第107章「サッカーゲーム生配信⑶――“雨の日の日本代表戦”と止まらないコメント欄」
雨は、昼を過ぎても止む気配を見せなかった。
戸塚の空は厚い雲に覆われ、窓の外の景色はどこか淡く霞んでいる。
時折、風が窓を軽く揺らし、その度に雨粒がガラスを強く叩いた。
そんな静かな日曜日。
しかし、東雲家の配信部屋だけは違った。
部屋の中は、まるでスタジアムのような熱気に包まれていた。
⸻
先ほどの一試合目。
横浜F・マリノスでの劇的勝利。
その余韻がまだコメント欄に残っている。
【一試合目神試合だった】
【普通に実況付きで見たい】
【サッカーゲーム配信こんなに面白かったっけ】
【次、日本代表楽しみ!】
【巳波監督、采配が意外と堅実】
【雨の日に最高の配信】
巳波は笑いながらコメントを読む。
「みんな盛り上がりすぎじゃない?」
【盛り上がるだろ!】
【普通に熱かった】
【次も勝って!】
【日本代表頼む!】
巳波はコントローラーを握り直す。
「じゃあ、次いきます」
画面が切り替わる。
チーム選択画面。
そこには世界各国の代表チームが並んでいた。
巳波は迷うことなく、日本代表を選択する。
コメント欄がさらに加速する。
【日本代表きたあああ!】
【青い侍!】
【がんばれニッポン!】
【これは熱い】
【相手どこだろ】
ランダムマッチング。
数秒後、相手が決定する。
ブラジル代表。
【うわぁぁぁ】
【相手強すぎる】
【ブラジルかよ】
【世界最強クラス】
【いきなり難易度高い】
巳波も思わず笑った。
「これは大変そう」
「でも、せっかくだし頑張ります」
コメント欄。
【応援する!】
【いける!】
【巳波監督なら勝てる】
【頑張れ!】
⸻
試合開始。
キックオフ。
日本代表対ブラジル代表。
ゲームとはいえ、国際試合独特の緊張感が漂う。
巳波は慎重にボールを回していく。
「まずは様子見」
中盤で細かくパスを繋ぐ。
しかし相手のブラジル代表は強かった。
前線から激しくプレスをかけてくる。
「早い!」
巳波が思わず声を上げる。
コメント欄。
【ブラジル速い】
【プレスえぐい】
【さすがブラジル】
【がんばれ!】
前半十六分。
ついにブラジルの攻撃。
中央突破。
ペナルティエリア付近。
強烈なミドルシュート。
ゴール。
日本代表、失点。
0-1。
「あぁ……」
巳波が悔しそうに呟く。
コメント欄。
【まだ大丈夫!】
【一点ならいける】
【切り替え!】
【ここから!】
巳波は深呼吸をする。
「うん。まだ始まったばかり」
⸻
その頃。
隣の部屋。
琉偉はスマホを見ながら苦笑していた。
「相手が悪いですね」
だが、巳波なら諦めない。
琉偉はそう思っていた。
⸻
前半二十七分。
日本代表の反撃。
左サイドからの攻撃。
細かなパス交換。
中央へ折り返す。
シュート。
しかし相手GKがスーパーセーブ。
「あぁぁ!」
巳波が頭を抱える。
コメント欄。
【惜しい!】
【今の入ったと思った】
【キーパーやばい】
【神セーブ】
巳波は苦笑する。
「相手キーパー強いなぁ」
⸻
前半終了。
0-1。
ブラジルリード。
ハーフタイム。
コメント欄。
【まだ逆転できる】
【後半勝負】
【采配期待】
【交代どうする?】
巳波は画面を見つめる。
「うーん……」
「後半からフォーメーション変えます」
コメント欄。
【監督きた】
【戦術変更!】
【攻撃的にいく?】
「少し前に人数増やします」
「一点取らないと勝てないので」
【名将】
【東雲監督】
【期待してる】
⸻
後半開始。
フォーメーション変更が機能し始める。
日本代表の攻撃回数が増えていく。
後半十二分。
中央突破。
スルーパス。
抜け出したFW。
シュート。
ゴール。
1-1。
「よし!」
巳波が笑顔になる。
コメント欄。
【同点きたあああ!】
【追いついた!】
【すごい!】
【監督采配的中】
【名将】
巳波は笑いながら言う。
「まだまだ」
「ここからです」
⸻
同時接続数。
すでに八十万人を超えていた。
【同接やばい】
【八十万人!?】
【休日昼間でこれは異常】
【巳波人気すごい】
海外コメントも流れ始める。
【Go Japan!】
【Great play!】
【Amazing!】
【Hello from Korea!】
巳波は英語コメントを見つける。
「海外の人もありがとう」
コメント欄。
【国際配信】
【世界規模】
【すごい時代】
⸻
後半三十分。
ブラジルの猛攻。
日本代表は押し込まれる。
「危ない」
「そこ!」
「クリア!」
巳波の声にも緊張感が混じる。
そして――
後半三十八分。
カウンター。
日本代表。
右サイド突破。
クロス。
中央。
ヘディング。
ゴール。
2-1。
逆転。
「入ったぁ!」
巳波は思わず立ち上がる。
コメント欄。
【逆転きたあああ!!】
【熱すぎる】
【鳥肌】
【日本代表最高!】
【神試合】
【巳波監督すごい】
巳波は笑顔だった。
「まだ終わってない」
「集中!」
⸻
残り時間。
ブラジルの猛攻。
しかし日本代表は守り切る。
試合終了。
2-1。
日本代表勝利。
コメント欄は完全にお祭り状態だった。
【勝ったぁぁぁ!】
【神試合!】
【ブラジルに勝った】
【名将東雲】
【これ伝説配信だろ】
【最高の日曜日】
巳波は椅子に深く座る。
「疲れた……」
「でも楽しい」
コメント欄。
【もっと見たい!】
【まだ続く?】
【次の試合!】
【お願いします!】
巳波は時計を見る。
配信開始から一時間半。
少し考える。
そして笑った。
「じゃあ……」
「もう少しだけやろうかな」
コメント欄。
【やったぁぁ!】
【延長戦きた!】
【最高!】
隣の部屋。
その言葉を聞いた琉偉は小さく笑う。
「やっぱり長くなりますよね」
雨はまだ降り続いている。
だが、その雨音さえも聞こえなくなるほど――
配信部屋の熱量は高まり続けていた。
そして、サッカーゲーム生配信は、まだ終わらないのだった。
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