表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女は"ざまぁ"されるほどの罪を犯したのか ~傷ついた彼女を救いたくて~  作者: myano


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/33

第11話 お菓子が繋ぐ縁

 ルミエルが訪ねて来た日から半月が経った。

 あの日、彼女はこの街の『天使のおやつ』を買い占めて帰ったらしい。

 また、ウエストマークでは『天使のおやつ』を50箱以上大人買いした客が居たそうだ。

 確証こそ無いが、ルミエルが買ってくれたのだと思っている。


 そしてここ数日、ルインハムにも変化が起きていた。


「今日も『天使のおやつ』を買っていくお客さんが多いな」

「はい。ありがたいことに、生産が追い付かなくなりそうですね。数日前から、街に来る人の数が明らかに増えましたね」


 焼き上がりを待つ間にフィーナと少しだけ話す。それでも油断すると焦げたり生焼けになったりするので、気を抜くことはできない。


「一昨日はウエストマークに出荷した分も完売したらしいで。昨日と今日はまだ情報が入ってないけど、この様子やと完売してそうやな」

「ありがたいですね。わたしも頑張って作りますよ!」


 あまりの売れ行きに人手が足りず、ノエルとシエナも手伝ってくれている。それでも当分の間は品薄が続きそうだ。


「昨日、何人か従業員を雇いましたが、まだ慣れるまでに時間がかかりそうですね」

「もう少し余裕のある時期に、ゆっくりと教育したかったな……」


 今回の出来事は予想外だったので、そのあたりが後手に回ってしまった。



「クライム店長、すみません」


 俺たちが話していると、従業員の一人がやってきた。

 彼女はスパラ・マストロ。この街で建築を行っている職人の娘であり、1か月ほど前に雇ったメンバーだ。

 スパラは手先が器用でお菓子作りも上手だ。それでいて、気配りができて面倒見も良い。

 従業員たちにも慕われているので、将来的には彼女に店長を任せたいと思っている。


「どうしたの?」

「実は、ここで働きたいという子が来ていまして……」


 そう言う彼女の後ろには、俺たちと同い年ぐらいの女の子が立っていた。


「ありがとう。じゃあ、向こうで話を聞かせてもらおうかな」

「続きはうちがやっておきますね!」


 俺はスパラと交代し、少女と共に隣の部屋に向かった。



 俺と少女は向かい合って席に着く。


「初めまして。俺はこの街の領主をしているクライム・マーシーです」

「は、はじめまして。エルシア・クーケンです。よろしくお願いします」


 どうやら彼女は緊張している様子だ。なので、俺は彼女の前に紅茶と『天使のおやつ』を差し出した。


「そんなに緊張しなくて良いよ。これを食べながら気軽に話そう」

「あっ! それ!」


 お菓子を見たエルシアの表情が華やいだ。もしかして、好物なのだろうか。

 彼女は皿の中から一つ摘み上げると、小さな口に向かって運ぶ。口に入れた途端、彼女の表情がふにゃりと蕩けた。


 エルシアはしばらくの間お菓子の余韻に浸っていたので、戻ってきた頃合いを見計らって声をかけた。


「美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

「し、失礼しました……。私、このお菓子が大好きなんです」


 彼女は両手を胸の前で組んでそう語る。まるで、そこに大切な思い出があるようだった。


「もし良ければ聴かせてくれるかな?」

「はい。少し長くなりますが聴いてください。……私、小さな村で生まれ育ったんです。村の人たちも両親もみんな優しい人ばかりで、幸せに過ごしていました。ですが、数年前に流行り病で両親が亡くなってしまったんです」


 エルシアは淡々と語る。

 両親の死は、彼女の中で折り合いがついているようだ。


「それからも村のみなさんは良くしてくれました。でも、両親が遺してくれたお金が底をつきそうになったので、近くの街に出て働くことにしたんです」


 そこで彼女は一度言葉を切り、小さく息をつく。


「ですが、私を雇ってくれる人は全然居ませんでした。領主のおじさんだけは高いお給料を出すと言ってくれたのですが、評判の良くない人だったのでお断りしました」

「それは賢明な判断だったと思うよ」


 聞いた限りでは、彼女を手に入れるために領主が領民に圧力をかけていた可能性が高そうだ。


「行き詰った私は、王都に行こうと思いました。そこなら仕事もあるだろうと。ですが、途中で路銀が尽きてしまい、食べ物も買えなくなってしまいました。空腹で動けなくなった私は死を覚悟しましたが、そのとき、目の前に一台の馬車が止まったんです!」


