第30話 本番に向けて
俺が先輩を捕まえた後は二人で皆を派手に追いかけ回すのに乗じてうまく黒崎を鬼にしてなんとか乗り切った。
先輩は悔しがりながらも、その後の皆の楽しい光景を見て満足そうにしていた。
これでどうにか、俺の評判も落とさず黒崎のことも知られずに事が済んだ。
それにしても今日はオフの日のはずなのにこれまでの練習と同じくらい疲れてしまった、これには小浜先生もあきれていたが別に怒られはしなかった。
今夜はもうへとへとで買い物にも行く気になれず、飲み物も自動販売機で済ませることにした。
ロビーに降りて自販機コーナーに直行、コーヒーにするか炭酸にするか迷っていると後ろから声を掛けられた。
「こんばんわ、今日の練習はずいぶんとはしゃいでたみたいね」
「黒崎か・・・。」
「私ものどが渇いたわ、何にしようかしら」
そういうがほとんど迷いもせずに、カフェオレを買っていた。
「はい、次どうぞ。 」
「はいはい、なら俺はこれにするか」
そうして俺はブラックコーヒーを選んだ、最近は割とこっちにはまっている。
「大人ね、私もコーヒーは飲むけど流石にブラックはまだ苦手ね。 」
「まあ、慣れれば美味く感じるもんだろ」
他愛ない話をしつつもお互い様子を伺っていた、でも先に動いたのは黒崎だった。
「今日はありがとう、練習のあとで部長さんに色々聞いたわ」
「なんだよ、結局話したのか。このことは別に黒崎には伝えなくても良いって言ったはずなのに」
「どうして、隠そうとするの?」
「そりゃ、なんか恥ずかしいだろ。高校生にもなってガチで鬼ごっこしようとか言うの」
それはあくまで表面上のことで本当は黒崎のことに必死だったのをあんまり知られたくなかったからだ。
「ふふっ、いいじゃない遊びとはいえ部活なんだから本気になっても。でもそういうことにしておきましょうか」
「それってそういう意味・・・」
「さてなんでしょうね?それじゃお疲れ様」
「お、おうお疲れ」
去って行った彼女はとても言い笑顔で、今回はそれが見られただけでもよしとしておくことにした。
残り少ない遠征期間もあっという間に過ぎて、島に帰ってきた後はと言うと。
休みのうちは遠征の疲れで外に出ることもなくただただ家でのんびりと過ごしている間にあっという間に終わりすぐに学校が始まった。
島の日常に戻ってきた訳だが、しかしもうまもなく六月に控えた高校総体が始まる。
それまでの間も部活での練習も本番を意識したメニューになり、早速出場メンバーも発表された。
俺はなんとか百メートルの選手に選ばれた、新町も同じく選ばれていた。
まあ短距離の選手層は広く一年生が選ばれることも少なくないらしい、別段予選で生き残れるかは本人次第だ。
でも、せっかくもらった機会だ、遠征や今までの練習の成果をぶつける絶好の大会になるだろう。
それからというもの、高校総体前の雰囲気のおかげか残りの期間も気づけばなくなり本番の時を迎えた。




