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身元不明

「身元不明? 身元不明の人が、どうやって魔術学園で働いていたのです?」


 私の疑問に殿下は笑っていた。どうにもならないと思っているような笑いだ。


「理事長が許可したのだろう。それ以外に考えられない。暗示に掛かっていたのだとしたら、いつ誰がどのタイミングでどこまでって話になるし、もうお手上げさ」


 そう言った殿下は両手を挙げていた。暗示――潜在意識下で影響を与え続けよ。さすれば、この国の平和は保障されるだろうというのは、暗示に掛かっていた方が国が平和だということだろうか……。


「暗示に掛かっていた方が平和だ――みたいな文章でしたよね? オリバ先生も暗示に掛かっていたようですし……。それで、今の生活が守られるのであれば、このままでもよろしいのではないでしょうか?」


「レイラ、石はどうするの?」


「あ……」


 見えざるものがいなくなって安心していた。セルスは何を心配してあんなことを言っていたのだろうか。


「もう一度、セルスに会ってみます」


「私も行くよ。みんなも行くだろう?」


「はい」


 殿下が防御結界を解除すると、それぞれ外へ出た。生徒会の仕事が忙しそうだなと思いながらも、建物を出ると井戸のある裏庭へ向かう。


「コンラッドが私達を裏切っているとは思えないのですが……」


 リトッシュの呟きに殿下が答えた。


「父親に秘密にしておくようにと、言われているかもしれないだろう? もしくは、そう思わせるように仕向けられているとか」


「何だか理事長が悪の手先みたいに聞こえてきましたわ」


「みんなを騙しているのだとしたら、実際に悪の手先とたいして変わらないだろうね」


「着きましたよ、殿下」


 フィリップの声に立ち止まると、そこは井戸の前だった。


「フィリップは、ここでコンラッドが中に入らないように見ていてくれないか? もし来たら、教えてくれ」


「承知いたしました」




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