第32話 楽しみの前に
「熱い・・・」
七月に入ってから、もうそろそろ夏の兆しを見せる時期になってきたが。
日本で一番西にある県のさらに外側にあるこの島は、梅雨が明けるとすぐさま気温が上がっていき八月をピークに猛烈な暑さとなる。
夏服に衣替えしたにも関わらず登校時は汗が止まらず汗ふきシートや制汗剤が必須だ。
「ハア・・・、ここは天国か」
「あらおはよう汐見君」
「おはようございます」
「なんでそこで敬語になるの?」
「そうやって突っ込みを入れるのを期待してた」
「なにそれ」
あきれながらも笑ってくれる黒崎、この前席替えがあったのにも関わらず今度は隣の席になったのだから運命っていうのはわからない。
「うわっちょっと晶、汗の臭いがするよ」
「マジか、・・・ほんとだ。今朝バスに遅れそうになって走ったからかな」
急いでバックの中のシートで汗を拭いた、汗の臭いが消えてミントの香りが全身を包む。
「それ、新しいやつじゃん」
「まあ、あんまり花のにおいとかするの嫌でこれしかなかったからな」
それに加えて後ろの席に海が来るという巡り合わせになっていた、うちのクラスは男子の人数が少ないためにこういうことが起きやすい。
なんせ割合でいうと男子三女子七くらいだから俺と同じ環境のやつもいる、でも知り合った女子二人がすぐ近くに来るというのは凄い偶然だ。
「へえ、しかもそれ使ったら冷たく感じるやつでしょ?いいな海もそれ買おうかな」
「いや一緒とか勘弁してくれよ」
「はあ?良いじゃん別に晶気にしすぎでしょ」
「まあまあ二人ともそろそろ時間よ静かにしないと」
このような最近日常が続いていて数日、大会前の緊張感もなくこれからの定期考査と夏休みに気持ちが浮つく時期だ。
「今日から体育の授業柔道だろ?嫌だよな」
「こんな熱い時期に道着来て体動かすとか、柔道部とかやばそうだよな」
いつも通りの感じで日常を過ごしているが、少し変わったこともある。
「なあ汐見?お前の席めっちゃいい感じだよな」
「はあ?何言ってんだよ窓際じゃないし席一番まえだぞ。良くねぇよ」
「お前こそ何言ってんだ!黒崎さんと元浜ちゃんに囲まれてるお前の席、嫌なら変わって欲しいわ!」
こういうやっかみはあるもののクラスの連中と話す事が増えた、それに。
「お前の今の状況マジでラノベ主人公だぞ、わかってんのか」
「言ってる意味はわかるけどな、これも決まったことなんだからしょうがないだろ」
「今朝も仲良くおしゃべりしよってからに、なんて羨ましい」
「無駄話してる場合か?早くしないと先生に言われるぞ」
「全くそうやってはぐらかして、いつからそんな子になちゃったの」
「お前は俺の母親かよ・・・」
中学の頃よりもクラスになじめているのは、割と嬉しい今みたいなのはまだ慣れないけど悪くはない。
ここ数日は黒崎の朝の会議もなく割と平穏な日常を送っている、これからの定期考査の準備をしているうちに時間も過ぎていった。
考査の出来によって色々な感情を持ちつつも大量の課題がありつつも楽しみにしていた夏休みという名の長期連休を迎えることになった。