 それまで苦しそうな表情で語っていたエルシアだったが、ここで瞳に輝きが戻る。彼女にとって、よほど大きな出会いだったことがうかがい知れる。


「その馬車はこの街から王都に帰る途中だったようで、乗っていた貴族のお姉さんが、私に『天使のおやつ』を食べさせてくれました。その味は今まで食べた何よりも美味しくて、私は思わず泣きじゃくっていました」

「それで、ここに?」

「はい! 私も『天使のおやつ』で誰かの心を癒したい、誰かを幸せにしたいと思いました。ですので、どうか私をここで雇ってください!」


 エルシアはそう言うと、深々と頭を下げた。


「もちろん! これからよろしくね」


 俺がそう答えると、部屋の入口から「やったぁ!」という声が響く。

 驚いて振り向くと、隣の部屋から4人がのぞき込んでいた。

 彼女たちはみんな涙ぐんでいるので、エルシアの話を聴いていたのだろう。

 盗み聞きをしていた彼女たちをたしなめようと思ったが、エルシアが楽しそうに笑っていたので止めておいた。


「4人ともこっちにおいで。休憩にしようか」


 みんなでお菓子と紅茶を囲んで語り合う。

 女性陣はあっという間に仲良くなり、話に花が咲いていた。


「エルシアさん、先ほど言っていた領主というのはどこの領主ですか?」

「ウエストマークから東に歩いて半日ほどの街です。もしかして、あの領主と知り合いですか?」

「あー、あの街ですか……。ここに来る前、わたしとお兄様はあの街に住んでいたんです。わたしは会ったことないですが、お兄様はその領主に仕えていたんですよ」

「ええっ!? そうなんですか? ……何もされませんでしたか?」

「わたしは大丈夫でした。お兄様が守ってくれていましたから」


 シエナの言葉に若干の含みを感じた。

 もしかすると、その領主とクロウの間には何かトラブルがあったのかもしれない。



 気が付くと、机の上に用意していたお菓子を食べ尽くしていた。

 まだまだ話し足りないが、休んでばかりというわけにはいかない。


「さて、そろそろ仕事を再開しようか。エルシアもさっそくやってみる?」

「良いんですか!? やりたいです!」

「了解。スパラ、エルシアに教えてあげてもらえる?」

「分かりました! エルシア、よろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」


 そう言うと、二人はエルシアのエプロンを取りに行く。

 俺たちもお菓子作りを再開した。



「今日はここまでにしようか。エルシアはどうだった?」

「慣れない作業が多くて失敗もしましたが、楽しかったです!」

「クライム店長、エルシアは筋が良いので、きっとすぐに上達しますよ」


 スパラがそう言うと、エルシアは照れたように顔を赤らめた。その様子を見て、みんなが優しい目でエルシアを見つめる。


「そういえば、エルシアはどこに住んでいるのですか?」


 フィーナが思い出したように問いかける。すると、エルシアの顔がみるみる青ざめていく。


「私、住む場所もお金も無いんでした……。この街って野宿とかできませんよね?」

「落ち着いて! 野宿なんてしなくて良いよ。エルシアさえ良ければ、しばらく政庁の使っていない部屋を貸そうか?」


 俺がそう言った途端、周囲の温度が一気に冷える。


「クライム様、いたいけな少女を、むさ苦しい男たちと同じ建物で寝泊まりさせるのはどうかと……」

「そうやで。エルシアも困ってまうで?」

「クライム店長、女性を勘違いさせるようなことを言ってはいけませんよ。また被害者を増やすおつもりですか?」


 女性陣からの視線と言葉が突き刺さる。そしてスパラが何でこんなに怒っているのかが全く分からない……。


「私、泊めていただけるなら政庁でも――」

「でしたら、わたしの家に来ませんか? 家といっても診療所ですが、ベッドもありますよ?」


 シエナが少し早口でエルシアを自宅に誘う。

 確かに彼女の家にはベッドがあるので、政庁よりもよく眠れそうだ。


「ありがとうございます! お世話になります!」


 こうして、エルシアはシエナの診療所に住むこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