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国守の愛 第2章 群青の人・イエーガー   作者: 國生さゆり


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77/78

要編  77、、、不在



  シーン77、、、、 不在



 要がトーキーとチャンスの3人で水浸しにした脱衣所と廊下の掃除をしていると、タマネギをバターで炒める甘い香りに誘われ始める。要の腹が鳴った。空腹を感じたのはいつ以来(いらい)だったか。



 掃除道具をロッカーに片付けて3人は食堂へと入って行く。厨房のコンロ前に立ったファイターが中華鍋を振っていた。バターが玉ねぎに絡(から)む芳醇(ほうじゅん)な香りが食堂を幸せにしている。カレーはなぜ、いつでもどこでも人を安心させ、望郷を思い起こさせるのだろう。




 ファイターの右横に立ち、中華鍋の中を覗(のぞ)き込んで「懐(なつ)かしいな、この香り。ファイターが作るカレーが恋しかった」鼻をクンクンとさせて楽しんだ。そして「幸せだー。僕は単純だな」と言うと、ファイターはチラリと僕を見て口角を上げ「食べて、寝て、笑う。大切なことだ。お前がここに来てから、何かを食べたいとリクエストしたのは今朝が初めてだ。楽しみにしていろ。今日のカレーは一味違うぞ」イカツイ顔で笑う。




 その横顔に僕は「ファイター、支えてくれてありがとう。僕のお守りは大変だっただろう・・。正直にいうと・・・ここ1ヶ月ほどの記憶が・・断片的(だんぺんてき)なんだ。すまなかった」と謝った。「ああ、大変だった。お前のわがままと怒りに満ちた1ヶ月。あとで日報を読ませてやる。ちなみに俺がお前を投げ飛ばした回数も書いてあるぞ」と言ってファイターは左眉を上げた。「ありがとな」泣きそうになってファイターの左肩を感謝を込めて叩く。帰国してから僕の感情は入れ替わりが激しく、よく涙する。自分でも厄介だ。


 


 ファイターは玉ねぎがしっとりとした飴色になると、コンロの火を弱めてニンニクとトマトを加えた。一ヶ月間、チームを支え続け、僕に厳しい態度で対峙(たいじ)し続けたファイター、強く、気高(けだか)き男は今、地雷処理でもするかのような繊細(せんさい)な手付きで具材を炒め続けている。




 チャンスがコンロの対面に設(しつら)えてある作業台で、豚バラ肉のパックを手にした。それを見たファイターが「チャンス、豚バラ肉は後だ。先に人参を切ってくれ。いつもより小さくな。今日はじゃがいもはやめておこう。トロミが出るまでに時間がかかる。切り終わったら食糧備蓄庫に行ってオールスパイス、ターメリック、チリペッパーを探して来てくれないか」と言った。チャンスは「はい!」と大きな声で返事をして人参を切り始め、僕は「チャンス、殴って悪かった」と謝った。3日前、聴取(ちょうしゅ)した内容を確認していたトーキーに、コンテナ船の日々が思い出い出されて我慢が出来ず、言いがかりをつけて喰(く)ってかかり、僕のあまりの言いようにそばで見ていたチャンスが割って入り、僕は身を交(か)わしてチャンスに馬乗りなって殴りつけた。



 下を向いたチャンスは人参を切りながら「手加減なしのパンチ、痛かったです。でも、殴られて・・僕は・・イエーガーの痛みでもあると・・感じました。イエーガーの聴取を聞いていて・・・正直、僕じゃなくてよかったと思いました。すいません!こんなこと言って、すいません!!でも、今の僕には・・・耐えられない。そう思ったんです。僕は、もっと強い男になりたいです。格闘技の腕も、もっと磨きたいです。そして、いつか、イエーガーを倒せるような男になりたいです」最後は滲(にじ)む目で僕を見たチャンスがそう言った。「わかった。僕の全てを賭けて教える。約束する」大人げなく、チャンスに八つ当たりをした自分が恥ずかしくて情(なさ)けない。「チャンス、トーキー、すまなかった」と言って、もう一度、頭を下げて謝る。無秩序(むちつじょ)に起爆(きばく)した僕が一方的に悪い。怒りをコントロールできなければ全部を失う。信頼、友情、愛情、忠情。




