要編 64 ピエロの事情
シーン64 ピエロの事情
懸命に回復メニューを考え、まずは体重を取り戻すと決めて、ピエロに頼んで大量の食事を船室に運んでもらう。
ピエロは“Don’t eat so suddenly l ‘ll vomit.“(突然、そんなに食べては吐きますよ)と書き込んだメモ帳を要にみせ、読んだ要は「Should be fine.」(大丈夫。問題ないさ)と応えては食べ続け、そのやりとりはメモしたページが使い古され、端がよれるほどに毎日続いた。
決まって、ピエロの言った通り、吐き気を催す。堪えて腹に詰め込む。体力を取り戻さなければ何も出来ない。と、考えれば、闘争心に火が付き、気合いだけで食べ続ける。
ふと、カリオストロのルパン3世のようだと思う。食べては横になり、起きては食べている。あの映画を観た後、宗弥は富士子を助ける為だったら、俺は何でも食うと言って笑った。
宗弥は元気でいるだろうか。
富士子はと・・考えて、取り消す。
そうした日々の10日目、新緑色の3人掛けソファーの右端に座り、食事をしている要を、左端に座るピエロが細々と世話を焼いていた。
それまであえて、当たり障りのない会話を選んでしていた。ボンゴレスパゲッティを食べながら「why are there good people like you have ?」(あなたのような善良な人が、なぜここにいる?)と聞いてみる。
途端に、ピエロが俯く。
その表情を見た僕は皿をテーブルにおき、ピエロに膝を向けて「l’m sorry.I heard that you entered.」(すまない。立ち入った事だった)と言った。ピエロはおずおずと視線を上げて要の顔を見るや、メモを書き出し “it’s alright “(大丈夫です)と書いたメモを要に見せ、またメモを書き始めた。
そして“ My country is poor. So I asked the boss to smuggle his daughter. Only the boss knows where his daughter is now. And I'm here to pay her boss for her daughter's illegal stay.(私の国は貧しい。だからボスに娘の密入国を頼みました。ボスだけが今の娘の居所を知っています。そして私は娘の不法滞在の代金を、ボスに払うためにここにいます)2枚に分けて書いたメモを、切り取って要に渡す。
読んで「ls there anything I can do?」(私にできる事はありますか?)と聞く。
“if you go back to Japan,I want you to find my daughter.“ (もし、あなたが日本に帰る事が出来たら、私の娘を探して欲しい)ピエロはそう書いてたメモを、要に見せて両手を合わせる。
「all right. I will do my best .」(わかった。微力ながら努力します)僕がうなずくと、ピエロの瞳を曇らせていた陰鬱の薄雲が晴れてゆく。「Having hope and promise leads to efforts for the future. Thank you very much for me now .」(希望と約束を持つのは未来への努力に繋がる。今の僕にとっても有難い申し出です)と僕は言った。
そこにノックもせずに、スパルタンが入室して来た。ピエロはメモ帳をスッーとズボンのポケットに入れ、それを見た僕は、スパルタンの影になるであろう空間に右手を下ろし、手にしていたメモ紙を握り潰して掌の内に隠す。
スパルタンは要の隣に座っているピエロに、「What are you talking about here .」(お前、ここで何を話してる)大人気なく凄んでみせ、首を振るピエロになおも、「it was. You had your tongue cut by the boss .can’t you talk 」(そうだった。お前はボスに舌を切られたんだったな。話せるわけないか)と言ってニヤリと笑った。相変わらずの不快が匂い立つ顔だ。
僕はピエロの横顔を見る。要を見返したピエロの目は、怯えていた。
「イエーガー.don’t you want to know why?」(その理由を知りたくわないか?)スパルタンはわざと英語で言い、嫌悪の目をスパルタンに向け「やめろ」言い返す。スパルタンは羊を思わせる目で「元気だな、イエーガー。お前をこいつの代わりに、痛め付けてもいいんだぞ」と言い、「もう少し経ったらで頼む」と応じる。頼もしげな目で要を見たスパルタンは、ピエロに視線を移して「go away .」(あっちいけ)と荒い口調で言う。
慌てて立ち上がり、ドアに向って歩き出したピエロの背中に、立ち上がった僕が「l’m sorry. Let’s talk again tomorrow .」(すまない。明日また話そう)と声を掛けると、振り返ったピエロは僕を見た眼差しを、怖々とスパルタンに向けて、足早に船室から出て行った。なぜ、ピエロは、こんなにもスパルタンを恐れる?船内でのスパルタンはそういう立場だという事か・・今の僕は疎すぎる・・ピエロから聞き出さなければ。
隣に座ったスパルタンに、向かいの1人掛けソファーを顎でしゃくり「あんたこそ、あっちに座れよ」と言うが、スパルタンは「そんなに冷たいこと言うなよ。俺はこう見えてお前らアルファーが慄くような、すげー、チーム内の事情を知ってるかもしれないぞ。チーム長のお前が、それを知らなくていいのか?」と高慢さが匂う声で言った。
ボンゴレを食べながら「チーム長だっただ。何ヶ月経ってると思う」と言い返す。白けた顔を要に向けたスパルタンは「おいおい、お前たちの結束の固さは、俺が作ってやったんだぞ。なに、わざとらしいこと口にしてるんだよ。奴らはまだ、お前を諦めてはない」、チームのことは聞きたくない。「僕はもう、あんた側の人間になった。知るかよ」とさえぎる。
スパルタンは大声をあげて笑う。クソッタレと思いながら「そうだろう?」とスパルタンに問う。「お前がそう言うなら、そうだろうよ」と言ったスパルタンは満足げだ。
その顔を、スパルタンを、香草焼きに調理された鶏の足を右手で持ち、かじりつきながら見る。今にお前の世界をひっくり返してやると思いながら、バリバリと骨まで食べる勢いで、咀嚼しながら見る。恨み、妬む心も今の僕には必要だ。元々、若干、ひねてはいた僕だ。今さら多少、捻くれようが変わりない。
その後、スパルタンは上機嫌に、お前が元通りになれば、俺たちはまた昔みたいに、世界中を転戦するようになると、楽しみにしていろ的な話を、1人、勝手気ままにペラペラと語り、自分の語る夢に十分に酔った頃、来たとき同様にプラリと船室から出ていった。
このコンテナ船の内情を知り、情報収集に努める。その思いだけが、今の僕を支えている。




