第十一話 「公開恋愛イベント」
「強制参加ってなんだよ!!」
翌朝。
Eクラス食堂に俺の叫びが響いた。
改良班が冷静に味噌汁を置く。
「国家だから」
「納得したくねぇ」
柴崎は大爆笑していた。
「公開恋愛イベントって何!? キス大会!?」
「お前は黙れ」
「いや絶対面白いだろ!」
松永が真顔で言う。
「焼きとうもろこし屋台の宣伝になるな」
「発想が商人なんだよ」
⸻
一ノ瀬雪乃は静かに端末を見ていた。
顔色が少し悪い。
「……大丈夫か」
俺が聞くと、彼女は苦笑した。
「恋愛省主催イベントだからね」
「そんなにヤバいのか」
「恋愛適性を公開測定するイベント」
「最悪じゃねぇか」
「恋愛社会ってそういうものだよ」
笑う。
でも目が笑ってない。
⸻
その日の昼。
校内は完全に祭り状態だった。
《特別恋愛イベント開催!》
《学園公認カップル出演!》
大型モニター。
学園SNS。
リアルタイム投票。
完全にテレビ番組。
「この国ほんと終わってんな……」
俺が呟くと、一ノ瀬が小さく笑う。
「今さら?」
⸻
第一講堂特設ステージ。
全校生徒集合。
中央には巨大モニター。
壇上には白鷺優斗。
「皆さん、本日は特別企画へようこそ」
拍手。
生徒たちが盛り上がる。
恋愛イベントは娯楽なのだ。
他人の感情を消費する。
この社会では。
「本イベントでは、“本物の恋愛”を測定します」
白鷺が微笑む。
「もちろん、偽装恋愛は即時摘発対象です」
空気が少し冷える。
⸻
「では最初のペア」
嫌な予感。
「九条蓮さん、一ノ瀬雪乃さん」
講堂爆発。
「うおおおお!!」
「来た!!」
「Eクラスの奇跡!!」
奇跡扱いされている。
最悪だ。
⸻
壇上へ上がる。
ライトが眩しい。
観客席が見える。
A組。
Eクラス。
教師。
生徒会。
全員見ている。
「緊張してる?」
一ノ瀬が小声で聞く。
「してないように見えるか?」
「少し」
「嘘だろ」
「ふふ」
最近、よく笑う。
自然に。
それが逆に危険だった。
⸻
「では第一試験」
白鷺が端末を操作する。
《恋人理解度テスト》
モニターに問題が表示される。
『相手が一番好きな時間は?』
知らん。
終わった。
だが。
「夜」
「Eクラス食堂の夕食後」
同時だった。
俺たちは顔を見合わせる。
なんで合った?
《一致率:94%》
講堂がざわつく。
「高っ!?」
「マジで付き合ってる?」
知らん。
俺が聞きたい。
⸻
「次」
白鷺が笑う。
『相手が一番安心している場所は?』
今度こそ無理。
だが。
「……Eクラス農地」
「……Eクラス農地」
また同時。
静寂。
Eクラスが騒ぎ始める。
「うおおお!!」
「農地最強!!」
「国家公認農地!!」
違う。
そうじゃない。
だが。
一ノ瀬を見る。
彼女も少し驚いていた。
本当に、そう思っていたみたいに。
⸻
イベント後半。
空気は完全に盛り上がっていた。
「では特別試験です」
白鷺が微笑む。
嫌な予感しかしない。
《恋愛感情リアルタイム測定》
ステージ中央に二つの椅子。
「互いを見つめ、手を繋いでください」
「またかよ」
「国家行事です」
国家が怖い。
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座る。
一ノ瀬が小さく息を吐いた。
そして。
そっと手を重ねてくる。
柔らかい。
細い指。
その瞬間。
《心拍同期開始》
モニターに波形が映る。
観客がざわつく。
「近っ……」
「ガチじゃん」
一ノ瀬がこちらを見る。
距離が近い。
瞳が揺れる。
今。
演技じゃない。
本当に少し緊張している。
だから。
俺の心拍も少し上がった。
《同期率上昇》
《92%》
《95%》
《97%》
講堂がどよめく。
白鷺が静かに目を細める。
そして。
《98%》
空気が止まった。
白鷺は数秒黙る。
その後、静かに微笑んだ。
「……興味深い」
嫌な言い方だった。
⸻
イベント終了後。
控室。
一ノ瀬は顔を覆っていた。
「……無理」
「何が」
「心拍同期九十八%」
「俺に言うな」
「全国配信された……」
「終わったな」
すると。
控室扉が開く。
入ってきたのは白鷺だった。
「お疲れ様でした」
笑顔。
怖い。
そして。
「九条くん」
「……なんです」
「君、“判定できなくなってきていますね?”」
心臓が止まりかけた。
白鷺は続ける。
「最初は彼女を“演技”として認識していた」
「ですが今は違う」
「感情判定が揺らいでいる」
空気が冷える。
なんで分かる。
「それはつまり――」
白鷺は静かに笑う。
「君自身が、“恋愛感情”を持ち始めているということです」




