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国守の愛 第2章 群青の人・イエーガー   作者: 國生さゆり


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50/78

要編  50 コロンブス姿を表す



  シーン50 コロンブス姿を現す




 監視病室前に到着した要はドアを開け、PCシステムの前に座るトーキーに右手の人差し指を国男の病室方向にかざし、素早く揃(そろ)えた5本の指を喉元に向けるなり、左右に振る。




 うなずく、トーキー。




 国男の病室に仕掛けた盗聴器と監視カメラをOFFにする指示だった。コロンブスの声、姿、行動を、たとえチームのPCであろうが、なんだろうが、残すわけにはいかない。




 ドアを閉め、国男の病室ドア前で警備に立っているファイターの元に歩み寄りながら、スマホを取り出してメモアプリにメッセージを打つ。




 ”預けたUSBをベータの大男ゾロに渡して欲しい。明日19:30に富士子さんと病院正面玄関で待ち合わせをした。その後、ハイアットホテルに隣接されている映画館に行く予定だ。タイミングは僕らを監視しているお前に任(まか)せる。ベータの工作完了後、僕に連絡を入れて欲しい”そう書き込んだメモをファイターに見せる。読んだファイターは、霜(しも)が降りるような視線で要の顔を見ると微(かす)かにうなずく。メモを消去して、ファイターと同じ姿勢を取ってファイターの左隣に立った。




 エレベーターホールから続く廊下に、5人の男達が音もなく姿を現(あらわ)した。その内の1人は国男の事故現場に、事態収拾(じたいしゅうしゅう)のために派遣(はけん)されていた男だった。要もファイターもこの男を覚えていた。



 コロンブスは4人の男に囲まれ、その中央を歩いている。コロンブスの足取りは風格と自信に満ちたもので、その姿は要とファイターの起立した背筋をなお、自然と引きしめさせるものだった。



 一団が病室のドア前に到着する。コロンブスの前にいた男2人は後ろへとさがり、コロンブスは「任務ご苦労。急な訪問ですまない」と要たちに声を掛け、前方に視線を向けたままの要とファイターは「はっ!とんでもありません」と同調して返す。



 コロンブスは「イエーガー、同席してくれ」と言うと、要の返事を待たずにドアをノックした。「どうぞ」室内からバリトンの、国男の声を聞き取った要はドアを開ける。




 一団に続いて入室した要はドアを閉めてその場にとどまり、急な来訪を決めたコロンブスの考えは⁈と思考してはみるが思いつかず、わからず、で、もどかしくも前を向き考える。コロンブスと国男はさっきまで通話していた。話はまとまったんじゃないのか⁈ あとの細(こまごま)々、諸(もろもろ)々等々は、我々アルファーとベータで済む話だ。と。



 なぜ、コロンブスはわざわざ足を運んだ⁈

 なぜ、顔を晒(さら)してまで、国男と向き合う⁈




 陸上自衛隊・部隊長 丹生誠司とだけ記した名刺をコロンブスは国男と交換し、ベットの、枕元に近くにおいてあった椅子を引き寄せて座った。事故現場で収拾(しゅうしゅう)にあたった男は、廊下側の壁沿(かべぞ)いにある椅子を自ら移動させてコロンブスの左側に置いて座り、他の3人は廊下側に並んだ椅子に腰を下(お)ろした。


 場が落ち着くやコロンブスが話し出す。



 「お嬢様と浮子さんの安全は必ずお約束致します。我々はすでに富士子さんの警護中、死亡者一名、所在不明者一名を出しております。ドア前に立っている男は数日前、お嬢様の警護中に強襲(きょうしゅう)を受けて右脇腹を負傷しました。事の深刻さがお分かりでしょうか」とコロンブスから聞いた国男は息を呑み、しばらく見開いた目でコロンブスを見つめ、瞬きを忘れた驚愕の視線を要に送った。その目の動きはどこか緩慢で鋭敏を誇る国男らしくはなかった。その視線を受け止めた要は体の前で両手を組み、意志ある背を保(たも)ちつつ前を見捉(す)えたままだった。



 コロンブスは、国男の視線が自分に戻るのを待つ。

 国男がコロンブスを見る。

 コロンブスは話を再開する。




 「お伝えしました通り、敵の脅威が迫っております。会長が事故に遭われた時も我々は全力で収拾にあたりました」とコロンブスが言うと、国男は「承知しております」不機嫌さが香る重々しい声で返し、コロンブスは「では、ゼネラル ダイナミックス社ロバート・ゼロと身分を偽(いつわ)ったアメリカ情報士官に、会長がお渡しになろうとしていた物について会長自らお話しいただけますか?」コロンブスはゾッとするような低音だが、品位ある声で国男を正(ただ)した。



 国男は「詳しくは移送先で弁護士同伴の元でにさせてください。ですが、ゼロ氏がアメリカ情報士官だとは私は知らなかった。初耳です。それに渡そうとした物は液体デイバイスでも、その資料でもありません」太く低音の効いた声で応(こた)える。



 では、なんだ⁈ と要は思う。

 なぜ、コロンブス達は平然としている⁈

 


 何か、僕らに下(お)りて来ていない情報がある。

 一時の静寂(せいじゃく)が流れ、皆が沈黙している中、国男は「富士子の血液サンプルです」と告げた。

 えっ、と僕は声を上げそうになった。

 アメリカがなぜ、富士子の血液を欲しがる⁈



 何かが、密(ひそ)かに進行している。

 鼓動がドキリと跳ねた。

 身の危険に関わることが、富士子にはもう一つあるという事か!!!



