第109章「サッカーゲーム生配信⑸――“雨の日の延長戦”と終わらないスタジアム」
午後三時。
戸塚の空は相変わらず灰色だった。
窓の外では朝から降り続く雨が、静かに街を濡らしている。
それでも、東雲家の配信部屋だけは別世界だった。
世界選抜対日本代表。
二時間以上に及ぶサッカーゲーム生配信。
しかも同時接続数は、いまだに百万人を超えている。
普通なら、そろそろ配信終了の空気が流れてもおかしくはなかった。
だが――
コメント欄はまったく終わる気配を見せていなかった。
【最高だった】
【神試合をありがとう】
【まだ終わらないよね?】
【お願いだからもう一試合】
【延長戦希望】
【今日はずっと見ていたい】
【雨の日が最高の日曜日になった】
巳波はコメント欄を見ながら苦笑する。
「みんな元気だね」
コメント欄。
【巳波ちゃんが一番元気】
【三時間配信してる人が言うな】
【まだ行けるでしょ?】
【ラーメン十二杯食べた人だぞ】
そのコメントを見た巳波は思わず吹き出した。
「またその話?」
「今日はサッカーだから!」
【サッカー十二点取ろう】
【伝説再び】
【十二点企画】
「無理無理!」
巳波は笑いながら首を横に振る。
その時だった。
一つのコメントが目に入る。
【最後にPK戦だけ見たい】
【PK対決やって】
【PKなら短いし】
【神キーパー対決】
巳波は少し考える。
「PK戦かぁ……」
「確かに面白そう」
コメント欄。
【やった!】
【PK戦きた】
【最後のイベント】
【絶対盛り上がる】
巳波は頷く。
「じゃあ、本当に最後ね」
「PK戦だけやります」
その瞬間。
コメント欄が再び爆発する。
【きたあああ!】
【最後の戦い!】
【PK職人巳波】
【楽しみ!】
⸻
ゲーム画面が切り替わる。
PKモード。
使用チームは再び世界選抜。
相手はランダムマッチング。
そして数秒後――
相手チームはアルゼンチン代表に決定した。
コメント欄。
【メッシ対メッシ!?】
【熱すぎる】
【最後にアルゼンチン】
【運命じゃん】
巳波も笑う。
「面白い組み合わせになったね」
PK戦開始。
先攻。
世界選抜。
キッカーはメッシ。
巳波は小さく息を吐く。
「いきます」
助走。
シュート。
ゴール左隅へ吸い込まれる。
ゴール。
【うまい!】
【完璧】
【メッシは外さない】
続くアルゼンチン。
シュート。
しかし――
ゴールキーパー、ノイアーがスーパーセーブ。
「止めた!」
巳波が思わず立ち上がる。
コメント欄。
【ノイアー!!】
【神セーブ】
【壁すぎる】
【ノイアー最強】
その後もPK戦は続く。
ロナウド。
成功。
エムバペ。
成功。
相手も決め続ける。
三人目終了時点。
三対二。
世界選抜リード。
そして四人目。
巳波はデ・ブライネを選択する。
「決めたいね」
シュート。
だが――
キーパーに止められる。
「あぁ!」
コメント欄。
【惜しい!】
【読まれた】
【まだリード】
その直後。
相手も外す。
スコア変わらず。
五人目。
最後のキッカー。
クリスティアーノ・ロナウド。
コメント欄。
【最後はロナウド】
【決めろ!】
【CR7!】
巳波は静かに構える。
助走。
シュート。
ゴール右上隅。
ゴール。
「よし!」
そして。
相手最後のキッカー。
決めればサドンデス。
外せば終了。
シュート。
ノイアーが反応。
弾いた。
試合終了。
世界選抜の勝利。
コメント欄。
【勝ったああああ!】
【神配信だった】
【PK戦まで面白い】
【今日は伝説回】
【終わってほしくない】
巳波は椅子にもたれかかった。
「終わったぁ……」
「さすがに疲れた」
コメント欄。
【三時間以上お疲れ様】
【楽しかった】
【本当にありがとう】
【またやってね】
【最高の日曜日だった】
巳波はコメント欄をゆっくり眺める。
流れ続ける言葉。
国内だけではない。
英語。
スペイン語。
ポルトガル語。
韓国語。
様々な言葉が画面を埋め尽くしていた。
【Thank you Minami!】
【Amazing stream!】
【See you next time!】
【Gracias!】
【Boa transmissão!】
【고마워요!】
巳波は自然と笑顔になる。
「こちらこそ、ありがとう」
「雨の日だったけど、みんなのおかげで楽しかったです」
コメント欄。
【こちらこそ!】
【次も絶対来る】
【雨の日最高だった】
【またサッカー配信して!】
巳波は時計を見る。
午後三時三十分。
配信開始から三時間半。
窓の外では、まだ雨が降っていた。
だが、その雨音さえ聞こえなくなるほど、この配信は温かい熱気に包まれていた。
そして――
長かったサッカーゲーム生配信も、いよいよ終わりの時間を迎えようとしていた。
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