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ばれてもうた


   ●


 桃枝嬢にばれてもうた。

 まあ時間の問題とは思ってたけど。正直。


「あ、ああああかり? これはその、そう! およそ浅からぬ理由あってのことで……!」

「だだ、だだだいじょぶなっちゃん秘密にするから! なんなら見なかったことに、」

「ちがう! 違うわよあかりっ、彼とはほんとにそういうんじゃなくて――!」


 お互いガクガクしている美少女たち。他人(ひと)がうろたえているとかえって冷静になるというけど、もともとそこまで慌ててもいないので真偽のほどはわからず。


「それじゃ詳しい事情は俺から話そうか」

「まっ、ダメよそん、そんなことしたら、私、」

「困ることある? 下手にごまかしたほうが後々面倒にならない?」

「それはっ……そう、かもだけど」

「時間は有限。さくさくいこう」

「ちょ――」


 というわけで桃枝嬢に顛末を話す。

 一週間前。平くんとの諍い。たまたま居合わせた俺。バイト先。酔った(酔ってない)勢い……

 思いのほか、前のめりに聞き入っていた彼女は、


「じゃ、じゃあなっちゃんってもう、オトナ……?」

「……~~~ッ」


 話が終わるや開口一番。

 両手で口元を覆い、真っ赤な顔の桃枝嬢。

 対する高根沢嬢、それ以上に真っ赤な顔で沈黙。なにより雄弁な反応。


「やっぱり二人はつきあ、」

「ってない。あくまでえーと、遊び?」

「人聞きが悪すぎるッ! もうちょっとその、言葉を……!」

「…………!」


 とりあえず肝心なところは否定。

 俺の言いように高根沢嬢、目をつり上げて睨む。といっても表情には可愛げがあるので、本気で憤慨しているわけでもなさそう。愛いやつ。

 一方で桃枝嬢、へんに感激しているように見えるのは、なんで……?


「本当に違うのよっ? 魔が差したというか雰囲気に呑まれたというか――とにかくなんか、普通じゃなかったの! あのときの私っ」

「……」

「あかり?」

「――ハッ!? 想像してないッ、想像してないよなっちゃんの普通じゃないトコとか!」

「語るに落ちてる?! なに言い出しちゃうのこの子はッ!」

「だ、だってその、しっかり者のなっちゃんがそんな、そんなになる、なんて……」


 ちら。桃枝嬢、上目遣いにこちらを窺う。

 赤面。


「じゃあじゃあっ、さっきのなっちゃんもやっぱり、そんなになろうとしてたとこで――」

「だからあかり!? ち、違うからねべつに、私ともあろう者がそんな、学校でそこまでしようとか考えるわけ、」

「じゃあ、どこまで?」

「どこまでってそれは、その……~~~ッ!」


 友人からの追及に、そのまま茹で上がるんじゃないかという様子の高根沢嬢。

 恨みがましい目がこちらに向く。

 え、俺のせい? ……そうかもしれない。

 けど実際、学校(ここ)どこまで(・・・・)する気だったのかは、ちょっと気になったり。

 あ、眼力が強くなった。邪念を読み取ったかのように。


 てか、そろそろ場を収拾したほうがいいか。二人ともたぶんお昼もまだだろうし。俺はその気になれば数分でパッパと済ませられるけど、女の子に早食いを強いるのは酷だろう。体によくない。

 などと考えたところで、


「あの、ね?」


 不意にぽつりと桃枝嬢。

 伏せられた顔。かかる前髪で表情は窺えないが……


「もしよかったら、なんだけど……」

「あかり?」

「――私も見ててもいいかなっ? さっきしようとしてたことの、続き」

「あかりッ?!」


 はたして彼女の告げたことに、高根沢嬢から素っ頓狂な声が上がる。

 俺も声を上げそうになったよ。すげえこと言い出したぞこの子。


「ほんとにどうしたのあかり!? さっきからあなた、なんか変、」

「あぅう~ぃ、言わないでっ、自分でもヘンなのわかってるから! ――で、でも思っちゃったんだもん! あのままいったらなっちゃん、いったいどうなっちゃうんだろう、って……」