 事故収拾にあたった男が「奥様は微生物の生物学者でらした。とある国の亜熱帯地域にいらしたおり、人には感染しないと思われていたウイルスが原因で奥様は亡くなられたと、今回の身辺調査で判明(はんめい)しております。現地にいらした時すでに、奥様は富士子さんをお腹に宿(やど)していらっしゃったという事と、今回のアメリカ情報士官の接触には、何か関係あるとお思いでしょうか?」と聞く。




 「妊娠していると知っていたら、行かせなかった」男の話を被(かぶ)せるようにして遮(さえぎ)った国男は呪詛(じゅそ)するようにそう言い、鋭い目でコロンブスを見るや「妻は帰国してすぐに発症しました。最初は結膜炎だと診断されましたが3ヶ月ごとに発病を繰り返し、その度(たび)に視力が乏(とぼ)しくなっていき、最後は血の涙を流しながら亡くなりました。その原因を知りたいと思うのがそんなにいけない事ですか。私は国家を裏切るようなことはしていない。今回の接触の件は誰も知らなかった」サビを帯(お)びたような、ギスギスとする重い声で国男がふり絞る。



 その言いように踏み込みすぎたとかぎ取った男は迅速に「立ち入ったことでした。申し訳ございません」と真摯(しんし)に謝罪する。




 今の話と全く違う内容の富士子の母・久美子の死亡原因を記した資料が、本陣からアルファーに下(お)りていた。富士子はこの事実を知っているのだろうか・・・・知らない。国男の口ぶりから要はそう判断する。




 敵は赤いジュラルミンケースの中身を液体デイバイスの資料と勘違いして、国男を襲撃したのか、間抜けめ!!末端(まったん)の工作員が富士子の血液のことなど知る術(すべ)も、手段(しゅだん)もあるはずがない。では、工作員に指示した人物はなぜ液体デイバイス資料と勘違いした⁈・・・国男の動向(どうこう)を漏(も)らした人物も勘違いしたということなのか・・。国男はこの件は誰も知らないと言った・・・国男を見ていただけ、監視していただけの人物が、工作チームの情報源というのか、、、。




 母・久美子の死の理由とその経緯を知っている本陣はどこからその情報を掘り出した⁈ トーキーたちに探(さぐ)らせるか・・・。本陣からの説明を待つか・・・。自分を室内に入れたという事は・・コロンブスからの説明があるということか・・・。




 思考する要の内耳モニターに[送る。トーキーからイエーガー、樽太郎さん病院前に到着。エレベーターをコントロールして時間を作ります。病室到着まで約13分]と入る。「お話し中、申し訳ございません」と言いながらコロンブスの背後に要は進み出て、耳元に顔を寄せ「素水樽太郎氏、現着。病室到着まで12分」と小声で告げ、気配を消して元の場所に戻る。




 コロンブスは国男を特有の観察眼でしばらく見たあと「いずれにしても先ほどご説明しました通り、ご家族で我々の用意した場所に、しばらく移動していただきたいと考えております。異論(いろん)はないでしょうか?」とアクセントの無い声で国男に聞く。




 その声色を聞き、コロンブスの本能は国男に対して警告音を鳴らさなかったと要は悟る。

 


 国男の言ったことは、真実だという事で

 赤いジュラルミンケースの中身は、富士子の血液だ。



 アメリカは、それをなんに使う気だ⁈



 「構(かま)いません。宜しくお願い致します。富士子と浮子には私から伝えます」国男はバリトンのきいた声で応(こた)え、威厳(いげん)を持って頭を下げる。



 「承知いたしました」と返事したコロンブスは立ち上がり、同時に椅子に座っていた4人の男達も席を立つ。コロンブスは「それでは、これで失礼致します。ご理解いただきました事に感謝いたします」と言って鉄の背を折った。コロンブスと共通する背を持つ男たち6人もピシリと頭を下げる。



 5月の青い風のように、コロンブス一団は非常階段を使って立ち去った。



 要は、後方の監視病室に戻る。



 トーキーから手渡されたヘッドフォンインカムを装着しながら「開けてくれ」と言い、監視カメラと盗聴器の再開を指示した。廊下からバタバタと足音が聞こえ始め、要はTVモニターに視線を移す。




 ファイターがドアをノックする音と同時に、開け放たれたドアから入室した樽太郎が映し出され「会長!お一人での面談は困ります!」と声を張り、樽太郎はベットに、国男に、詰め寄った。「間に合うと思っていたんだよ。そうは行かなかったようだな。相手が一枚上手(いちまいうわて)だった。すまない」呑気(のんき)な口調でそう応(こた)えた国男が悠然(ゆうぜん)と笑う。




 その一部始終を要はTVモニター越しに見ていた。6人の男相手に気の張る会話だったはずの国男が樽太郎に心配を掛けぬよう、気遣(きづか)いした様子に要は尊敬(そんけい)を抱(いだ)く。



 流石(さすが)です、と。





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