ばれてもうた
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桃枝嬢にばれてもうた。
まあ時間の問題とは思ってたけど。正直。
「あ、ああああかり? これはその、そう! およそ浅からぬ理由あってのことで……!」
「だだ、だだだいじょぶなっちゃん秘密にするから! なんなら見なかったことに、」
「ちがう! 違うわよあかりっ、彼とはほんとにそういうんじゃなくて――!」
お互いガクガクしている美少女たち。他人がうろたえているとかえって冷静になるというけど、もともとそこまで慌ててもいないので真偽のほどはわからず。
「それじゃ詳しい事情は俺から話そうか」
「まっ、ダメよそん、そんなことしたら、私、」
「困ることある? 下手にごまかしたほうが後々面倒にならない?」
「それはっ……そう、かもだけど」
「時間は有限。さくさくいこう」
「ちょ――」
というわけで桃枝嬢に顛末を話す。
一週間前。平くんとの諍い。たまたま居合わせた俺。バイト先。酔った(酔ってない)勢い……
思いのほか、前のめりに聞き入っていた彼女は、
「じゃ、じゃあなっちゃんってもう、オトナ……?」
「……~~~ッ」
話が終わるや開口一番。
両手で口元を覆い、真っ赤な顔の桃枝嬢。
対する高根沢嬢、それ以上に真っ赤な顔で沈黙。なにより雄弁な反応。
「やっぱり二人はつきあ、」
「ってない。あくまでえーと、遊び?」
「人聞きが悪すぎるッ! もうちょっとその、言葉を……!」
「…………!」
とりあえず肝心なところは否定。
俺の言いように高根沢嬢、目をつり上げて睨む。といっても表情には可愛げがあるので、本気で憤慨しているわけでもなさそう。愛いやつ。
一方で桃枝嬢、へんに感激しているように見えるのは、なんで……?
「本当に違うのよっ? 魔が差したというか雰囲気に呑まれたというか――とにかくなんか、普通じゃなかったの! あのときの私っ」
「……」
「あかり?」
「――ハッ!? 想像してないッ、想像してないよなっちゃんの普通じゃないトコとか!」
「語るに落ちてる?! なに言い出しちゃうのこの子はッ!」
「だ、だってその、しっかり者のなっちゃんがそんな、そんなになる、なんて……」
ちら。桃枝嬢、上目遣いにこちらを窺う。
赤面。
「じゃあじゃあっ、さっきのなっちゃんもやっぱり、そんなになろうとしてたとこで――」
「だからあかり!? ち、違うからねべつに、私ともあろう者がそんな、学校でそこまでしようとか考えるわけ、」
「じゃあ、どこまで?」
「どこまでってそれは、その……~~~ッ!」
友人からの追及に、そのまま茹で上がるんじゃないかという様子の高根沢嬢。
恨みがましい目がこちらに向く。
え、俺のせい? ……そうかもしれない。
けど実際、学校でどこまでする気だったのかは、ちょっと気になったり。
あ、眼力が強くなった。邪念を読み取ったかのように。
てか、そろそろ場を収拾したほうがいいか。二人ともたぶんお昼もまだだろうし。俺はその気になれば数分でパッパと済ませられるけど、女の子に早食いを強いるのは酷だろう。体によくない。
などと考えたところで、
「あの、ね?」
不意にぽつりと桃枝嬢。
伏せられた顔。かかる前髪で表情は窺えないが……
「もしよかったら、なんだけど……」
「あかり?」
「――私も見ててもいいかなっ? さっきしようとしてたことの、続き」
「あかりッ?!」
はたして彼女の告げたことに、高根沢嬢から素っ頓狂な声が上がる。
俺も声を上げそうになったよ。すげえこと言い出したぞこの子。
「ほんとにどうしたのあかり!? さっきからあなた、なんか変、」
「あぅう~ぃ、言わないでっ、自分でもヘンなのわかってるから! ――で、でも思っちゃったんだもん! あのままいったらなっちゃん、いったいどうなっちゃうんだろう、って……」
「どう、って、どう……ッ」
赤裸々な想いを綴られ高根沢嬢、二の句が継げない様子。
桃枝嬢も桃枝嬢で「言っちゃった……」みたいな感じで押し黙ってしまう。
……なんだろう、もう収拾つかないんじゃないか、これ。
諦めかけたその時、
「~~ダメよ!」
高根沢嬢、決然と。
