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国守の愛 第2章 群青の人・イエーガー   作者: 國生さゆり


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要編  60 出陣


  シーン60 出陣



 作戦当日の夕方、側近(そっきん)とランニングする基地司令(きちしれい)の右隣を走りながら、加藤はホロリと何気なく「東京からのお客さん方ですけど」と呟(つぶや)いた。司令が注目した気配を察した加藤は一段と声を顰(ひそ)め「潮の満ち引きを鑑(かんが)みて、作戦は明日に先延ばしされました」と耳打ちした。その際(さい)「出発地点と時間も変更になり、ただいま検討中とのことです」と告げ口するのも忘れない。



 手早くシャワー浴びた加藤は作戦進行の手順を格納庫で訓練しているアルファーに備(そな)え、宿舎に待機(たいき)している田中、相馬、安藤の元に行き、決行日時に変更なしと口頭で伝達する。



 高速艇が着岸するポイントを伝え、3人の記憶を確認した加藤は沿岸にある防護柵(ぼうごさく)ドアのカギを田中に渡しながら「ちょっと、出てくる」と告げ、その予定を聞いていなかった3人は顔を見合わせ、田中は代表するかのように「どちらに、行かれるのですか?」と聞いた。加藤はいつもの調子で「野暮用(やぼよう)だ。ここんとこ外に出れてないだろう」と言って左手の小指を立て「これがさ、会いたいってうるさいんだよ。行かなきゃ俺、捨てらちゃうだろう、頼むよ」と言い、ぶらりとするいつもの飲み屋に行く足取(あしど)りで営舎外(えんしゃがい)に出ていった。



 02:00


 テトラポットの立った要は、田中と握手を交(かわ)わしていた。



 「お気をつけて。ご武運を」と言った田中に、要はうなずき「ありがとう。世話になった」と礼を言い、ひらりと身を翻(ひるがえ)して停泊する海上支援の揚陸用(ようりくよう)・高速艇に乗船するや、左手首のmarathon tsarに視線を落とし[送る。イエーガーから総員。時計合わせ、、、、10秒前]と口にし、総員はすでに見ていた腕時計に右手を添(そ)える。



 カウントダウンしていく。[5、4、3、2、1、0]、カウント0と同時に総員がブッシュボタンを押す。




 [送る。イエーガーから本陣コロンブス、只今(ただいま)より、チームアルファー作戦行動に入ります]と内耳モニターに入れ、本陣・通信室の巨大TVモニターの前に立ち、アルファー各自のメットに搭載(とうさい)されているカメラ映像を一心に見ているコロンブスは[送る。コロンブスから総員、了解した。奪還して戻れ]と応(おお)じ、[最善を尽くします。行きます]と要は返信する。



 無音の高速艇が、岸から離れてゆく。



 見送る田中達が敬礼する。

 返礼を返すアルファー。



 闇夜に溶(と)け入るように、高速艇は速度を上げた。



 拉致4日目の富士子がどういう状態で監禁されているのか、全く情報はなかった。咄嗟(とっさ)の動きに対応できるよう要は軽快さを重視(じゅうし)して、通常(つうじょう)の防弾チョッキを選んだ。その装備(そうび)を見るや、ファイターは舌打ちしたが、要は聞こえていないフリをしてスルーしていた。



 02:56


 揚陸用・高速艇が貨物船まであと800mと迫(せま)る。



 アルファーは腹這いになってFN F2000を構(かま)え、高速艇から身を乗り出して周囲に警戒の目を注ぐ。暗視(あんし)スコープを覗(のぞ)いていない左目で、要は左側にいるトーキーを見た。




 その気配(けはい)を感じ取ったトーキーの口元が微(わずが)かに上げて、頷(うなず)く。




 うなずき返した要の脳内にDearest が鳴り響き始め、メットバイザーを双眼鏡モードに切り替(か)えた要は、緑の視界の中、貨物船からの海上警備を探(さぐ)るが船上に人影は皆無(かいむ)だった。[送る。イエーガーからファイター、海上監視はどうか?]警戒を緩(ゆる)める事なく入れ、後方に陣取るファイターに聞く。[無し]とファイターが短く応(こた)える。



 返信を聞いた要は“この国の自衛を馬鹿にしやがって迂闊(うかつ)な奴らだ“と内心で呪詛(じゅそ)した。



 

  貨物船まで、300m。



 口内にアドレナリンが漲(みなぎ)るのを意識しながら要は[送る。イエーガーから総員。いいか!どんな状況であろうが諦(あきら)めるな!最後の好機(こうき)だと思え!すり抜(ぬ)けながら富士子をかっさらえ!!]と檄(げき)を飛ばす。後方右手のチャンスが[了。イエーガーに、アルファーについて行きます]と言い、トーキーは[了。船の構造(こうぞう)は目を瞑(つぶ)っていても進めるくらいに、頭に叩き込んであります。任せ下さい]と言った。



