向き不向きと封印
先ほどから國部先生が嬉しそうに振り回す薙刀が、薙刀にしては異様に黒いのが気になりました。
「國部先生、その薙刀は一体?」
「そいつぁ俺から説明してやるぜ。俺様が作った『黒融』って薙刀だ」
「なんか源義経さんの従者の弁慶さんが使っていた伝説の薙刀『岩融』の真っ黒版みたいですね」
「ほぉ、累ちゃんよく知ってんなぁ。まぁあんなに馬鹿でかくはないんだが、人を守るために打った薙刀という意味では同じではあるな」
そう言いながら閻魔さまは、國部先生の持つものと同じような真っ黒な薙刀を軽く振っていっます。
「おや、では岩融の作者は閻魔殿であったか」
「まぁな、秀子ちゃん。あんな規格外の刀身サイズは人間には打てねぇ。三条なんちゃらには刀身預けてあとは仕上げてもらったからアイツの作になっているが、まあそれはどうでもいい。今回は秀子ちゃんのほぼ決まった神戚昇格祝いと、累ちゃんへの餞別って意味で二振り打ってみた双子薙刀だ。おっそろしく硬いが、少しだけしなる。あと刀身には刃が無いぜ」
そう言って、本来ならば刃のある部分を指でなぞって見せてくれました。
「あ、私は刃が無い方が思いっきり振れて好きです」
「累ちゃんはそう言うと思ったぜ。秀子ちゃんはもう人間だった頃から人間の領域越えてるから、振圧や闘気で切っちまうだろうから刃なんか関係ねぇしな」
閻魔さまは國部先生に笑いかけると、國部先生が持つ同じ双子薙刀『黒融』を私にも渡してくれました。
「よーし、いっちょ二人の勝負を見せてくれ、累ちゃん、張り切りすぎて死ぬんじゃねぇぞ。秀子ちゃんも程々にしてやれよ」
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土手で投げ足座りをしていた閻魔天に國部がゆっくりと歩み寄る。
「閻魔殿、楽しい時間をいただきかたじけない。ちょっと累さんには悪い事をしてしまいましたが」
二人は型の演技で互いの技のキレを確かめ、互いの薙刀を交えて組手をしばらく続けた。しばらく休憩をした後、座礼から試合に入った。
試合は中段の構えでお互いに一合、一合、綺麗な打ち込みを重ねた。熱くなってきた終盤は二人同時に上段の構えになり、國部秀子の高速の車返しを瑞樹累が捌き切れなくなり、一本いい一撃をもらってしまい、広場の真ん中でうつ伏せに伸びている。
「さすがに達人は最後の一撃の加減もうまいな。累ちゃんのどたまかち割られねぇかと少しだけヒヤヒヤしたぜ。アレが真柳影流薙刀術の高速車返しってヤツかい」
「ええ、あまりに累さんが上手く捌くので、思わず熱くなってしまいました」
「秀子ちゃんの本気の打ち込みにもあれだけ耐えたってこたぁ、これで累ちゃんも真柳影流免許皆伝ってやつか?」
「彼女はあのとおり優しすぎるので、肝心の打ち込みが下手なままなんです。流れるような打ち込みが理想の真柳影流では、残念ながら免許皆伝はできませんね」
少し寂しそうに國部が微笑む。閻魔天は鼻息で軽くため息をつく。
「・・・ま、それが累ちゃんだからねぇ」
「最盛期の私の全力の打ち込みをあれだけ見事に捌けるだけでも授けたいところではありますが、相手へ打ち込む際にどうしても心にブレーキがかかっているようです。入門理由も『家族を守りたい』でしたから。
ですから閻魔殿、あなたがこれから授ける[ 操火 ]の御技も彼女には荷が重いのではないでしょうか。あの御技の多くを以前拝見しましたが、攻撃性が強すぎて私が使用できたとしても使用を憚ります」
「ああ、俺様もそこがひっかかってる」
「ふふふ、それでも私からもお願いいたします。累さんが新しい星でもやっていけるよう助けてあげてください」
「はっ、またお願いされちまったぜ。手のかかる小娘だよ!まったく累ちゃんはよぉ」
憎まれ口を叩きながらも微笑む閻魔天を見て、國部は嬉しそうに笑うと、閻魔天に向き直り姿勢をただして会釈をした。閻魔天も立ち上がり、軽く片手を上げる。
「では私はこれで。累さんが目を覚ましたら、よろしくお伝えください。私も私の使命を全うできるよう頑張ってきますと。この黒融はありがたく使わせていただきます」
「は〜新神さんは真面目だねぇ。あー、あと黒融には自己再生能力あるから真っ二つに折れない限りは手入れは要らねぇよ。あとはたまに話しかけるなりして可愛がってやってくれ。じゃあ達者でな秀子ちゃん・・・いや、12代目の毘沙門天」
國部は軽く頷き、もう一度会釈をし、来た時と同じようにゆっくりと歩いて去った。
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「あいたたた・・・コブになっちゃいました。やっぱり國部先生の薙刀捌きは凄いですね。でもとても楽しかったです」
なんとか私なりに頑張ってみましたが、國部先生はとてもお強かったです。途中あまりに自分でも驚くくらい体か動くので「これは初めて先生から一本取れるかもしれない」なんて色気が出た途端に、もの凄い車返しが連続で来て耐えられませんでした。
そもそも私は打ち込むのは下手なので一本は無理だったとは思いますが、それくらい動ける事が楽しかったです。
「秀子ちゃんも楽しかったらしいぜ。あとてめぇによろしくともな」
「はい、よろしくされました。あとこれからも國部先生とお揃いの黒融を使えるのが嬉しくて。ふふふ、閻魔さまも色々ありがとうございます。私、大事にしますね!」
「あー、秀子ちゃんにも言っといたんだが、黒融には自己再生能力あるから真っ二つに折れない限りは手入れは要らねぇ。あとはたまに話しかけるなりして可愛がってやってくれ」
「あらあら、凄い子なんですね黒融さんは。あ、なんだか話しかけようと思ったらさん付けしたくなりました」
「はっ、てめぇの好きにしな。・・・あー、あと一個確認だがよ。・・・[ 操火 ]の御技は・・・てめぇにとってはどうなんだ?」
閻魔さまがなんだがさっきから真面目な話をしてきます。ちょっと調子がくるっちゃいますが、ここは正直にお話しなければと思いました。
「・・・はい、正直に言いますと戦火を思い出してしまい、大きな火を扱うのはとても怖いです。閻魔さまが新しい世界で、私が死なないように頑張ってくれたのも嬉しいのですが、相手に攻撃をしてしまう[ 操火 ]の御技を全て覚えられなくても・・・一部を封印してもいいでしょうか?」
「やっぱそうか・・・すまねぇな、嫌な事を思い出させちまってよ。それでも生活に繋がる[ 種火 ]や防御系だけは教えておくぜ。あと絶対防御を備えた[ 纏火 ]だけは絶対に覚えてくれ」
「はい!頑張りますよ!いきなり死んじゃう訳にはいきませんから!」