「どう、って、どう……ッ」


 赤裸々な想いを綴られ高根沢嬢、二の句が継げない様子。

 桃枝嬢も桃枝嬢で「言っちゃった……」みたいな感じで押し黙ってしまう。

 ……なんだろう、もう収拾つかないんじゃないか、これ。

 諦めかけたその時、


「~~ダメよ!」


 高根沢嬢、決然と。


「駄目、うん。よくないわそういうのは。不健全。というか? 私だってべつにそんな不健全なことに及ぼうとしていたわけでは――」

「嘘。ごまかす時口数が多くなるよね、昔からなっちゃんは」

「うっ……ああもう認めるわ! そう! また魔が差しかけてたわよ私っ。けどだからこそなおさらその、そんなの他人(ヒト)に、まして友達に見られたりなんかしたら……」

「見せてくれないなら私、バラします。このこと、のんちゃんとゆきちゃんにも」

「うえぇっ?!」


 言い放ったまではよかったが一転、追い詰められてしまっている。

 にしても桃枝嬢、虫も殺さないような顔なのに、案外えぐい。可愛いふりしてわりとやるもんだねと。


「斎藤君も、ここでのこと学校にバレたら、大変ですよね?」

「わ、俺も槍玉に。まあでも、うん。そのとおり。学校には、まずい」


 俺に対して若干怖気が見えるのに、こう言えてしまうあたり余計に。

 学校にバレるのがっていうか、そこから保護者へ連絡が行くのはなんとしてでも避けたい。

 蘇るのは過去の、苦い記憶。


「これはもう高根沢さん、彼女の言いなりになるしか」

「斎藤君!?」

「まあまあ、べつに減るものがあるわけでなし。……心の問題を除けば」

「それこそ除いてほしくないんだけど……」

「言って、そもそも現状の発端は高根沢さんの行動にあるわけで」

「ぅぐっ」

「状況を受け入れるのもやむなしなんじゃないか、と」

「…………っ」


 悪いと思いつつも、仕方ない。

 俺が桃枝嬢側についたことに、高根沢嬢も返す言葉もない様子。

 そこへさらに、桃枝嬢が歩み出て。


「ごめんねなっちゃん。でも私も気づいちゃったから」

「なに、を?」

「なっちゃん、子供のころから一緒の、大事なお友達……そんな子がその、オトナな感じにどうにかなっちゃうトコ、見てみたくて仕方ない……あはは、知らなかった、私。自分のなかにこんな気持ちがあったなんて……」

「…………」


 照れくさそうにはにかむ様は、いかにも可憐な乙女。

 けれども言ってることは、あんまり可憐じゃない。

 そんな親友を見て、高根沢嬢も絶句。


 いや、しかし、

 ただおとなしいだけの子と思ってたけど、だいぶ面白い感じだな、桃枝嬢。




 ひとまずその場は解散として、各々遅めの昼食に取りかかった昼休み。

 その後、午後の授業はいつもどおりに過ぎ……


 放課後。

 俺の部屋――地下にバイト先(バー)のある商用ビルの一室にて。


「ほ、ほんとにやるの……?」

「まあここまで来たからには、ね」

「よろしくお願いします……!」


 俺と高根沢嬢はベッドの上。

 それを見上げるように、ローテーブルを挟んだ向こうの桃枝嬢。ご丁寧に正座。


「……っ」


 視線を戻せば向かいの高根沢嬢、あるいは初めての時より恥ずかしげ。

 顔は耳まで真っ赤。女の子座りで口元に手をあて、視線はこちらと桃枝嬢の間をうろうろ。

 とまどいが目に見える様子とは裏腹に、

 拒む素振りは、しかし窺えず。

 どころか、どこか期待しているようにさえ見える、その様に、

 こちらとしても、正直堪らないわけで。


「――!」


 彼女の肩をおもむろに抱き、

 少しずつ顔を近づけていけば、


 応えるように顔を、わずかに傾けて――




 …………




 それからどれくらいか、

 窓の外を見れば、日が傾きかける頃合い。


「……」


 再び視線を戻した、室内では。


「――、――っ、……」

「…………、ッ……」


 ベッドの上であられもない姿。

 息も絶え絶えの高根沢嬢、と桃枝嬢(・・・・)


「…………」


 つまり、まあ、なんだ。

 俺、またやってしまいましたというわけだった。

 こうなる気もしてたけれど。正直。



〈side:???〉



 時間をすこし遡って。

 斎藤(さいとう)(さい)が住まいとする商業ビルの裏口。

 そのすこし手前の建物の陰にて、ひそかにビルを窺う少女が一人。


 日永(ひなが)実乃里(みのり)

 斎藤哉、ひいてはたった今一緒に裏口から入っていった親友の少女二人の、クラスメイト。


「……」


 その表情はひかえめに言っても、思わしくない。

 顔色は血の気を感じさせないほど、白く。

 眼差しは信じがたい、信じたくないものを見たという様相。


 強張ったようにその場から動かない、動けないでいる彼女が、

 不意に驚愕の表情を浮かべ、


「――ッ!」


 駆けだす。

 居た堪れない、

 もうこの場に一刻たりともいられない、とでもいうかのように。

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