 操舵手(そうだしゅ)の右隣に陣取る宗弥は[了。俺のしくじりでこんな事態に陥(おちい)った。みんな、すまない]くぐもった声だった。




 後方左手のファイターは[了。フレミング、もういい。そのことはもう口にするな。総員、気を引き締めて行こう。孤立し、船に取り残されたら海に飛び込んで救出を待て。俺たちはお前を諦(あき)めない。各自の体内に埋め込んだ発信器を辿(たど)って、必ずアルファーが探し出す]と覇気(はき)に満ちた声で発する。




 深海のような闇に紛(まぎ)れた無音の高速艇が停泊(ていはく)している貨物船のヘリポートに、一番近いスターボートクォーター・デック側から侵入を開始し始めると、要は[送る。イエーガーから総員。準備に入れ]と指示を入れ、貨物船との間を8m開けた位置で高速艇をホバーリングさせた操舵手が[送る、操舵手からイエーガー、完了]と内耳モニターに入れる。



 それを合図にアルファーは構(かま)えていたクロスボウの弓を引き始め、狙う。要の[射(て)っ!]の号令と同時に総員は撃(う)ち放つ。




 キラ星の如(ごと)く舞い上がった矢先を見上げた要は、上手く着地してくれと祈る。平安で居られるくらいに、陽気(ようき)に笑っていられるほどに、親鳥から巣立ちするかのように幾度(いくど)も、訓練を重(かさ)ねたはずなのにそう願う。




 小型落下傘(こがたらっかさん)が頂点で開く。強化プラスチックフックが黒のクライミング用のロープを引きながら、ふわりと次々に5つ着底してゆく。




 アルファーはロープを手繰(たぐ)りよせてデッキの縁(ふち)にフックを掛け、ロープにジャンプして取りつき、腕力で引きながら身体を浮き上がらせ、四肢(しし)を後ろに反(そ)らして弾(はず)みをつけ、高さ24mの船壁に足裏から着地して二足歩行で登り始める。




 先陣(せんじん)の要がデッキに上がる。闇に身を沈めてFN F2000アサルトライフルを構え、周辺警戒しながら勢員がデッキに上がり、散開(さんかい)するのを待った。




 各自から「了」と入って陣形が整うと、要は“ 離脱” の手信号を操舵手に送る。




 手信号を見た操舵手は高速艇を見事に操(あやつ)り、迅速(じんそく)に貨物船から離れてゆく。



 トーキーのそばに移動した要はリュックを下ろして手渡し、受け取ったトーキーはそのリュックを左肩にかけてグロッグ26を構(かま)え、ヘリポートを目指して闇へと進む。その後ろ姿を見送りながら要は思う。“すまない。お前に負荷(ふたん)が掛かる作戦だ。魚は欲しいが、濡れずにいてくれ”と願う。




 残るアルファー4人は闇(やみ)に沈んで、トーキーからの通信を待つ。




 ヘリポート近くに陣取ったトーキーは左肩と背中からリュックを下ろし、弟と組み上げた熱源探知・暗視カメラ付き対人探索(たいじんたんさく)ドローン、PC、高感度アンテナを取り出してセットする。パソコンを起動させたトーキーは[送る。トーキーからイエーガー。これより作戦行動に入ります]と入れ、要から[了]と入るや、ドローンを飛ばす。



  貨物船の側面を一周させる。




 ドローンが収集したデータを見ながらトーキーは[送る。トーキーから総員。操舵室に2人、船室の1、3、4の3室に1人ずつ、3人ともベットで就寝(しゅうしん)、体格から見て全員、男。なお、船倉の最高層(さいこうそう)に人数不確定ながら熱源あり]と入れた。




 [了]と返した要は頭に刻んだ貨物船の見取り図を見ながら、推測通り、富士子の監禁場所は船倉(せんそう)と判断し、[送る。イエーガーから総員に告ぐ。作戦通り、A3ドア前に集結(しゅうけつ)]と入れ、散開(さんかい)していたアルファーは進行を開始した。影が動くかのように静かだ。




 A3ドア前に右膝(みぎひざ)を突いた要は、左手をノブにかけた。




 要に背を向けて同じく膝(ひざ)を突き、3方向に展開しているフレミング、ファイター、チャンスはFN F2000を構(かま)え、周囲を警戒していた。




 要はハッチを微(わず)かに開け、船内を探(さぐ)る。明かりは非常灯のみ、物音一つしなかった。




 要はバイザー画面でドローンの位置を確認する。ドローンは要の真上にいた。身をずらしてハッチをゆっくりと、大きく開けながら要は[送る、イエーガーからトーキー、goだ] と指示する。




