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GLAIVE (狂炎伝承)   作者: 団栗山 玄狐
Ver.03 宗教団体《幸福の導き》
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act20 自分たちのattest1

act20 自分たちのattest(証明)1


翌日、作戦は開始された。

ナズナ発案の作戦はこうである。


奴らの目的である情報を与え、村に誘い込む。

信者どもの大半を入り口で村人有志で確保し

残りの手練れを探偵社の人間で抑え込む。

という力業。


今回の奇襲で相当ご立腹の村の人たちは誰一人反対しなかった。

これにより村全体での宗教テロリスト集団《幸福の導き》壊滅作戦は決定したのだが、

国家に連絡をしないといけなかった。


この問題は実はあっさりと解決していた。

警察側も頭を抱えていた問題集団を壊滅してくれると連絡を受けたとき

大喜びだったそうな。


ただし、世間的に警察が対応したことになり、村は善意の協力者として報道されることになった。

警察としては面子が守れ、問題集団《幸福の導き》を壊滅でき、

村側としては、あまり目立ったことを報道されない。

双方にメリットがある、という見解だ。


本当にご都合主義なのだが、村として好き勝手やってもいいという

お上からの許可証をもらったようなもので対応がしやすくなる。


後は奴らの侵入経路と手練れどもの位置の確認。だけなのだが、これが面倒なようだ。

さすがに、ミナミまではその連絡が来ていない。

来たのは、侵入の手引きとその日時。


先に来た先行集団が全員確保されたことで警戒しているようだ。

奴らが来る方向から村の入り口は三つがあり、そのすべてから来ることが予想された。


山間部のほうは、林業の山本組が監視連絡係を買って出た。

駅側は道の駅 速水(はやみず)の管理をしている老人会が担う。

ただ、老人会は奴らを叩きのめしたがっていたのを穏便に抑え込み

監視連絡係として対処してもらうように説得した。


なんて好戦的な老人会なのだろうと呆れるナズナであったが、

見方を変えれば頼もしい人たちである。


役場からの入り口には探偵社の人間と有志が相手を無力化し確保す算段ができていた。

村人たちは自分たちのことをまるで道具のように見ている身勝手な宗教団体《幸福の導き》に対して

勝手なことはさせないと息巻いていた。


モチベーションは高いのだが暴発しないかの心配もナズナの頭をよぎっていた。


だが、時間もない。あとは各団体の手綱を握れる人を配置しうまく回すしかないと決められた。

山間部のほうは、林業の山本組はもともと統率がとれているので問題なしであり、

役場の入り口も探偵社が仕切ることで問題なしである。


問題なのは、駅側 速水(はやみず)である。

老人会と取り仕切る人間がいないのだがこれは、千早開発商社会長夫人の早坂カヨコがやることになった。

本当は会長の早坂サカセキがやる予定だったが、老人会と一緒に襲い掛かりそうだったので却下された。

どんな時でも女性は強しといったところである。


準備は整った。

後は、自分たちの勝手な言い分を振りかざす宗教団体《幸福の導き》に鉄槌を下し、

ミナミの子供たちを救出するだけである。


村人たちは自分たちを否定し勝手なことをする奴らに対し、

存在意義の証明を賭け、お仕置きを始めるだけである。


あと2日後には、身勝手な宗教団体《幸福の導き》がやってくる。

山奥の農村・・・ではない森林実験都市・千早赤阪村は、臨戦態勢に入り始めていた。



宗教団体が村に来る前日の夕方。

カルウは水仙の丘に来ていた。


立山ミサキに呼び出されたのだ。

なぜ、呼び出されたかは本人に聞かないとわからないが、

カルウは大体予想をつけていたようだ。

普段帯剣しない三毒を袋に入れ傍らに置いている。


カルウはしばらく、水仙を眺めながらボケっとしていた。