 「とんでもありません」と言ったトーキーはコンロの並びにあるシンクで、アルミのボウルに同じ大きさのザルを重(かさ)ねて水を張り、洗ったレタスを一口大(ひとくちだい)に手で切り落としつつ、3人の会話を聞きながら、自分はチャンスやターキーのように人に率直(そっちょく)な物言(ものい)いができない。神の言葉を知っていてもそれだけじゃ・・ダメだ。イエーガーやファイターのように自分の言葉を持たなければ・・これまで以上に・・より自分を理解してもらえるようになる為(ため)にも必要な事だと思っていた。




 チャンスは乱切りした人参が入ったボウルをファイターに手渡しながら「ファイター、レモン水が飲みたいです」と言い、「わかった」と返したファイターは冷蔵庫からレモンを2つ取り出す。そんなありふれた平凡を、なんて暖かくも和(なご)やかで平和なのだろうと思えば僕の涙腺がまた緩(ゆる)み出す。チャンスは豚バラ肉をボウルに入れてファイターの前に置くと手を洗い、食糧備蓄庫へとスパイスを取りに行く。




 トーキーがきゅうり、カイワレ、トマト、ピーマンの順で切ってゆく。「サラダに生ピーマンはチャンスが苦手だろう」何気(なにげ)なく言うと、トーキーが「克服(こくふく)したんです」と言ってファイターを見た。ファイターは「最初は砂糖と醤油で味付けしてな。お子ちゃま料理で食(く)わせた」と笑う。




 歳月(さいげつ)を感じ「そうだったか」ひっそりと返した僕に、トーキーは「どうしました?」と観察眼を向けて尋(たず)ね、「居ない間に、いろんな事が変わったんだなと思った。それにここに来て約1ヶ月経ってんのに、そんなことに今気づいた。どうかしてると少々、いや、だいぶ自分の衰退にショックを受けてる」と正直に答える。ファイターに「どうかしてたんだから、しょうがないだろう」と言われて見返した。トーキーが「イエーガー、大したことじゃないですよ。いちいち荷を担(かつ)がないでください。あなたはここ一年あまり、1人だったんです。僕らより、つらい思いをしたと思ってます。あの日、イエーガーを置き去りにして僕らはヘリに乗り込んだ。作戦を完遂(かんすい)するために。盾石さんの安全を担保するために。後味の悪い任務でした。帰投(きとうご)後、僕らは無口になっていきました。我慢できなくなってこの仕事はとか、なぜ他人(ひと)の命が自分より重いのかとか、そもそも神はとか、週一で機会を作って3人でとことん話し合いました。僕らがあなたの生存を信じ、こだわったのは自分の為でもあったんです」 トーキーは静かな、よく通る声で言った。




 「本陣でコロンブスとも話し合った」と言ったファイターが話を引き継(つ)ぐ。「コロンブスは見捨てる、諦める、何もしないで認めるでは悪しき慣習(かんしゅう)を継承(けいしょう)した事になる。生きている。このベルトをこんな風に工作したのはイエーガーの生への執着(しゅうちゃく)だ。必ず、どこかで生きている。心底(しんそこ)、もういいと納得出来るまで探せと、部隊徽章が逆付けされて海に浮いてた腰ベルトを、俺たちに見せながら言ったんだ」コロンブスが言った言葉を要に伝えた。視線を落として2人の話を聞いていた。誰もが、あの作戦で心に傷を負(お)っていた。



 無意識に「何があったんだ、宗弥に」と言った僕をトーキーが手を止めて見た。「知りたいですか?」と聞かれて頷く。「フレミングは新潟分屯基地で衛星電話を使って、サヤと連絡を取り合っていました。裏も取れています」、「え!!!」僕は驚愕(きょうがく)のままに声を上げていた。



 「嘘だろう!!!」




 僕の顔を凝視したトーキーが首を振る。そして「今、フレミングは監視対象者リストのAラインに入っています。それからもう一つ、イエーガーの手紙を盾石さんに渡しに行った時、フレミングは盾石さんに話している体(てい)を成(な)しながら、機密情報を口にしていました。あれは情報漏洩(じょうほうろうえい)の類(たぐい)です」きっぱりとした口調で断言した。トーキーの顔を見直した僕は「本当なのか!」と確かめる。トーキーは「はい」 と即答した



