だんだん15話
ー15話
観客は空中ステージが爆発するのに歓声を上げた。
同時に空を埋め尽くす花火と同じ演出と感じた。
白根はハイエースのルーフを凹まして、横山に発見され病院に搬送された。
マヤコは首の骨が折れかけていて、医者を戦慄させて緊急手術で一命を取り止めた。
小林は待避していた警察署に、ボロボロのレスポールを持って帰って来た美里に驚いた。
「何が有ったんですか?美里さん…それ」
「私に惚れた勘違い粘着野郎に絡まれちゃっただけ。ライブじゃ警備やスタッフ突破してくるファンはお約束だから」
春菜が欠けているボディーに触れた。
「そのファン、死んでないですか?」
美里は右上に視線を向けた。
「ちょっとふらついてたけど。元気そうだったけど?」
春菜は笑顔になったので、美里は引いた。
「よかった。丈夫な人だったんですね」
小林は聞いた。
「春菜…一人だけ知らない人が居るんだけど?」
「誰?」
「ギブソンの限定モデル弾いてた子」
「あぁ。近藤真由さん?真由子のライブ仲間、お友達」
「コーラスの高音の通りが異次元。ユーミンの若い頃みたいだ」
「直接言ってやって。小林くんのファンだから励みになるよ」
20年後。
三ノ宮城で、春菜は66才になった。小林は71才。真由子は46才。真由子は25才で妻夫木マネージャーの息子博司と結婚。小林と春菜に3人の孫をもたらした。
小林は体調を崩しがちで、ギターを持つ回数も減った。
「春菜…」
「どうしました?」
「クリスマスに下北沢440でジョイントライブやったよな?」
「やりましたねぇ。楽しかったぁ」
「交流会終わって、外にファン送りだしたら。下北沢駅まで人で一杯で。聞いたら全部ファンだった」
40数年前。下北沢440 クリスマスイブ
「春菜!歌うぞ…」
「はいっ!」
土岐が戻ってギターを2本持って来た。
「みなさん!歌って下北沢駅まで送ります!いきましょう!」
小林と春菜を先頭にファンが行列を作った。
ジングルベルが下北沢を圧した。
40数年後。三ノ宮城
「ジングルベル……」
春菜もハモッた。
孫の謙が不思議そうにして、真由子を呼んだ。
立つ事も辛いはずの小林がニコニコしながらジングルベルを歌いながら部屋の中を歩いている。春菜が小林の腰に手を置いて一緒に歩きながらハモッている。
謙が春菜の後ろに付く。部屋を出て家の中を練り歩く。後、二人の孫も後ろに付く。真由子は嫌な予感がして小林を追う。
廊下で小林が止まった。
「下北沢駅だ。少し座ろう」
廊下に腰を降ろして、小林は笑った。
その目が虚ろになった。
真由子は駆け寄って見た。
「おとうさん?おとうさん?………おとうさん!」
肩を揺すった。
見ると春菜の目も虚ろだ。
「お母さん!あなたっ!救急車…救急車!」
二人は幸せそうに寄り添ってファンを見送るように見えた。
だんだん及び近藤真由「冒険は仲間が多い方がいいの」ライブ応援小説完結
2019年1月2日アクアリゾートふじの湯にて
武上渓