「ごめんなさい。待たせました?」

カルウを見つけたミサキは駆け寄る。


「さて、ご用は何かな立山ミサキ君」


「えっとですね。率直に聞きます。本当に弟と妹を助けてもらえるんですよね」


「それは難しいとしか言えないね。この村は確実に守ると断言できるけど。

救出のの件は断言できない」


「なんでですか。この依頼は守るって言ってくれたじゃないですか」


「ああ、言った。でも依頼の件はね、元はウチのジイサンバアサン達からのお願いだから

君たちの弟と妹を無事に救出できるかは別問題だ」


「そんな言い訳・・・。それはあの人数を相手にするから無理なんですか」


今回、攻め込んでくる宗教団体《幸福の導き》は大所帯だ。

総勢2500名ほどいる。それを分けて村の入り口から攻めてくるのだ。

そのうち約2300名が来る村の正面口、千早総合社の本店横にある阪和山間道から来るのだ。

阪和山間道とは、大阪市内から山をぶち抜いて和歌山の海岸線までつないだ道である。


「まあ、普通にやれば難しいな。でもあの程度なら簡単に無力化できる。

でも、あんたの弟と妹は別だ。」


「なんでよ」


「理由は簡単だ。奴らはなんであんたじゃなく弟と妹を人質役として選んだか、だ。」


「ど・どうゆう・・こと・・」

ミサキはその質問に困惑する。

人質役を自分か弟と妹を選んだのか、そんなことを考えたこともなかったようだ。

急に不安な表情になる。


「気づいてないのかよ。なぜ弟と妹を人質として手元に置いたのか、なぜ手間のかかる子供を手元に置いたのか」

と淡々と語るカルウに静かな恐怖に感じる。


自分が置かれた状態にミサキは気づく。

顔色は青ざめ、不安の色があらわになる。


「簡単な答えだ。アンタには、異能力がなく弟と妹には異能力があり、手元に置く価値がある。

と判断されたからだ。

今回、オレを呼び出したの理由は自分が自由になれるのかを聞きたかったと思うのだが・・・

だから、この回答はあんたが聞きたい理由からほど遠いけど」


「私は、ただこの状況をきちんと何とかできるかを・・・」


「違うだろ、自分の置かれた状況じゃないだろ。自分が解放されるかどうかだろ」

自分をしばりつける環境から解放できるのかだろ。でもそれはわからない。

だってそうだろう。それは自分で決めることだ。その判断をおれに求めてはいけない。

自分の選択で決まる。だから今回の件の自分で判断し決めな。

今の状況に置かれたままいるか、前に踏み出すかを、だ」


「でも、あなたから聞かされたことが衝撃過ぎて困っています。」


「ああ、一度に言い過ぎたか。悪いな。

順番に行こうか。まずはあんたの弟と妹の件な。これはほぼ間違いなく異能力を持っている」


「でも、そんなこと私やお母さんでも知らないことなのに・・・」


「多分、本人たちも知らなかったことだろう。その能力を探索できて

発現させることができる奴が教団の中にいたんだろう。」


「そんなこと・・・」

ショックを隠せないミサキは口元を手で抑える。


「そのせいで多分その子たちは教団の兵隊として扱われている。そんな子たちを無事に救出は難しい。

手加減するとこちらがまずいことになるからな。救出はできるだが無傷というわけにはいかないがな。

このことはミナミさんも了承済みだ」


「私聞いてない。」


「心配させないようにしたんだろうよ。

それか、本人すらも気づいていなかったかもしれない。」


「そんなことあるの」


「相手の覚醒していない能力を見つける能力を持っている奴が教団にいるのかもしれない」


「それはそうかもしれない」


「次にアンタをしばりつける環境から解放できるのか、どうかだがこれはあんた次第だ」


「えっと、どういう意味?」


「アンタがどう判断し行動するかだ。しばりつける理由なんてアンタ自身の覚悟でどうにでも変わる。

変えるのはあんた自身だってこと」


「そんなものなの?」


