第39話 やり直した方がいい
メディアはカウボーイ事務所のこの杜撰なタレント管理をも大きな社会問題として取り上げた。また、そうした事務所の奸計による政界と通じた売り込みによって偶像化されすぎ、国民的アイドルにまで仕上げた『J×MAP』を何のことか存続できず、その煽りを受けて不幸にも自ら命を絶たねばならなかった哀れな犠牲者たちを悼み、裏金問題を引き合いに、メディアは犠牲者を出した主犯はカウボーイ事務所であったと扱き下ろした。
つまり、国民もメディアも怒っていたのだ。自由民新党に対しても、カウボーイ事務所に対しても。怒りは夢をよりたくさん売る方に傾いた。裏切られた思いが強かったからである。当然、メディアは連日のようにカウボーイ事務所に押しかけ取材を試みた。だが、社長も副社長も雲隠れし、弁護士がメディア対応にあたるものの、その弁護士も後ろ盾を失い職を放棄した。
こうなると所属タレントたち、そして残された社員が行き場を失う。
陥落間近の城に残された『J×MAP』の元マネージャー飯倉三津郎と退所した夢藤雅樹のマネージャーを務めていた梶晴郎は外の喧騒をひっそりとした事務所から眺めていた。
梶は目を細め呟いた。
「こんなんで終わるんですか? あの隆盛極めたカウボーイが」
飯倉は冷めた顔で言った。
「続けられると思うか?」
梶は落胆した声で囁く。
「自由民新党より支持率低いんでしょうね、いまのカウボーイは」
「ゼロパーセントじゃないか」
「夢を持って頑張ってきた彼らはどうなるんでしょうか?」
梶はレッスンに来られなくなったアイドルの卵たちのことを心配した。飯倉は遣る瀬なさを吐き出すように言った。
「彼らもカウボーイの犠牲者だ。なんとしても救ってやらねばならん」
アイドルを育成して40年のキャリアを持つ男の決意が込められていた。梶は二人の古参アイドルのことにも触れた。
「夢藤と飛柳はどうなりますかね?」
カウボーイ事務所との契約を切られた彼らはいまどこにも所属せず、謂わば無職の状態だった。
「彼らも一度やり直した方がいい。アイドルとはなんであったかを思い出すために。だが、信頼回復までは時間がかかるだろう。それでもアイドルを続けたいと思うかどうかだ」
「飯倉さん、マッキーのこと言ってます?」
飯倉はまだ若かりし頃のマッキーの凛々しい顔を思い浮かべていた。
水無月はたち
1964年大阪下町生まれ。同志社大学経済学部卒。現在、大阪の某大学勤務。
優しい奥様と独立独歩した我が子たちだけが自慢。
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月 『神より選ばれし偶像たち(完成版)』(つむぎ書房)発刊
※当作品は100%作者の手で作り上げた不完全なヒューマンドラマです。AIの力は全く借りておりません。




