好きな人には、既に想い人がいました
ずっと好きだった相手が別の人を想っていると知った。相手は私の一つ下の妹。母に似たプラチナブロンドに紫紺色の瞳。『紫紺の美姫』と評される母に似ただけはあり、妹ノエルは姉の私から見てもとんでもない美少女だ。
対して、姉の私は魔術師の家系の父方の血を濃く受け継いだらしく、強い魔術師の証拠と言われる黒髪と父と同じ紺色の瞳。
髪や瞳の色だけではなく、見た目も私は父に、ノエルは母に似た。
圧倒的美貌の持ち主である父に似た為、少々きつい印象を受ける私だが、母はとても愛してくれる。ノエルもいつもお姉様と私を慕って雛鳥のように後ろを付いて回る。また、私より二つ上の兄ノルスお兄様や父も母同様に愛してくれている。
自分が家で蔑にされている訳じゃない。皆、私を家族として、娘として、妹として、姉として、とても大事にしてくれる。
不満を抱く要素なんて何処にもないのに、たった一つだけ私は抱いてしまった。
王家には同年代の双子の王子がいる。公爵家の生まれで歳の近い私達兄妹は殿下達の遊び相手となった。この国の王は指名制で必ずしも第一王子が王位に就くとは限らない。王になる素質がある王子や王女だけが王になれる。また、今の王と王妃の間には双子の王子の他にも王女が二人いる。国王夫妻の仲も良好で国中の人達からは理想の夫婦とされている。
私もいつか、国王夫妻のような素敵な夫婦関係を築けたらと願った。
私の好きな人は第一王子リース殿下。王様と同じ金貨を溶かしたようなブロンドに王妃様と同じ空色の瞳。将来が楽しみで仕方ない美少年。双子の弟の第二王子ラース殿下もブロンドだが、瞳の色は王様と同じ深緑色。双子でも瞳の色だけが違う。
「……」
今日は王妃様主催の子供限定のお茶会に呼ばれた。勿論、ノエルやノルスお兄様もいる。私の視線の先には、王妃様の好きな花に囲まれた長椅子に隣同士で座って微笑み合うノエルとリース殿下がいる。リース殿下は優しい人ではあるが、あんな風に微かに頬を赤らめて微笑む姿は向けない。ノエルだけにしか向けない。……私は、一度も向けてもらってない。家族は愛してくれる、友人も人数は少なくても仲が良い子はいる。
でも、初めて好きになった人の想い人が実の妹と知って心が引き裂かれそうになった。愛想が良く、笑顔を浮かべるだけで太陽のような煌きがあるノエル。若干人見知りで仲良くなった人以外にはあまり愛想良く振舞えない私では、どちらが好かれるか手に取るように分かる。
私のいる距離からでは二人の会話は聞こえない。でも、仲睦まじい二人を見るだけで互いがどういった感情を抱いているかなんて……。
「……嫉妬なんて、醜いだけよ」
「そう思います?」
「っ」
私一人だと思ったのにどうやら違ったみたい。何時の間にいたのか、第二王子のラース殿下が後ろ斜めにいた。吃驚して肩が跳ねた。
「すみません。驚かせるつもりはなかったのです」
「いえ……」
「お似合いですね。兄上とノエル様」
「……そうですね」
第三者に言われてしまうと余計現実味が増して心にぐさりと来る。
「……羨ましいな」
「え」
小さく呟いたリース殿下の声を私の耳はしっかりと拾った。苦笑したラース殿下は「兄上が」と続けた。
「ノエル様とあんな風に笑い合える兄上が羨ましいです」
「……」
ラース殿下……それって……
※切ない風に見えてならない
※リース→ノア、ノエル→ラースですが互いの好きな相手の情報を交換したり話を楽しげにするせいで片想いの相手に誤解される。
※傷の舐め合いでノアとラースが婚約したら、この二人は……(笑)