 「嘘だろう!!!」




 何かしていなければ、何かに構(かま)っていなければ、チームがいなければ、宗弥を探し出して単独で殺しかね無いと自分を懸念(けねん)しているファイターは、鍋に豚バラ肉を投入してコンロの火を強め、中華鍋を振りながら「イエーガー、気持ちはわかる。残念だがトーキーが話した通りが真実だ。お前の報告書をコロンブスに上げてこっちの準備を整(ととの)えてから、フレミングと向き合おう。今、ターキーと技術局があらゆる手段を使って、フレミングの周辺を見ている。今のところ疑(うたが)わしい接触は無いらしい。だが、いずれ、メッキが剥(は)がれて姿を表す。今はその時を待つんだ」棘(とげ)が見えるような声でだった。




 「あの作戦時のアルファーの動向(どうこう)が、スパルタンに筒抜けだったということか!!“ お前の知らないチーム内のことを俺は知っている“ とスパルタンは僕に言った。この・・事だったのか・・」言葉を失った言葉に、ファイターは裂けたように、トーキーは鳥のように目を見張る。



 僕は・・・人生最大の憤怒を覚える。

 僕らは職務の宣誓をしている身だ。

 宗弥は祖国を裏切っていた。




 みるみる顔面蒼白なっていく要を見たトーキーは「我々とフレミングは背中を預けあった仲間でした。残念でなりません。盾石さんの入院中、コロンブス預かりになったフレミングが連絡士官として病院に詰めていたからこそ、お渡しした書類がより深い内容の報告書になったのも事実です。ですが、本陣はフレミングが故意(こい)に、軽井沢への移送時刻を遅らせたと考えています。フレミングが盾石さんと話をした場所は公園の監視カメラのすぐ近くで、映像にズームをかけなくても唇が読めるほどの至近距離でした。誰かがどこかで見ているのをフレミングは承知していて、口にしたと本陣は推測しています。フレミングの背後には誰かが、もしくはどこかの国がいます」感情を殺した声で淡(たんたん)々と話す。



 混沌(こんとん)の結末を知った要は何故だ!!!と耐え難く、絶望的な考察(こうさつ)をする。宗弥は・・僕が戦闘時、死亡扱いになった事を・・・誰かに知らせたかった・・・・“ボス“と・・閃(ひらめ)いて絶句する。



 「そんな!!はず無い!!!宗弥とボスの接点はない!!!!あっ!!!サヤを通じて・・・・・僕のあのコンテナ船での日々を宗弥は知っていたのか!!!知ってて!!黙っていたのか!!!!違う!!!!!・・・そんなはず・・はない・・だから、ボスは・・・コンテナ船の通信システム・REDゾーンへの立ち入りを僕に・・禁(きん)じていた・・・」口にしながら、不透明だったパーツがきっちりと収(おさ)まった。




 「コンテナ船の通信システムの調査は済(す)んだのか!何か情報はないのか!」声を大にして聞く。「機密指定になっていて、なんの情報も下(お)りてきてない」と言ったファイターに、僕は開きかけた口を閉ざされた。「わかってる。俺たちもお前が今、言った通りの見解だ。お前の聴取が日々進むにつれて、俺たちは何度も意見を出し合って話し合っていた。フレミングはコンテナ船にお前がいると知っていた。なぜ、フレミングは黙っていたかって、愛だよ、愛。富士子さんへの想いがそうさせたんだ・・・フレミングはお前が邪魔だった。人の愛情に疎(うと)い俺でもわかる」と言ったファイターの言葉に背中がゾワつく。



 宗弥!!!!!!!!!!!!




 チャンスが食糧備蓄庫から音もなく戻って来た。「ファイター、ありました」両手で抱えたスパイスをコンロと作業台の境(さかい)に置いてゆく。「ありがとう。よく見つけ出したな」ファイターはオールドスパイスの封を切りながら言い、炒めている具材に振りかけて絡(から)め始め、怒(いか)り顔とは裏腹にその手つきはきわめて繊細だった。



 涙に血が混じったような表情の要をチラリと見たファイターは「考えすぎるな。フレミングは内心の弱さを手懐(てなず)けられなかったんだ。お前には釈迦(しゃか)に説法(せっぽう)だが、俺たちはそれではやっていけない。自分の弱さをも黙らせる強靭(きょうじん)さが必要だ。それが出来てこそ、この仕事に従事(じゅうじ)できる」一点を見つめている要に言った。