 無音のドローンが闇夜に出現(しゅつげん)し、船内に潜入してゆく。要はハッチを音もなく閉め、アルファーはドローンからの情報を待つ。




 [送る。トーキーから総員。人影ありません]と内耳モニターに入り、[了]と応えた要を先頭にアルファーは清流(せいりゅう)の如(ごと)く、船内に侵入した。




 廊下に出る角で立ち止まった要は左右を警戒して左折し、その後をチャンス、フレミングと続き、しんがりのファイターは後方を警戒しながらの後ろ歩きだ。




 船倉へと続く階段を目指して、アルファーはドローンと共に進行(しんこう)する。




 [送る。トーキーから総員、15m先、地下エンジンルームの階段から2人上がって来ます]と入り、アルファーとドローンはその場から散った。




 要はチャンスと共にカラの船室に身を隠しつつ[イエーガーから総員、チャンスと対処(たいしょ)する]と入れ、歩いてくる船員2人が通り過ぎるのを待つ。チャンスの横顔を見ていた要は声にせず“go “と声にせず口だけを動かし、頷(うなず)いたチャンスと共に音もなく船員の背後から同時にとりつき、左腕を首に絡(から)ませ、神速ので右手を船員の側頭部(そくとうぶ)にあて、左腕を支点にしてあらぬ方向に遠慮なく、捻(ね)じ曲げて頸椎(けいつい)をへし折った。




 死体を船室に引きずり入れながら要は[送る。イエーガーから総員、two down]と通信を入れ退室した。廊下にフレミングとファイター、ドローンが姿を現し、アルファーは進行を再開する。300メートルほど進んで階段の踊り場に身を潜(ひそ)め、ドローンは先行して地下へと潜(もぐ)ってゆく。




 [送る。トーキーから総員、船倉の最高層部(さいこうそうぶ)ドア2 番の正面20メートル先に、富士子の発信機信号を確認。意識レベルモニターの信号もあります。敵、入り口左手の第4隔壁(かくへき)付近(ふきん)に3。装備(そうび)マシンガン、小型拳銃、アーミーナイフ。右手の管理室前に1、装備同様。管理室内に3、装備不明]とドローンが映し出す映像を見ているトーキーから敵の配置、装備の情報が入る。




 要がチャンスにうなずく。チャンスは退路(たいろ)となるこの場に1人留(ひとりとど)まり、この場所を死守(ししゅ)するのだ。



 [送る。イエーガーから総員。これよりイエーガー、フレミング、ファイターの順で船倉・最高層部(さいこうそうぶ)に潜入(せんにゅう)する。最優先は対象者の救出。トーキー、6分後にステルスヘリを着艦させろ]と要は指示を飛ばした。




 トーキーからの[了]の返信を待ち、要は上げていた右手を前後に振り、暗い階段を一気に下(くだ)る。




 床まであと3段というところで、手すりにバインダーで取り付けられた赤い非常灯が照(て)らす赤いハッチを見た途端(とたん)、要の脳内で警告音が鳴る。間髪入(かんぱついれ)れず、要は握りしめた左拳をかざした。




 フレミングとファイターが音もなく立ち止まる。




 要は慎重に進み出てトラップを確認する。ハッチのドア下にワイヤーがあり、手榴弾に繋(つな)がっていた。要は解除(かいじょ)しながら、わざわざ非常灯で照らした手法に舐(な)められたもんだと、スパルタンが仕掛けたと、クソッタレがと確信した。



 いつまでも、どこまでも、自分のやり方を押し通す奴だと、スパルタンの怠慢(たいまん)とも言える進歩のなさに要は怒りさえ覚え、こんな幼稚な奴に育てられたのかと思えば、余計腹立たしい。




 全ての戦闘技術は、日進月歩している。




 その技術も知らず、磨かず、拉致作戦を指揮し、海上警備もおかず、自己主張の爆弾を仕掛ける愚か者と、吹き上がる要の感情に青火が着火した。解除したワイアーと手榴弾を注意深く左側の角におき、起爆しても影響が無いよう、左の腰にあるバックパックから防弾シートを取り出して包(つつ)む。




 一層(いっそう)、蒼さを増した目で要は振り返り、フレミングとファイターにうなずく。ハッチドア前で左膝を突いた要は落ち着けと念(ねん)じて炎心(えんしん)を消し去り、わずかにハッチを開けて内部を探(さぐ)る。



