要編 57 コロンブスの怒り
シーン57 コロンブスの怒り
本陣は富士子捜索を最優先においた。要の報告を受けたコロンブスの怒りは、軽々と頂点越えし、その憤怒は青白い炎となって、コロンブスの鋭利な脳を、より尖らせる結果となった。
怒涛のコロンブスは、海魔が猛るが如く、陣頭指揮を振るう。しかし、富士子の発信機電波は三芳パーキングで突如途絶し、本陣とアルファーは富士子の行方を見失った。
即刻のコロンブスは、樽太郎に付けたシータチームに監視強化を指示し、周辺地図を検討し、己の閃きを信じ、通信士官に命じて、即時に新潟港の無線電波をジャックさせ、管轄海域を守る海上保安庁、警察庁、警視庁との調整が整うのを待たず、不屈の精神力で全てを押し通す。
新潟分屯地基地に入ったアルファーに、翌日、情報を手にした不眠不休のコロンブスは、秘匿衛星を経由させた通話を入れる。
「本日、12:47(ヒトニーヨンナナ)、高速艇がカゴ網の縄を切ったと、港湾事務所に連絡する無線を傍受した。その状況を鑑み、直ちに我々は監視衛星を使って、この高速艇の捜索を開始し、富士子発見に至った。現在、富士子とサヤ、操舵していた男は、高速艇から貨物船に乗り換えている。だが、もう一艇に乗船していたスパルタンとB、他3名の男の行方は未だ掴めていない」とコロンブスが言ったところで、要は配属以来、初めてコロンブスの話を遮り、意見具申した。
「貨物船を監視している衛星のアクセス権限を、アルファーにも頂けないでしょうか?」と。
コロンブスはそう言ってくるだろうと思ってはいた。猟兵の名を持つ男なのだから・・しかし・・とも思う。それでも「米国と共同運行している軍事衛星だ。機密事項も含まれている。取り扱いは慎重を期する。心せよ」と許可する。「感謝します」要は意思ある声で発し、「承知しました」トーキーとターキーは同調してピリリと応え、その声を耳にしたコロンブスは寸秒、黙った。
そして「お前たちに機密などとすまなかった。アクセスコードを送らせる。以上だ」コロンブスはそう言って通信を遮断する。
通信士官の後ろに立ったコロンブスは、今し方の自分を“ 老兵の老婆心“と密かに思う。その思いに胸を突かれ“ 引退“ の2文字が脳裏に浮かんだ。守りは停滞を呼び、恐れは行動を鈍化させる。影として生きる者たちに機密を求めるとは・・・歳を取ったということだろうか。
これ以降、コロンブスは収集した情報を、自分の元に一極集中させた。この行為は越権ギリギリであったが、コロンブスは敢えて、攻めの態勢を自己に課す為にそうした。そして掴んだ報告を自ら、随時、惜しみなくアルファーに渡す。
コロンブスは不覚の波がうねりを上げた時、全てをかぶり、責任をとって討ち死にする気だ。老兵といえども自分の使い道は、己で定めると気概のコロンブスがいる。