 アルファーとターキーの中ではすべてが清算済みで、心痛も憂(うれ)いも消化済みで、今はもう、宗弥の虚構(きょこう)すら、歯牙(しが)に掛けていない。僕だけが揺(ゆ)らいでいる。




 そしてファイターは「ある意味、フレミングの人間味だ」沈んだ声で言い加えた。チャンスは何を話しているか、理解した。チャンスは要を侘(わび)しい目で見る。2人は親友だったのに。あんなに信頼しあっていたのに・・・こんなことって・・本当にあるんだ。下を向いて唇を噛む。口の中に血の味が広がった。




 ファイターは他のスパイスを入れてからめ、水を加えて生姜をひとかけら入れると蓋(ふた)をして弱火にした。「20分ほど煮込んで、カレー粉を入れたら出来上がりだ。座って待とう」と言い、茫然(ぼうぜん)として動かない要に「行こう」労(ねぎら)うように声を掛けて即(うなが)した。




 窓辺に並ぶ4つのテーブルの中から、調理台から見て2つ目のテーブル席に座った要は怒りすら滾(たぎ)らない。ただ、ただ虚(むな)しく、悲しめず、宗弥に対してガサツにも、野蛮にも、粗野(そや)にもなれずにいた。それでも要は思う。宗弥にはアルファーのやり方でキッチリとケジメを取ってもらわねばならぬと。でなければアルファーが敵から軽(かろ)んじられる。僕の気持ちは・・・後でいい。



 要の左側にファイターは座り、その向かいにトーキー、トーキーの隣にチャンスが腰掛ける。沈黙を破った要は「トーキー、フレミングの本陣担当者とターキーに一度こっちに来てもらいたい。本陣と調整してほしい。僕はまだ状況を上手く飲み込めていない。話を聞きたい。今のままではアルファーは僕らの世界で笑い物だ。すまなかった。どうあっても、何がなんでも、僕らの手でこの事態を収集しよう。じゃないとアルファーの名折れになる」、要に一直線の眼差しを向けたトーキーが「わかりました。少しプライベートな話をしていいですか?」と言った。




 「なんだ?」と聞いた僕の声は掠(かす)れていた。トーキーは「盾石さんの自宅を訪ねた総務の係官からターキーが聞いた話ですが、盾石さんは守秘義務承諾書(しゅひぎむしょうだくしょ)にサインを求められた際(さい)、“尾長さんは国家の為に尽くしたと思いますか“と聞いたそうです。係官はもちろん“はい”と答えました。次に盾石さんは尾長さんの死は発表するのですかと聞いたそうです。返答はもちろんNOです。それを聞いた盾石さんは“国に尽くした人の死を発表出来ない事情は私には理解しかねます。強く抗議します“と言ったそうです。その後はさっきお伝えした通りです。“自分の眼で確認しないかぎり、尾長さんの死は認めません“と言って、盾石さんは書類にサインしたそうです。いきなりすみません、こんなときに・・・ですが、今ここで伝えておかないといけない気がしました」柔(やわ)らかな声で語った。




 富士子の強さにまたも絶句した。「そうか」と絞り出す。




 2人の会話をきいていたファイターは要の横顔に「お前に盾石さんのことを、最初に言わなくてすまなかった」と頭を下げた。「やめてくれ、ファイター。僕にそれを聞く余裕がなかったんだ。頭を下げないでくれ。僕は最低だ。自分を見失っていた。迷惑をかけたし、お前たちを、、思いやることもできなかった。独りよがりで・・・勝手で・・お前たちがいなかったら、僕は折れていた」あとが続かない。




 3人は僕の気持ちを大切に思い、タイミングを計って宗弥の話をした。なのに、僕は最低だ。堪(た)えていた涙が零(こぼれ)れ落ちる。3人で何度も話し合ったはずだ。僕の寝ずの番をして、毎日食事を作り、運動につき合って、代わる代わる僕に話し掛け続けた。僕が・・バカをせぬ様(よう)に。何を言ったらいいのかがわからない。止まらぬ涙を噛み殺す。




