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ね娘  作者: Satch
3/3

最終話:おかしくなんかない

予定通り最終話です。

昼休み、弁当を食べようとしていたら、教室の戸のところで美亜が顔を出して手招きしていた。

いや、猫の手みたいにしているから猫招き?


俺は席を立って美亜の下に向かう途中、数人から冷やかされた。


「どうした?」


「せんぱい、お昼一緒に食べるです」


「初日はクラスの女子と食べたほうがいいんじゃないのか?」


「…みんな学食に行ったです」


「そ、そっか、美亜は弁当なの?」


「はいです」


と小さな弁当箱を見せてきた。


「でも食堂で弁当食べちゃいけないって事もないぜ?」


「…っ!」


今、気付いたみたいだ。


「せ、せんぱいと食べたかったんです…」


ものっそい取って付けたようなセリフだけど、それでもちょっと嬉しい。


「じゃあ、天気も良いし、中庭に行こうか?」


「はいです!」





中庭はちょっとした遊戯具のない公園のようになっていて、ベンチが備え付けられている。

そのベンチに座り、弁当を半分くらい食べたところで美亜が質問してきた。いや…


「せんぱいは、か、彼女さんとか……いないですね」


「決め付けんなよ! いないけど! 決め付けんなよ!」


「でもいたら美亜とお弁当食べないです」


「分かんないぞ? 美亜くらい可愛い娘に誘われたら、そりゃ…」


って、ものすごいニコニコしていらっしゃる!


「美亜こそ、彼氏…っている訳ないね」


「…なっ! なぜ決め付けるですか!」


「いたらいきなり抱きついたりしないよね?」


「み、美亜がいつ抱きついたですか!」


自覚なかったんだ…。そこでふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「そういえばさ、俺とは初対面だよね? なのになぜ打ち解けるの早かったの?」


「そ、それはタマさんが悪い人じゃないって言うし、美亜もそう思ったです」


タマさんすげーな!


「それに…」


「うん?」


「美亜をちゃんと掴まえてくれると思ったです」


「掴まえる?」


「はいです、いつも美亜はフワフワと浮いた風船でした」


「…?」


「誰も手が届かないところをフワフワ浮いていて、風が吹けばどこかに飛んでいくです」


「…」


「あ、手が届かないって言っても、高嶺の花って意味じゃないですよ?」


「うん…分かるよ」


自分で自分を高嶺の花って言う人いないしね。いや…中にはいるかもしれないけど、一般論としてね。


「誰かに近づいて、近づいた分だけ傷付いても、誰も慰めてはくれないです、

そんな美亜は誰の記憶にも残らないし、誰の記憶にも残ろうとしなくなったです」


「…」


「たぶんそれはみんなではなく、美亜がおかしいです…、

人とうまく話せないし、人と接するのが怖かったです」


「おかしくなんかねーよ!」


突然怒鳴った俺を、美亜の涙の溜まった瞳が捉える。


「誰だって最初は、上手く話せないし、人と接するのは怖いんだよ!

みんな傷つきながら学んでいくんだ!」


「…」


「美亜はちょっとだけ…人よりちょっとだけ臆病だっただけだよ」


「…はいです」


「これからは俺が美亜を守るから、何処にも飛んでいかないように掴まえてるから、

自分でおかしいだなんて言わないでくれよ」


「はい…ありがとです」


それから俺たちは何も話さずにただ弁当を食べた。

何も話さなくても分かり合えるような気がした。





次の日、同じ場所で美亜が待っていたけど、俺はそのまま素通りしていく。


「なんで無視!?」


「ニャー」


「え? 照れてる? なんだそっか!」


「まてまて俺は別に照れてないぞ?」


聞き捨てならない会話?が聞こえてきたので、すぐに訂正する。

タマさんは、くわぁっと欠伸を一つして、のそのそと去って行った。


「美亜に告白した人の態度じゃないです…」


「まてまて、告白って何の話だ?」


「美亜を守る、掴まえておくって言ったです、それはつまり…」


「…」


うん、そんなこと言った気がする、熱くなっててよく覚えてないけどさ。


「あのときのせんぱい、か、かっこよかったです…」


ぽーっと遠くを見て、なにかうっとりしていらっしゃる。


「それじゃ今の俺がダメみたいじゃないか?」


「…タマさーん、あれ? タマさん?」


「誤魔化すな! タマさんがどっか行くとこ見てたじゃん!」


「えへへ、今のせんぱいもかっこいいですにょ!」


「…」


ぐっ! からかわれている。


「バッと立ち上がって、おかしくにゃんかにゃーよ!って叫んだですね」


「バカにしてんのか! それより置いてくぞ?」


「あ、待つです! 美亜を置いていくなです!」


美亜は勢い良く走ってくると、両手で俺の左手を掴む。

はたから見たら、それはまるで子猫が親猫にじゃれているように見えることだろう。

無いとは思いますが、もしも要望があれば続きを書くかも知れません。

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