プロローグ
(王女視点)
『あんな奴がこの国の王女だったのか。ガッカリだよ』
『――様、王女に虐められていたなんて。本当にかわいそう』
『あんな女、国外にでも追放されたら良いのに。そのまま消えてくれねぇかな』
街の中で民たちが王女のことを非難しています。
わたくしがその王女だと誰にも気付かれていないはずですが、自然と背中が丸まり、足も速くなります。
まるで罪人になったような気分でした。もっとも、民はわたくしのことを罪人だと思っているでしょうけど。
『今、どこにいるんだろうな? 案外、牢屋に入れられてたりしてな。良い気味だぜ』
『最終的には市中引き回しの刑か? 街に出てきたら石でも投げてやろうぜ!』
『弱い立場の人間を虐めるからだ。ざまぁ見やがれ!』
心無い言葉が、わたくしの心をズタズタに切り裂いていきます。
――ああ、生きているのがつらい。
こんなことなら父上の提案を受けて、ほとぼりが冷めるまで王城にこもるべきだったのかもしれない。そんな後悔が頭をよぎりました。
甘えた考えを打ち消すべく、ブンブンと首を振ります。
家族に迷惑は掛けない。そう決意して王城を飛び出したのは、他でもないわたくしなのですから。
――ポツッ、ポツッ
「えっ? 雨……?」
追い打ちをかけるかのように雨が降り始めました。
わたくしには帰る場所も行くあてもありません。すぐに止むか、せめて小雨のままであってくれることを願います。
しかし、その願いは届かず、あっという間に土砂降りに変わってしまいました。雨は容赦なくわたくしの体温と気力を奪っていきます。
――プツリ
そのとき、わたくしの中の何かが切れた気がしました。
「あは、あはは」
気が付くと、わたくしは路地で座り込んでいました。
右手には護身用のナイフを握りしめています。
――痛いのは一瞬。きっとすぐに楽になれる。
わたくしは右手をゆっくりと顔の高さまで上げます。あとは勢いよく右手を首にぶつけるだけ。それで何もかも終わる。
目に映る世界がゆっくりとゆがんでいきます。ナイフが幾重にも見えますが、手元が狂うことはないはず。
――もう終わりにしましょう。
そう決心して、嗚咽交じりの掛け声とともに力いっぱいナイフを首に――
「君! 何してるんだ!」
――突き立てる前に、わたくしの腕は見知らぬ男の子に掴まれていました。