 目の縁を赤くして鼻をすすったファイターは「さっ!そろそろ出来上がる頃合(ころあ)いだ。チャンス、仕上げるぞ」と言って席から立ち上がり、「PCを持ってきます」と言ったトーキーは自室へと走る。




 カレーの香りがし始める。涙を両手で払い退(の)けた要は「締(し)まっていこう」と声に出し、両手で顔を叩いて調理台に振り返る。レモンを切っているファイター。チャンスがサラダの入ったアルミボールを右手に持ち、取り皿とコップが乗るお盆を左手に持って歩いてくる。その姿を見てしっかりしなければと思う。全てを賭けて体術を教えると約束した。



 気持ちを切り替えて、知りたかった「スパルタンはどうしている?」と口にする。




 お玉でゆっくりとカレーを混ぜているファイターが「黙秘してる。何か、取り引きできそうな事が出てくるまで、黙秘を貫(つらぬ)くつもりじゃないか」苦虫(にがむし)でも噛(か)み潰したような辛(から)い表情でそう言い、「どこまでも卑怯な奴だ」と吐き捨てた。




 どこまでも、コンテナ船ルールを通すつもりか。日本に帰国したら少しは、スパルタンの気持ちに変化かがあるかも知れないと望みを持っていた。



 悪行、身に付き易(やす)し。宗弥も取り憑(つ)かれた。



「サヤの行方は、わかったのか?」と聞く。




 チャンスは手を止めて「僕達が突入する前夜に、香港の地下組織に売られたところまでは調べがつきました」と言い、テーブルに小皿を置きながら「それ以降の足取りは忽然(こつぜん)と消えて、未(いま)だ所在不明です。ああ、そうだ。売店と呼ばれていた傭兵がサヤと一緒だと思われます」と言った。




 サヤが言っていた保険が実を結んだということか・・見つけ出して、フレミングのことを証言させてやる。PCを手にして音もなく戻ってきたトーキーは席に着くや、本陣に暗号メッセージを打ち始めた。タッチ音がいつもより立っている。そのトーキーに「サヤの捜索(そうさく)に、新着がないか問い合わせてくれ」と頼んだ。




 チャンスが左右の手に一つずつカレー皿を持ち、テーブルに戻ってくる。その後に続くファイターは右手で持つお盆に2つのカレー皿と箸とスプーンをのせ、左手にチャンスがリクエストしたレモン水が入ったカークボトルを下げていた。僕は「ありがとう」と言いながら立ち上がって盆からカレー皿を取り上げ、ファイターはお盆をテーブルにおきつつ「サヤという女は、どこまでも思慮深(しりょぶか)い女だな」と言った。




 トーキーが「人間というのは付き合う人によって、人生を大きく左右されるもんなんですね」と寂しげに言った。きっと宗弥の事を思っているのだろうと察(さっ)し「僕はこれから努力する。もうお前たちに悔しい思いはさせない」と口にした。ファイターは「努力しなくていい。今まで通りでいい」と力強い口調で言ったものの、目に涙を溜(た)めていた。



 トーキーは姿勢を正して「イエーガー、ならば扉を叩け。ならば開かれんです」と言い、チャンスは「これからも、よろしくお願いします」と言って、スプーンを握りしめて目を瞬(しばたた)かせている。ここ数時間のチャンスは僕と一緒で、泣き上戸(じょうご)で、涙を隠すのがすこぶる下手だ。ファイターが「しんみりはもういい。食べよう!!」と声を張る。




 いつも通り、全員で馬鹿みたいな大きな声で「いただきます」と言って食べ始める。ファイターのカレーはいつもよりスパイスが効(き)いていて、切なくも懐かしく、美味いカレーに目の奥がツンやられて潤(うる)みだした。涙の理由を辛さのせいにしてバクバク食べる。




 1人欠けてしまったアルファーは食欲旺盛で、たわいの無い事ばかりを話題に上げては、馬鹿な言葉ばかりを選んで茶化し合う。誰もが宗弥不在が悔しく、誰もが宗弥不在の理由に傷心(しょうしん)していた。




 この日から3日後、要の報告書は完成する。書類にはファイター、チャンス、トーキー、ターキーの意見書が添付(てんぷ)してあった。



 本陣に書類提出してから4日後、要の原隊復帰が認められた。

 異例の速さだった。





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