要編 47 ミーティング
シーン47 ミーティング
総員で朝食を摂りながら、秘匿衛星で中継された本陣コロンブスとその側近生田も参加するミーティングを行い、意見を出し尽くした後、今後の指針を決めた。
その間、宗弥は膝を揺り、落ち着かない様子をみせる。どうしたと思い、顔を見るが気づいているはずの宗弥は僕と目線を合わせない。盾石家の今後を思い、落ち着かないのか。
ミーティング後、強襲後の報告書素案を3パターン書く。あとは本陣が強襲の結果次第で、素案をジグソーパズルのように繋ぎ合わせれば良いだけにして、本陣に暗号送信する。
どうして先に書くかって?事と次第によっては、書けないかもしれないからさ。
その間、トーキーとターキーは見事なユニゾンプレーでパソコンを操り、駅構内の監視カメラ映像から、襲撃者であろう一人を割り出す。本陣技術局に報告を入れると、同じ人物に注目していた。本陣はこの人物の追尾を開始していた。
ファイターとチャンスは全員の戦闘服の手入れをした後、ドア、窓、壁に対応可能な小型プラスチック爆弾を製作していた。チャンスの興味はガンの掃除から、爆弾製作に移るかもしれない。楽しげだ。
宗弥はスマホで誰かと話しながら、保管してあった紙資料を根こそぎ破棄していた。
誰と話をしていたんだろうか・・。
詮索したくはないが、深刻な顔つきが気になる。
何かあれば宗弥から相談してくるだろう・・・待つしかないか。
12:15、要、ファイター、トーキーはmapを出て、13:00から富士子の警護監視をベータチームから引き継いだ。
富士子の来院に伴い、監視病室に入室する。
ベータチームが、4人も待機していた。
PC機器前のソファーに座っていたベータ長・サラマンダーは、疲れた顔に微笑を浮かべて立ち上がり「パスワード入力で失敗して自爆した。認証コードが俺のメールアドレスだったとは、この野郎」と笑う。
今日の笑顔は、おじさん臭い。
トーキーを見ると、ベータチームの技術担当者Dと仁王立ちで睨み合っていた。トーキーが「勝手にうちのファイルをいじるな。お前だって、自分のチームのものに手を出されるのは嫌だろう、D」と言い、「情報共有しないからだろうが」とD、「本陣に提出している」とターキー、「お前たちアルファーとうちは今、一つの任務を担ってる一つのチームだ」とD、「確かにそうだが、黙って勝手にとは話が違う」とトーキー。
その様子を見ていた僕にサラマンダーが「なあ、こっちは異常なしだ。そっちは?」2人の諍いを諌めるでもなく聞く。
朝のミーティングで決定した事項を「コロンブスから一報あると思いますが」と前置きして伝えた。
「了解した。俺からも本陣に意見書を上げておく。と、なるとお前は、白梅と残り1〜2日のランデブーだな」と言ったサラマンダーはニヤリと笑い、僕は「仰っている意味がよくわかりませんが。自分は5日もすれば、暖かい国のどこかのビーチで、マティーニです」と応えてやる。
全く、この人は。
聞いたサラマンダーは「いいな。俺たちはどこか多分、軽井沢だけど、白梅を鑑賞しながらアイスクリームだよ」とニヒルに笑い、僕の反応に観察眼を向ける。
僕が白け顔を向けると、サラマンダーも飽きたような表情で僕を見返して「D、行こうか」と声を掛け、ベータ要員を2人残して引き上げて行った。
その20分後、本陣調整局から国男の転院先の施設、警備体制、余剰人員案が、暗号通信メールで着信した。それに加え、5分前に、本陣情報局が各国の情報機関から提供された今回の工作に類似する未解決事案を、同じく暗号通信で送ってきた。
情報の嵐だ。
事が収まる前、何事も旋風が吹く。
その風向きを上手く読み、トーキーは解読した2つの暗号通信を、二分割させたPC画面に刻々と打ち込んでゆき、同時にアルファー総員にも配信していた。
調整局からメールが着信したのと同時に僕はチャンスに指示して、病院近くに車両を停め、Dが解読して読み上げているはずのメール内容を、聞いているはずのサラマンダーの意向を聞きに行かせた。いわゆるお伺いという名の偵察だ。勝手に動かれても、通信されても統制が取れなくなってしまう。ただ迷惑なだけだ。
トーキーの後ろに立ち、画面を読んでいると、病室に居るベータ2人にもDから連絡が入ったようで、スマホを凝視し始めた。
ファイターは国男の病室前で警護に就き、mapから監視病室に直行した宗弥は今、西浜医師のオフィスにこのあと行われる国男達への病状説明を、先に聞きに行っていた。
またしても、宗弥とすれ違いだ。
ふと、視線を上げてTVモニターを見ると、ベッドで上半身を起こした国男は、近くに椅子をおき座っている樽太郎と、顔を近づけてヒソヒソと話しをしていた。
首にかけてあるインカムヘッドフォンを装着して、2人の会話を聞く。
内容は、国から依頼を受けて国男が行っているスコットランド、エディンバラの土地買収の打ち合わせだった。イギリスのEU離脱を受け、貿易の発展が見込まれるエディンバラに、イギリス側の手段、交通、法律の整備が整う前に、日本の拠点を築いておこうという計画だ。
国男は負傷の治りも早く、貪欲に仕事を行う気力を取り戻していた。尋常ではないバイタリティだ。椅子に座った富士子の後ろ姿に、視線を移す。
身動き一つせず、“蜂蜜と遠雷“を読み耽っていた。
宗弥にススメられて発刊まもない頃、僕は読んだ。登場人物の奏でる音の違いを、巧みに表現した文章に音が見えようだと感激し、2日で読み終わるほどに熱中した本だった。
懐かしい思い出の一冊。
富士子が手にしているのが単行本ではなく、文庫本なのも好ましい。
今この本を再読するとしたら、自分もまた文庫本でだ。
海外で、手に入るだろうか・・・・。
やはりこの女性はと、今更ながらに思う。
職業倫理からではなく“ お任せください。あなたを守り切ります“と内心で呟く。
このあと富士子のスマホを口実にして僕は病室を訪れ、場が整えば国男に自分の正体を明かす予定だ。その後はあくまで、国男の意思に任せる。
朝のミーティング以降、この任務に準ずると僕は整い、腹にストンと落ちた気持ちは平穏だ。
お任せを富士子さん。必ず無事に任務完遂いたします。