「そうだ。アンタの考え方、捉え方で環境は変わる。つまりアンタ次第だってこと」


「でも、そんなこと・・・」


「できるできないじゃない。するんだという意思があれば歩みが遅くても歩幅が狭くても

その一歩は大きく意味のあるものになる」

ミサキはうなだれる。

決して難しいことではない。だが、本人には難しい。

踏み出す勇気が覚悟が必要だからだ。


誰にでもできることで誰もができないことである。

覚悟を決める。決断する。

これは、どんな人間でも難しい事だ。

簡単にできる者は、自分によほど自信があるかそれとも愚か者か、だ。

だからこそ、その決断は尊いのだ。とカルウは考えていた。

声には出さないが。

少しため息をつきカルウはポケットを探る。

そして、その中のものを一つ掴み

「これをやるよ」

というと手の中のものをミサキに投げる。

投げられた物をミサキは両手で受け止める。


そして、受け止めたものを見るミサキは何?という感じになった。

それは、透明の石だったのだ。


「それは、おみくじについている天然石だ。ロッククリスタルというやつだ。

お守りみたいなものだ」


「なんでくれるの」


「不安を感じたり、悩んだりしたらそれを見て自分の願いを思い出すきっかけにすればいい。

一応、パワーストーンでもあり神社の霊験あらたかなお守りでもあるからな。

少しは気持ちが落ち着くはずだ。それに明日の問題がかたづけばさらに楽になるだろう」

とカルウがそっけなく答える。


ミサキは思った。この人なりの励ましなんだろうと。

不器用すぎると苦笑する。


それを見ていた木の陰から見ていた二人が

「ずるい」と言いながら姿を現す。

ユタカとナズナだ。

二人の動向が気になってのぞき見していたのだ。


「なんかいるなと思ったんだがお前らか。」


「気づいてたの」

ユタカは驚く。ナズナはなんとなく気まずい感じであったが。


「そりゃあ、あれだけこっちを見ていれば誰でもわかる。

殺気を放っていたわけではないから問題に感じていなかったが」


「そうなの」

ユタカはカルウににじり寄る。


「そうだよ。」


「ならいい。でも、彼女にだけ石をあげるのはずるい」

ユタカが不満を浮かべる。


カルウはやれやれと、げんなりした感じで

「わかったわかった。お前らにもやるよ」

というと二人にも

天然石を投げる。同じロッククリスタルだが形がいびつである。


「なんで同じ石なの。おみくじならいろんな石があるでしょ」

ナズナが疑問を投げかける。


「ペルボと一緒に何回か神社に行っておみくじを引くんだが全部その石しか当たらない。

ペルボにはその石に取りつかれているんじゃないかとまで言われたよ」


その一言に三人は噴き出す。

「何回もやってこの石ばっかりて、どんなくじ運してんのよ」

「ほんと、ある意味すごい」

「私もペルボと二回くらい言ったけど別の石だったのにすごいですね」


と三人がそれぞれ別の回答を言う。


「仕方が無いだろ。本当にそうなんだから」


「これだけ引き運がいいんだから明日は大丈夫だと思うよ。ミサキちゃん。ナズナちゃん」


「そうですね。きっとうまくいきますよ」


「そうなのかな」

ミサキの不安は完全にはぬぐえない。


「明日になればわかる。自分の価値の証明は自分でしかできない。

悩みは自分で作り、自分で解決するしかない。」


「でも、大丈夫。天然石みたいにきれいで明るい明日が来ると思うよ。

なんてったってロッククリスタルしか引きない男がそばにいるんだかね」

ユタカは不安を打ち消そうと言い放つ。


これがさらに笑いを生み出す。


カルウには何が可笑しいのかわからない。

だが、明日はなんとかしようと改めて思う。

この笑顔と村人たちの生活を守ろう。


こんなろくでなしにの自分を受け入れてくれた村を。

それが恩返しになるのだと信じて。


決戦の明日へと。


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