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国守の愛 第2章 群青の人・イエーガー   作者: 國生さゆり


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78/78

要編  78 君の声が聞きたい



  シーン78 君の声が聞きたい



  あふれる、光の中を歩いている。原宿で開催されているフリーマーケットの中、僕の眼差しは30メートル先を歩く、1組の男女の後ろ姿に釘付くぎづけだ。



 女性の髪は以前よりも伸びて肩甲骨けんこうこつに届くほどになっていた。月日を感じながらも歩く度に揺れる髪に見惚みほれている。陽光を受け、絹糸のようにあでやかだった。



 女性が身につけているオフホワイトのオーバーシャツに以前、この女性のために服を用意した日を思いだす。見守っていたあの頃、ショップに入店して、いま女性に寄りっている男は水色のワンピースがいいと主張して、僕はオフホワイトのシャツと紺のワイドパンツが好みで、男と小さなあらそいをした。



 がんとしてゆずらず、押し切って購入した。そのいきおいを借りて、初めて女性用の下着を選んだ。



 あの頃、この女性はアウトソールが深紅のハイヒールをき、アンバランスな身体動作がヒールに伝わって、独特で魅力的な歩き方をしていた。今日、その女性は白のコンバースを履いて、足先をステップさせるかのように、人と人の間をうようにして歩いている。ネコ科を思わせる俊敏な歩き方に変化していた。



 またも時を感じる。

 若干、心がふさぐ。



 守るように彼女の隣を歩く男は今日、監視体制Aラインが()かれたばかりだ。その横顔に視線を移す。その表情は以前のように爽快そうかい快活かいかつさを取り戻していた。もう2年近く顔を合わせていない。この男は僕が死んだと思っている。



 今日、僕はこの男に姿をさらす。

 どんな顔をして、僕を見るだろう。

 僕はお前の大切な物を、うばいに来た。




 チームに泥を食わせた腹いせに、男が愛してまないひとを、目の前で奪い取ってやることにした。殺すほど僕は人間ができていないし、望郷がいかに心をむしばむか、邪心がどれほどおろかしいか、両舌りょうぜつがどんなにも自分をおとしめるか、この男は身を持って知るべきだ。



 フレミング覚えているか、同窓のもとで学んだ日々を。自尊がもっとも人を狂わせると、名だたる武将の名を上げて僕に教授したのはお前だ。

 


 もちろん僕は、彼女を心底愛している。

 彼女は、僕の光だ。

 たがら、返してもらう。



 だが、、しかし、、されど、、、、2人は以前よりも、親密さを増しているようにも見える。



 今、自分が呼びかけたら愛するひとは、どんな顔をするだろう。あのとびきり愛くるしい笑顔で迎えてくれるだろうか・・・そのはずだ。この女性は肌身離さず、僕のスマホを持っている。



 彼女の心を勝ち取れるだろうか、内心に問いかけてみる。ハンガーに吊るした革ジャンを、彼女は自室の本棚に掛けていると知っていても自信がない。いてすらこない。つい、今しがたまであったたぎる想いは、どこかに行ってしまった・・・・・プランBで行くか・・・・作戦変更は恥じゃない。



 どうした・・・・・。2人の雰囲気に怖気おじけづいた・・か。そう思えるほど長い時がっていた。僕は遠回りしすぎていた。心を通わせ、互いを強固に想い合えるほどの日々も、時間も、彼女と過ごしていない。



 人間は悲しくも、忘れていく生き物だ。変わらない愛、変わらぬ意志、貫く想いを持てぬほど、人は野蛮やばん利己的りこてきだ。信頼し続ける心を持ち続けるのは難しい。



 生きていると、心を折られてしまう時が必ずくる。



 立て直して、我道に戻す。

 なんとか、必死にだ。

 生きるは、その繰り返し。



 愛するひとは、幸せそうに笑っている。

 寄り添う男と、笑っている。



 男が店内に入って行く。



 彼女はひとり、オープン・スペースにあるテーブル席に座った。過去を乗り越えて今を生きていると、その後ろ姿を見て思う。過ぎ去った日々に、引き戻すような事はしたくない。あきらめなければならないと切に思う。唇を噛み締めて、俯く。自分にどうしたいと問いかけてみる。女々しくも僕の心は、彼女の声が聞きたいと訴えた。



 すぐに切ってしまえばいいと理性とプライドは誘惑され、黒のスラックスパンツの後ろポケットに左手が伸びた。



 暗記している番号を、スマホに打ち込む。

 通知音が鳴る。彼女を見る。僕は彼女を見続ける。



 ホワイトジーンズの後ろポケットから、スマホを取り出した彼女は通話をONして「尾長です」と言った。



 驚き、歓喜し、絶句した。

 僕の視界が揺れる。


 彼女が「もしもし?」と問う。



 意を決して「綺麗なお姉さん、お久しぶりです。振り返っていただけますか?」僕は声が泣いていると、気付かれぬように必死だ。



 「あっ!」と声を上げた彼女はゆっくりと振り返り、僕の姿を見つけて泣く。ポロポロと涙のしずくを落として泣く。静かに椅子から立ち上がった。大きく両腕を広げて、僕に向かって走り出す。



 つまずいた彼女に僕は大きく一歩踏み出してけ寄り、ダイブ寸前の彼女の右腕をとらえて慎重に引き上げた。僕を見上げた煤竹色すすたけいろの瞳を一心に見つめ「富士子さん、あなたはいつも転びそうになっている」と言った。この時をどれほどに恋こがれていたか・・・そっと抱きしめる。



 富士子の両手が、僕の背中を抱く。

 





                   了








 『国守の愛・イエーガー・群青の人』は、これにて完結となります。つたない文章表現に最後までお付き合い頂きましてありがとうございます。感謝いたします。この作品はフィクションです。なお、なんらかの政治団体と、この作品と筆者は一切関係ありません。よろしくお願い致します。


 

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