「駄目、うん。よくないわそういうのは。不健全。というか? 私だってべつにそんな不健全なことに及ぼうとしていたわけでは――」
「嘘。ごまかす時口数が多くなるよね、昔からなっちゃんは」
「うっ……ああもう認めるわ! そう! また魔が差しかけてたわよ私っ。けどだからこそなおさらその、そんなの他人に、まして友達に見られたりなんかしたら……」
「見せてくれないなら私、バラします。このこと、のんちゃんとゆきちゃんにも」
「うえぇっ?!」
言い放ったまではよかったが一転、追い詰められてしまっている。
にしても桃枝嬢、虫も殺さないような顔なのに、案外えぐい。可愛いふりしてわりとやるもんだねと。
「斎藤君も、ここでのこと学校にバレたら、大変ですよね?」
「わ、俺も槍玉に。まあでも、うん。そのとおり。学校には、まずい」
俺に対して若干怖気が見えるのに、こう言えてしまうあたり余計に。
学校にバレるのがっていうか、そこから保護者へ連絡が行くのはなんとしてでも避けたい。
蘇るのは過去の、苦い記憶。
「これはもう高根沢さん、彼女の言いなりになるしか」
「斎藤君!?」
「まあまあ、べつに減るものがあるわけでなし。……心の問題を除けば」
「それこそ除いてほしくないんだけど……」
「言って、そもそも現状の発端は高根沢さんの行動にあるわけで」
「ぅぐっ」
「状況を受け入れるのもやむなしなんじゃないか、と」
「…………っ」
悪いと思いつつも、仕方ない。
俺が桃枝嬢側についたことに、高根沢嬢も返す言葉もない様子。
そこへさらに、桃枝嬢が歩み出て。
「ごめんねなっちゃん。でも私も気づいちゃったから」
「なに、を?」
「なっちゃん、子供のころから一緒の、大事なお友達……そんな子がその、オトナな感じにどうにかなっちゃうトコ、見てみたくて仕方ない……あはは、知らなかった、私。自分のなかにこんな気持ちがあったなんて……」
「…………」
照れくさそうにはにかむ様は、いかにも可憐な乙女。
けれども言ってることは、あんまり可憐じゃない。
そんな親友を見て、高根沢嬢も絶句。
いや、しかし、
ただおとなしいだけの子と思ってたけど、だいぶ面白い感じだな、桃枝嬢。
ひとまずその場は解散として、各々遅めの昼食に取りかかった昼休み。
その後、午後の授業はいつもどおりに過ぎ……
放課後。
俺の部屋――地下にバイト先のある商用ビルの一室にて。
「ほ、ほんとにやるの……?」
「まあここまで来たからには、ね」
「よろしくお願いします……!」
俺と高根沢嬢はベッドの上。
それを見上げるように、ローテーブルを挟んだ向こうの桃枝嬢。ご丁寧に正座。
「……っ」
視線を戻せば向かいの高根沢嬢、あるいは初めての時より恥ずかしげ。
顔は耳まで真っ赤。女の子座りで口元に手をあて、視線はこちらと桃枝嬢の間をうろうろ。
とまどいが目に見える様子とは裏腹に、
拒む素振りは、しかし窺えず。
どころか、どこか期待しているようにさえ見える、その様に、
こちらとしても、正直堪らないわけで。
「――!」
彼女の肩をおもむろに抱き、
少しずつ顔を近づけていけば、
応えるように顔を、わずかに傾けて――
…………
それからどれくらいか、
窓の外を見れば、日が傾きかける頃合い。
「……」
再び視線を戻した、室内では。
「――、――っ、……」
「…………、ッ……」
ベッドの上であられもない姿。
息も絶え絶えの高根沢嬢、と桃枝嬢。
「…………」
つまり、まあ、なんだ。
俺、またやってしまいましたというわけだった。
こうなる気もしてたけれど。正直。
〈side:???〉
時間をすこし遡って。
斎藤哉が住まいとする商業ビルの裏口。
そのすこし手前の建物の陰にて、ひそかにビルを窺う少女が一人。
日永実乃里。
斎藤哉、ひいてはたった今一緒に裏口から入っていった親友の少女二人の、クラスメイト。
「……」
その表情はひかえめに言っても、思わしくない。
顔色は血の気を感じさせないほど、白く。
眼差しは信じがたい、信じたくないものを見たという様相。
強張ったようにその場から動かない、動けないでいる彼女が、
不意に驚愕の表情を浮かべ、
「――ッ!」
駆けだす。
居た堪れない、
もうこの場に一刻たりともいられない、とでもいうかのように。




