第五話 ~空宙オブザベイション~
今日はずっと空を見てた気がする。
あまりにもずっと空を見てるせいか、課題をやってる菖蒲も時々こっちを見る。
もう逃がす訳にはいかない。タイミング。
そう、タイミング。タイミング。
ただのさよならじゃだめなんだ。・・・やっぱり、ただのさよならじゃ。
あまり長くない付き合いだけど。
それでも、天文部でずっと二人で過ごした時間は、本当に長く感じた。
ほとんど何もしないし、無駄話ばっかしてたけど。
‘たまには天文学部らしい活動をしなくちゃな’
その自分の言葉が、頭をよぎった。
少しだけ夕暮れかかった空の奥に見えた気がした。
空の奥、彼方宇宙で、光った星を今、自分の目の奥で感じ取った。
そこで、携帯に電話が来た。四季からだ。
こいつから電話なんて珍しい、向かいなんだから連絡なんていらないと思っていたけど。
「もしもし」
「あ、誠さんでしょうか!」
やけに声を高くした、四季の声が聞こえる。
「家の電話じゃないんだから、俺に決まってんだろ」
「そ、そっか、電話するの初めてだからさ・・」
「メールでもないってことは、なにか緊急か?」
「いや、そうでもないんだけど・・・なんとなく?」
なんだそれ。
「はぁ・・まぁいいや。用はあるんだろ?」
「う、うん!この前言った、流星群なんだけどさ、今日なんだって!」
・・・・えっ?
「さっき調べたらね?今年は、例年より早いんだって!私も今びっくりしてさ・・
お兄ちゃんに連絡して、見れる時間ギリギリに帰ってもらうようにお願いして・・」
「――今何時だ?」
「え?えーっと、6時?なんか夏に入ってきたから、まだ明るくて時間感覚微妙だよね~」
そろそろ、部活が終わる時間か・・・
「そうそう、だから、流星群も割と遅い時間から――」
ここだ。いまのタイミングだ。これしかない。
つまり、必然だ。
「あれ?もしもし?聞こえてるー?」
瞬間的に切ると、立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
菖蒲もびっくりしていた。
「・・・いこう。」
そう言って、菖蒲の手をひっぱる。
「え、ちょっ!まっ・・・」
少し足を滑らせながら、無理やりついてくる菖蒲。
このまま、屋上に行こう。そして、流星群を見るんだ。
今しかない。これを逃がしたら、もう一生来ない。一生悔やむ。
その時、その瞬間に恋をして。
その時、その瞬間から、君を見てきた。
認めよう。自分を。伝えよう。自分を。
そこから、始まるんだ。
階段を上って、屋上の扉の前についた。
その間、菖蒲は何も言わなかった。ただただ、俺を見ていた。
扉を開け・・
あれ?開かない。
「屋上の扉は、許可された人以外は立ち入り禁止だよ。」
菖蒲が応える。
そうか、必死になりすぎて忘れていた。
すると、自分の手から手を離して、菖蒲が笑い出した。
「・・・はい!」
菖蒲がポケットから、鍵を取り出して、見せつける。
「・・・なんで・・?」
「さぁ、なんででしょう?」
ニヤニヤした顔で、問を問い返す。
菖蒲は扉の前に出て、鍵を開ける。
そして、扉を少し開けながら、扉を背にこちらを向く。
「ここを開ける前にひとつ質問。」
「な、なんだ?」
「屋上に出て、何をしようとしてたの?」
「・・・そ、それは・・」
「流星群を肉眼で見るつもり?」
「え・・?」
「天文学部なんだから、望遠鏡で見なきゃね。」
扉を開けた。
そこには、二つ望遠鏡が置かれていた。
部室に置いてある、唯一の‘天文学部らしい道具’だ。
「なんで急いだのかは知らないけど、私が流星群の日を忘れていると思った?」
「違うんだ、今さっき、今日だって聞いて・・本当は、12日だったから・・」
「それは、去年の話。今年は、今日の夜。」
望遠鏡へと歩きながら、ふたりで話す。
空を見上げて、菖蒲が言う。
「ま、ここで待つのもいっか~・・・風も出てきて気持ちいいし」
腕をぐっと伸ばし、伸びをする。
たしかに風が吹いていて、心地いい。
「流星群を見る日が今日だって、さっき聞いたから、急いできたの?」
菖蒲が尋ねる。
「え?あ・・そ、そう。」
「正直言ってみ?」
また、ニヤニヤし始めた菖蒲。
くそ、なんか対抗できない。
「12日は・・12日になったらもうお前とは見れないけど、今日って聞いて。
それで、今日なら一緒に見れると思って・・・なんとなく、急がなきゃと思ったんだ。」
「・・・はははっ、ふふっ、よくできました!」
お腹を抱えて笑っている。
「お前っ、俺を馬鹿にしてるだろっ!」
涙が出るほど、面白かったのかよ。
笑い涙を拭いながら、菖蒲が答える。
「・・・ありがとっ。」
「・・・あ、あぁ。」
「ねぇ、そこで座って待たない?まだ、時間はあるしさ。」