 嗅覚に訴える女(ひと)は正面にいた。要はハッチを閉め、背後にいるフレミングとファイターに手早い手信号で富士子の位置を知らせる。



 2人が頷(うなず)く。



 ふたたび要はファイターは左側面に居る敵の陽動(ようどう)、自分とフレミングは富士子の元に走ると、手信号を送る。



 フレミングとファイターが深く頷く。




 要は手信号で3で突入すると伝え、2人が頷くと前を向き、立ち上がってドアノブに左手を掛け[送る。イエーガーから総員、これより突入する。3、2、1、]とカウントし、ドアを大きく開けて全力で走り出た。




 一歩ふみ出したフレミングは、富士子の姿を見て立ち止まってしまう。



 ファイターは躊躇(ちゅうちょ)なくフレミングの前をすり抜け、一気に突入して左側面に走りながら、F2000を連射させてワンダウンし、木箱の影に取り付くや、残る敵2人と銃撃戦に入った。




 常夜灯の赤い光が照らし出す絶望的な富士子を、目指して要は疾走する。




 走りながら、富士子の様子を確認する。




 足元に着弾するが気にも止めない。それを見たフレミングは我に返り、要を狙う敵を射殺した。




 走りながら要は左膝(ひだりひざ)を鉄床に付き、スライディングして富士子の左側に取り付き、左手のF2000を下ろしながら右手をバックパックに入れ、小型ペンチを取り出して富士子の左手首を左手で支え、壁のフックに掛けられた手錠の鎖(くさり)を切断するや[送る。イエーガーから総員。富士子確保。生存確認]と入れ、左手で支えている富士子の左手首が傷ついているのに気づき親指で撫(な)でると、薄皮が剥(は)がれて血膿がドロリと流れ出た。「チッ」と作戦進行中にもかかわらず、舌打ちする要。




 左手首の手錠を見ると、内側が鋭利(えいり)に削(けず)られていた。その陰湿(いんしつ)な行為に要の怒りは一気に頂点越えし、心情の奥底で種火と化していた青火が一気に燃え盛(さか)った。




 富士子に語りかけるが無反応だった。反応の無さに不安を感じた要は富士子の顎(あご)を、右手でやんわりと掴(つか)んで自分に顔を向けさせて、富士子の目を覗(の)き込む。




 富士子の瞳は闇の空洞(くうどう)でその瞳を見た瞬間、要の脳でけたたましく警戒音が鳴った。氷点下の寒気に襲われて要の全身が総毛立(そうけだ)つ。「フレミング!!!!」と叫んだ要は、即座(そくざ)にその場を開けて宗弥と入れ替わった。




 富士子に背を向けてF2000を構えた要は、富士子の瞳に、富士子の酩酊(めいてい)に、大人しくさせておく程度をはるかに超(こ)えた薬物使用を確信し、心に青き鬼火を宿(やど)す。




 負傷の度合(どあ)いを確認したフレミングが「イエーガー!了!」と怒涛(どとう)の声を上げ、要は「撤収(てっしゅう)!!!」と発(はっ)す。




 次の瞬間、要の視界の先に中腰のBに続いてサヤが現れ、要の姿を見たサヤはBを左側に蹴(け)り飛ばし、自分と要の間にBを入れて素早くきびすを返した。[イエーガー!正面に火器あり!!]とトーキーが叫ぶ。




 要の目は視界の右隅(みぎすみ)に、動く何かを捉(とら)える。




 キャップ帽の男がグロックを構(かま)え、赤線ポインターで狙いを定めようとしていた。その赤き線の角度から要は富士子を狙っていると感知し「潜り込まれた。ダイブして突っ込む!!!」と発するや、男は引き金を引く動作に入り、要はF2000を連射させながら狙いを定めたシャチの如く、男へと突入する。



 その要を、カッと見開いたフレミングとファイターの目が追う。



 物陰(ものかげ)に伏(ふ)せて銃弾をかわした男に、要は身体を覆(おお)いかぶせ、男の視界から富士子を隠した。その直後、右胸部と腹部中央に2発喰らう。




 銃声を聞いたフレミングは富士子を肩車して身体を翻(ひるがえ)し、ファイターは木箱の影からF2000を乱射させながら、捨て身で走り出て富士子の盾となる。




 凶弾を受けた要の身体から、力が抜けゆく。それでも要は全霊を振り絞(しぼ)り、男の両肩に左右の腕を巻き付けて首だけそらして男の顔を見た。



 スパルタンだった。



 スパルタンは要だとわかるや、ぬるりと薄く口を開けて笑い、要に抱(かか)え込まれたまま再び富士子を狙う。



 スパルタンを力の限りで押さえ込んだ要は[ありがとう、もう平気だ、ありがとう、行け、行ってくれ]と言い残す。待っていたかの様(よう)にスパルタンは撃ち込んだ。




 要の意識が飛ぶ。




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