調べているうちにオレたちにたどり着いたようだが。」


「私は知らなかった。こんなことが行われていたなんて・・・」


「そうだろうな、でもこの現実は知らないでは済まされない。

アンタも関係者なんだからな。」


「わかっています。こんなことも知らずに私は他のひとたちをバカにしていたと思うと情けないですがね。」


「多分だが、あんたがそういう人間だからアンタの所の隊長さんは助けるように依頼してきたんだろうな。

他の連中と違ってまだ、立ち止まれると思ったんだろう。」


この非情な事実を見せられ、立ち止まり反省できればまだ人としては大丈夫だろう、と考えたのだろう。

自分本位の人間にはそれができない。


できない人間は処分の対象にしていたのだ。


「隊長は今頃どうなってんの」


「そうだな、カナメが基地ごと処分しているころだろう。」


「そう、そうなんだ。で、私はどうなるの。ここで処分されるの。」

彼女の瞳には悲壮感が漂っていた。

この場所は人としての一線を越えてしまっている。


たとえ、知らなかったとはいえ、自分はその関係者だ。

知らなかったで済まされない。


「聞いていたか、カナメとお前さんは救出対象だ。

行くところがないなら、カナメに聞いてみな。あいつ次第だ。

オレはそこまで関与しない。」

突き放すように言うシグナル。


その言葉に黙るセーレン。

今はいろいろと困っているのだろう。



「シグナルさん、ここで待っているだけでいいんですか。」


「そうだな、お前さんはここで凹んでいる奴の面倒を見ながら待っていろ。」

そうシグナルは、言うと手荷物を無造作につかみ部屋の奥に消えていった。


リセトは、近くにある少女が浮かぶ試験管を見ていた。

そのたたずむ姿は悲しそうであり、つらそうにも見えた。


小一時間後くらいにシグナルは戻ってきた。

中身のなくなった手荷物をもっていた。


「後は、ウィルスが仕掛けて回ってくれてんだろ。それでもだめならオレがこの建物ごと消し飛ばす。」

と物騒なことを言った。


「そ、そんな事できるんですか。」

リセトが引き気味に尋ねた。


「ああ、できる。半分ほど本気になればだがな。」

どこまで非常識な人なんだ、と思うリセト。

村でも相当非常識なことをしていたけど、この発言はとびっきりだ。

でも、冗談にも思えない。


この人は、いつも言ったことを行ってきた。

まさに有言実行だ。

だがらこそ怖いのだ。


「まあ、その時はお願いします。」

答えが、これしかなかった。


シグナルは、その返事を聞いた後少女が入る試験管に手を添え、

「嬢ちゃん、お前さんを玩具にして来たデータのすべてを握りつぶしてから

安心してアンタを楽にしてやる。もう少し待ってくれ。」

彼は、試験管の少女を安心させるように言った。


試験管の少女は、はかなげに笑っているように見えた。


しばらくして、ウィルスが返ってきた。


「ほな始めよか。」

と言うと試験管の少女の前に座り込み、端末を開く。

彼女に見えるように、だ。


そして、エンターを押すと試験管以外の電気やシステムがすべてダウンした。

「終わったで、これで人を玩具にしたデータはすべて消去した。なんも残っとらん、あんた以外は。」

と言うとウィルスはハンドガンを撃つ。


撃った方向からいやらしい笑顔を浮かべた白衣の男が現れた。

その男は、シグナルに撃ち殺されたはずのデニット・サキカサヒルだった。


「つまんないね、せっかく死んだふりしたのに」

とふてくされた顔で白衣のポケットに両手を突っ込んで答える。


「アンタが自分の身代わりを用意しているのは知っていた。人間を玩具にしてその中から自分の影武者も作ってだな。」

シグナルは静かにそして低くつぶやく。


「へえ、あんたも気づいてたんだ。その上であそこまでやるんだからひどいよね。」

からかうように言う。

これはシグナルをあおっているのだ。

冷静さを奪うために。


「めんどくさいな、無駄な煽りだ。」


「つまんねえな、乗ってくれよ。

ここまでオレの成果をすべてふいにしてくれたんだ。

そのくらいいいだろ。」



「動けないオマエの人形の相手は面倒だ、と言っている。」

と言うとシグナルは目の前にいるデニット・サキカサヒルに容赦なく引き金を引き3発撃ち込む。

確実に相手を仕留めた。


だが、別の所から新たなデニット・サキカサヒルが現れる。

「ひどいな、ためらいなしかよ。」


「言ったはずだ、ここに縛り付けられて動けないオマエの相手なんざしている場合じゃいいんだよ。」

シグナルは新たなデニット・サキカサヒルの頭を打ち抜く。



