第十三話 「Eクラスの恋愛感情」
「……恋愛選別計画?」
Eクラス食堂。
黒崎から送られてきたデータを見ながら、俺は眉をしかめた。
周囲も静かだった。
柴崎ですら黙っている。
《低Lスコア生徒適性再評価》
《不適格者選別》
《隔離候補抽出》
嫌な単語ばかり並んでいた。
「つまり?」
農業班女子が聞く。
「Eクラスの中から、“切り捨て”を決めるってことだろ」
空気が重くなる。
この学園では珍しくない。
低スコア者はいつだって処分対象だ。
⸻
だが。
「その前に飯だ」
松永が真顔で言った。
「いや空気!」
「空腹では革命は起きん」
「お前農業国家の将軍か?」
数分後。
Eクラス食堂には焼き魚の匂いが漂っていた。
漁業班女子――朝霧ひまりが、大皿を置く。
「今日は大量だぞー!」
「おおお!!」
Eクラスが歓声を上げる。
「川でデカいの取れた!」
「漁業班最強!」
「結婚してくれ!」
すると。
「いや、それはちょっと……」
朝霧が困ったように笑う。
その瞬間。
柴崎が固まった。
「……おい」
俺は察した。
「お前まさか」
「違う」
「まだ何も言ってない」
「違うからな」
分かりやすすぎる。
⸻
数分後。
食堂隅。
柴崎が死んだ目で魚を食べていた。
「終わった……」
「始まってもいないだろ」
「いやでも今笑った」
「笑うだろ普通」
「俺に向かって笑った」
「全人類に向かって笑うタイプだろあいつ」
柴崎は机へ突っ伏す。
「無理だ……俺みたいな低スコアじゃ……」
珍しく弱気だった。
俺は少し驚く。
「……本気なのか」
「分かんねぇ」
柴崎は小さく言う。
「でも、あいつ見てると楽しい」
沈黙。
「……それが恋愛感情じゃねぇの」
俺が言うと、柴崎は固まった。
「え」
「知らんけど」
「九条が恋愛語った!?」
「うるせぇ」
⸻
一方。
農地では。
「松永くん」
「なんだ」
改良班女子・瀬名ゆかりが、燻製器を指差していた。
「これ、火力調整直しておいたよ」
「……助かる」
松永が少し視線を逸らす。
珍しい。
あのとうもろこし狂人が。
すると農業班女子が俺へ小声で言った。
「松永、瀬名のこと好きらしい」
「マジか」
「ずっと一緒に燻製研究してる」
なんだその関係。
発酵カップルか?
⸻
その時。
一ノ瀬雪乃が静かに周囲を見ていた。
「……不思議」
「何が」
「Eクラスのみんな」
彼女は少し笑う。
「ちゃんと恋してる」
風が吹く。
「Lスコア低いのに」
「関係ないだろ、そんなの」
俺が言うと、一ノ瀬は少し驚いた顔をした。
「……九条くん」
「なんだ」
「変わったね」
「そうか?」
「前より、人を見るようになった」
否定できなかった。
⸻
その時だった。
校内モニターが点灯する。
《特別告知》
嫌な予感。
《学園祭特別企画》
《恋愛適性選抜ランキング発表》
ざわめき。
そして最後の一文。
《Eクラス生徒は強制参加》
空気が冷えた。
さらに表示が続く。
《最低評価生徒には特別措置を実施します》
柴崎が呟く。
「……特別措置ってなんだよ」
誰も答えられない。
ただ一人。
白鷺優斗だけが、モニター越しに微笑んでいた。




