最終話:おかしくなんかない
予定通り最終話です。
昼休み、弁当を食べようとしていたら、教室の戸のところで美亜が顔を出して手招きしていた。
いや、猫の手みたいにしているから猫招き?
俺は席を立って美亜の下に向かう途中、数人から冷やかされた。
「どうした?」
「せんぱい、お昼一緒に食べるです」
「初日はクラスの女子と食べたほうがいいんじゃないのか?」
「…みんな学食に行ったです」
「そ、そっか、美亜は弁当なの?」
「はいです」
と小さな弁当箱を見せてきた。
「でも食堂で弁当食べちゃいけないって事もないぜ?」
「…っ!」
今、気付いたみたいだ。
「せ、せんぱいと食べたかったんです…」
ものっそい取って付けたようなセリフだけど、それでもちょっと嬉しい。
「じゃあ、天気も良いし、中庭に行こうか?」
「はいです!」
…
中庭はちょっとした遊戯具のない公園のようになっていて、ベンチが備え付けられている。
そのベンチに座り、弁当を半分くらい食べたところで美亜が質問してきた。いや…
「せんぱいは、か、彼女さんとか……いないですね」
「決め付けんなよ! いないけど! 決め付けんなよ!」
「でもいたら美亜とお弁当食べないです」
「分かんないぞ? 美亜くらい可愛い娘に誘われたら、そりゃ…」
って、ものすごいニコニコしていらっしゃる!
「美亜こそ、彼氏…っている訳ないね」
「…なっ! なぜ決め付けるですか!」
「いたらいきなり抱きついたりしないよね?」
「み、美亜がいつ抱きついたですか!」
自覚なかったんだ…。そこでふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「そういえばさ、俺とは初対面だよね? なのになぜ打ち解けるの早かったの?」
「そ、それはタマさんが悪い人じゃないって言うし、美亜もそう思ったです」
タマさんすげーな!
「それに…」
「うん?」
「美亜をちゃんと掴まえてくれると思ったです」
「掴まえる?」
「はいです、いつも美亜はフワフワと浮いた風船でした」
「…?」
「誰も手が届かないところをフワフワ浮いていて、風が吹けばどこかに飛んでいくです」
「…」
「あ、手が届かないって言っても、高嶺の花って意味じゃないですよ?」
「うん…分かるよ」
自分で自分を高嶺の花って言う人いないしね。いや…中にはいるかもしれないけど、一般論としてね。
「誰かに近づいて、近づいた分だけ傷付いても、誰も慰めてはくれないです、
そんな美亜は誰の記憶にも残らないし、誰の記憶にも残ろうとしなくなったです」
「…」
「たぶんそれはみんなではなく、美亜がおかしいです…、
人とうまく話せないし、人と接するのが怖かったです」
「おかしくなんかねーよ!」
突然怒鳴った俺を、美亜の涙の溜まった瞳が捉える。
「誰だって最初は、上手く話せないし、人と接するのは怖いんだよ!
みんな傷つきながら学んでいくんだ!」
「…」
「美亜はちょっとだけ…人よりちょっとだけ臆病だっただけだよ」
「…はいです」
「これからは俺が美亜を守るから、何処にも飛んでいかないように掴まえてるから、
自分でおかしいだなんて言わないでくれよ」
「はい…ありがとです」
それから俺たちは何も話さずにただ弁当を食べた。
何も話さなくても分かり合えるような気がした。
…
次の日、同じ場所で美亜が待っていたけど、俺はそのまま素通りしていく。
「なんで無視!?」
「ニャー」
「え? 照れてる? なんだそっか!」
「まてまて俺は別に照れてないぞ?」
聞き捨てならない会話?が聞こえてきたので、すぐに訂正する。
タマさんは、くわぁっと欠伸を一つして、のそのそと去って行った。
「美亜に告白した人の態度じゃないです…」
「まてまて、告白って何の話だ?」
「美亜を守る、掴まえておくって言ったです、それはつまり…」
「…」
うん、そんなこと言った気がする、熱くなっててよく覚えてないけどさ。
「あのときのせんぱい、か、かっこよかったです…」
ぽーっと遠くを見て、なにかうっとりしていらっしゃる。
「それじゃ今の俺がダメみたいじゃないか?」
「…タマさーん、あれ? タマさん?」
「誤魔化すな! タマさんがどっか行くとこ見てたじゃん!」
「えへへ、今のせんぱいもかっこいいですにょ!」
「…」
ぐっ! からかわれている。
「バッと立ち上がって、おかしくにゃんかにゃーよ!って叫んだですね」
「バカにしてんのか! それより置いてくぞ?」
「あ、待つです! 美亜を置いていくなです!」
美亜は勢い良く走ってくると、両手で俺の左手を掴む。
はたから見たら、それはまるで子猫が親猫にじゃれているように見えることだろう。
無いとは思いますが、もしも要望があれば続きを書くかも知れません。