「すまんな、すぐ終わらせるわ。」

とウィルスは言うと、ノートパソコンを取り出し軽快にキーボードをたたく。


そして、彼がEnterを押すと

建物の電気が落ちる。


「これで奴の所まで行けるのか。」

シグナルは低く静かに尋ねる。


「そやな、電源落とす前に各ドアは開けておいた。セキュリティも解除しておいた。

電源復活は10分後や、何とかなるか?」

ウィルスは答えて、できるかを尋ねる。


「ああ、知ってるだろ。できるし、相手がオレが一番嫌うタイプだということを。」

と言うとシグナルは闇夜に消える。


「あのどちらに行かれたんですか」

リセトが訊ねると


「あの無駄に現れるあのドアホを始末しに行ったんや。」

と言う。



エレベータの扉は各階すべて開いていた。

人が乗り込むカーゴは最上階にあるが、逆を言えば下に降りる障害はない。


カーゴを支えるレールが伝いながら下に降りる人影があった。

その人影は施設の最下層地下6階までスルスルと降りていく。


最下層のドアも開いており、警備システムも稼働していない。


最下層は一本道で行き止まりには一つのドアがある。

もちろんそのドアも開いていた。


そこからは薄緑の光が漏れ出ていた。

その部屋から男の慌てる声が響く。


「何が起こっている、データリンクができない、なんでなんだよ!ボクの思い通りにならないなんて!」

まるで小さな子ができない事をごねるような言い方だった。


「それが普通だよ、自分の思い通りにできることなんて限られている。たいていは、思い通りになんてできない。」

とシグナルは部屋の入り口で答えた。


彼が送る視線の先には、大きな試験管が薄緑の光を放ち、そこには黒いボディスーツを着た男性が浮かんでいた。

その男性は意識があり、シグナルを恨めしそうににらみつけていた。


「やっと会えたな、デニット・サキカサヒル。人形から見るだけじゃ物足りなかっただろう」


「ふん、ボクの重い通りにできないなんて厄介な奴だよ君は。」

苦々しい顔でにらみつけてくる。


「そういうなよ、アンタの苦痛に満ちた人生を終わらせに来てやったんだ。ありがたく思ってもらいたいな。」


「はっ!ボクの実験場を荒らした挙句、なかなかな皮肉だ。あの脳筋どもだけなら何とかなったのに君ら伏兵のせいで大誤算もいい所だ。」


「では、それが遺言でいいかな」

と言うと静かに拳銃を構える。


「ははっ、勝ったつもりかい。おめでたい限りだ。確かにこれはボクの本体だ。でも僕の情報体は別にある、最終的には君らの頑張り損だよ。」

口元をゆがめて見下すように笑う。


「はあ~、どちらがおめでたいのか。アンタの情報体があるのなんてわかってるさ。それをオレたちがそのままにしておくと思ったのか?オレの相方が全部処分したに決まってんだろ。考えつくところが甘い限りだね、天才さん。」


「なっ!何でそこまでする。お前らには関係ないことだろうが。」


「ああ、関係ない。でもな、自分のしたことがどれほど酷いことかは理解してもらわんとオマエに玩具にされた者たちが報われん。なんでも思い通りになると思っているお前さんには一番嫌がることだろ。」


「はん、まだ終わりではないよ。」

そういやな笑みを浮かべるデニット・サキカサヒルを確認し


シグナルは、周辺の機材に弾丸を撃ちこんでいく。

機材が役目を終え、静かに光を失っていく。


ただ一つ、デニット・サキカサヒルが入る試験管のみ薄く光るのみになった。


「何てことする!ここは、このビルの中枢だぞ。ここを壊せばお前らが大事に守っている小娘も死ぬんだぞ。」


「言っただろ、アンタの苦痛に満ちた人生を終わらせに来てやったんだ。それが終われば、あのお嬢さんもだよ。」


「なかなか狂った考えだ。あの小娘をすくってやらないかい。」


「オマエさ、わかってて行ってるだろ。あの娘は助からない、どうやってもだ。だからあの娘を実験体にして弄んだ。

オレは、オマエを潰すことであの娘の心だけは助けるんだよ。」


「はは、偽善だなヒーロー。いいことをしたつもりか」

その言葉にシグナルは、デニット・サキカサヒルの両肩を弾丸で打ち抜く。

撃たれたことで痛みに顔がゆがみ、試験管に穴が開き割れる。

彼を満たしていた液体があたり一面に漏れ流れ落ちる。

彼自身も床に叩き詰められる。


「オレは、ヒーローじゃない。ただの人殺しで狂戦士だよ。」

とシグナルは静かに答え、デニット・サキカサヒルの眉間に弾丸が突き刺さる。


部屋に響く銃声は、終焉へのカウントダウンになる。



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