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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第3夏の出来事
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第39話 夜空に咲く花

「かき氷食べるの忘れた、あと冷やしパインも食べてないよ」

「お腹壊さないかしらそれは」

「そんなに甘いもの食べたら太るぞ」

「今日だけだから大丈夫だし、晶前からそういうことばっかり。女子にそういうこと言うな」

「それと、抽選会もそろそろ始まるしな。食べながら参加しようぜ」

「そうだった、せっかく買った券が無駄になる。早く行こうぜ」

「張り切ってるわね、汐見君」

抽選会までの時間でかき氷や冷やしパインを買ってステージの近くまで来る頃にはもう始まるようだった、商品は家電から生活用品、島ならではの名産品や花火。

そして流行りのゲーム機器などが揃っており近くの子供達の声援も盛り上がっている、マイクを持った地元商店街の人達が抽選券の入った箱から出た番号を発表して当たった人は前にで出来て交換出来る。

「まあ、最初の方はしょぼいのばっかりだからな」

「目玉は、今年発売されたプレ○だな。マジで欲しい」

今は毎年恒例の名産品のうどんだ、聞こえてくる抽選券の色と番号を照らし合わせていると。

「・・・当たった」

「マジかよ、本当じゃん」

「うそ、やったね薫ちゃん。うどんゲット」

「前にいって交換して来いよ、一応時間が来たら流されるし」

「わかった、行ってくるわね」

走って行くと前の人たちが拍手と声援で出迎えて、黒崎はというとちょっと恥ずかしながらもステージの上で商品を受け取りつつやがてこちらに戻ってきた。

「ただいま、少し恥ずかしかったわ」

「おめでとう、まあ島の名産品だから味は保証されてるし」

「薫ちゃんは食べたことある?」

「じつはまだなの、そういうものがあるって言うのは母から聞いたけれど」

「それならちょうど良いじゃんか、よかったんじゃねえの」

「そうだな、今の黒崎にぴったりの商品だ」

「ええ、とても嬉しいわ」

それからも抽選会は続いていく、次はなんとも微妙なビール六缶パック。

周りの大人からは人気のようだが、自分たちのような未成年にはいらないものだ。

しかしこのときに限って日頃の行いが良いのか、俺の持ってる券の色と番号が聞こえてきた。

「マジかよ」

「いいじゃんか、後で俺にも一本寄越せ」

「こら、まだ私たち高校生だよ」

「でも、当たったことは凄いわね」

「はあ、一応行ってくるわ」

ステージに上がって商品を交換するときに流石に未成年だと思われて、

「君はまだ我慢して親にでも渡してあげてくださいね」

といわれた。

その後は四人とも幸運に恵まれず、目玉のゲーム機すら叶わなかった。

そして最後に残念賞ということで箱ティッシュを色が同じ人がもらえるというので当たらなかった海と新町が先ほどステージの方に向かった。

「ふふっ」

「どうした、そんなにうどんが嬉しかったのか」

でも黒崎は頭を横に振った。

「それもあるけど、今夜はとても楽しかったなって思って」

「そうか、誘ってくれた新町に感謝しないとだな」

「そうね、でも私は汐見君が一緒だから祭りを楽しめたと思う。まだ他の男の人は抵抗があるから」

「そうか・・・」

俺だったからなんて台詞を聞いたもんだから少しドキッとしたけど、そういうことじゃなかった。

「あとは花火だけだな、それまでにあいつらが帰ってくると良いけど。」

「そういえば、なかなか戻らないわね。いっぱい人がいて時間がかかるのかしら」

「かもな、って言ってる間にもう始まりそうだ。」

もうカウントダウンが始まってしまっている、どうやら間に合わないっぽい。

「3,2,1,0!」

その合図で海の方から甲高い音が聞こえてきて、空には満開の花火が打ち上がった。

その時、チケットを交換しに行っていた二人も戻ってきた。

「うわあ、もう始まっちゃったよ」

「ここからだとちょっと見にくいだろうからさっきの防波堤まで行こう」

「それなら急がないとな、じゃねぇと花火が終わっちまう」

そんなに距離があるわけでもないが、浴衣の二人も必死に走る。

なんとか落ち着く場所に着いてからは、四人とも次々と打ち上がる花火を満喫している。

その時にみた黒崎の横顔は色鮮やかな花火の光に照らされていて、とても綺麗だった。

三十分ほどで終わった後の余韻を感じつつ、あとは皆帰るだけになった。

「それじゃまたな、今度は有川のお祭りにでもいくか」

「そうだな、それも良いかも」

「おう、またその時になったら誘うわ。んじゃおつかれ」

先に帰った新町を見送った俺たち三人は迎えが車ではその場で待つことにした。

「あっ電話、はいもしもしお母さんどうしたの?」

「黒崎ももう自分のスマホ持ってるんだな」

「ていうか、高校生になったら皆持つもんだと思うけどね」

さっきも自分のスマホがないので新町に借りて親を呼んだところだ、新町も普通に持ってた。

「うんうん、えっ。嘘でしょう、本当なの?」

なんだか黒崎がただ事ではない声を出している、なにかあったようだ。

電話を切ったあともこっちを向かずうつむいていた、心なしか震えているように見える。

「黒崎、どうした何があった」

肩に手を置いて表情を伺った時、瞳には涙がたまりとても怯えていた。

「おい!大丈夫なのか黒崎」

「・・・さんが」

「なんだって?」

「今度、お父さんが島に来るって」

それは黒崎にとって最悪の知らせだっただろう、事情を知っている海や俺も呆然としてしまった。

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